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特になし 読書メモ

最近読んだ本などについて~読書メモ(024)

投稿日:2018年12月16日 更新日:

  • 「読書メモ」~(24)
  • 読んだ新書について
  • ゾンビランドサガについて少し
  • おススメ度:特になし

斉藤美奈子『日本の同時代小説』(岩波新書)を読んだ。だいたいにおいて、予想通りの内容だった。その内容とは、1960年代から2010年代までにおける、文学(純文学)と一部のエンタメ系文学の流れを簡単にみていくというもの。よく目配りはきいているし、それなりにうまくまとめているちょっとした労作だが、いかんせんこの分量ですべての内容を詳しくみていくことはできないので、作品読解に狭量で浅い面が一部見受けられる。それと、掲載作品執筆時の時代的な要請からその文学作品制作者の執筆動機をみていきながらそれらをカテゴリー化するという少しムリヤリな面も見られないわけではない。

ある程度の(著者の)バイアスのある文学史の見取り図で、それに加えて、文学作品を通しての日本社会変遷や時代世相のあり方を、簡単なあらすじや解説付きで見ていく。なので、日本の文学をほとんど知らない人に向けてはそれなりの案内役は果たせそうではある(まあ、私がこういったものを書けと言われてもメンドイ/ムリなので、その点は評価できる)。しかし、エンタメ系文学や一部の文学で取り上げられない(無視されてる?)作家もいるが、それはこういった(ある程度のまとめ的な)新書の性格からして仕方のないことだと思われる。

しかし、しかしである。私はある程度の文学についての知識を持っているので、別にこれを読んでもなんとも思わないが、全く文学を知らない人が本書を読んでも、「日本の文学っておもしろそう」と思う人はおそらくあまりいないのではないかと思う(偏見)。まあ、そもそも文学に興味のない人はこんなものは読まないだろう(エンタメ系はともかく)。さらに言うと、ふつうの人が本書を読んだら、「これって、数行で分かる文学案内だからここに取り上げられた作品は別に読まなくていいんじゃね」となることうけあいである。どういうことかというと、ウィキペディアに毛が生えたようなレベルの情報を貼っつけただけと言われても仕方ない部分はある。でも、本書を読めば、もしかしたら「これはおもしろそう」と思う読者もいないわけでもないだろう。まあ、そこら辺の「まとめ記事」よりかは存外オモシロく読めるとは思う。

私はこれを読み終わって、気が滅入った。エンタメ系文学はともかく、純文学やそれに類する文学に対する明るい展望が全く見えない。本書最後の方は、震災後(原発事故後)の日本の状況を取り入れた「ディストピア小説」の乱造について述べられているところが、なんとなく文学の(出来における)先行き的に暗い感じしか受けなかった。私はそれらをほとんど読んだことがなくて、本書の簡単解説を読む限りでは読む必要を感じない。また、全体主義的な国家に乗っ取られた状況を書いた作品も多く出版されたが、それらも大したことはなさそう(私が読んだものもいれると)。例えば、田中慎弥『宰相A』(Amazon)の本書による解説を読むだけで、その内容は知れるしおそらくそれを読んでもたいした感動は覚えなさそう。というか、『宰相A』って、コードギアスの物語構造的な縮小劣化版じゃないかと本書の内容解説を読んでそう思った。今更だが、もう、漫画などに想像力で負けてるんじゃないか、文学は(文学がおもしろくなさそうに思えてしまう)。

私は(日本)文学が好きなので、新旧を問わずこれからも読んでいきたい。そういう点で、本書はそれなりに役に立った。しかし、ひとつだけ引っかかった箇所があった。斉藤美奈子は『日本の同時代小説』で、男の書く(純)文学的私小説を、ヤワでときにインテリでもあるヤローどものするウダウダ話や貧乏自慢といったように形容することがたまにある。まあそれはいいとして、斉藤は戦前という広い範囲でのプロレタリア文学は「ヤワなインテリ文学」の一種ではないかといい、「労働者の実態を活写した戦前の作品」では、横山源之助『日本の下層社会』(Amazon)といったノンフィクションの方が「はるかに優れていた」という。しかしである。松沢裕作『生きづらい明治社会』(岩波ジュニア新書(Amazon))を読むと、『日本の下層社会』や(とくに)松原岩五郎『最暗黒の東京』(Amazon)は、そういったルポルタージュが、「大手のジャーナリズムが都市貧民窟に潜入して、上から目線でおもしろおかしく都市下層民の実態を暴きだしただけで、そこには『格差』への目配りがなかったのでないか」といったように書かれていて、さらにそのことに注意を向けるように書かれている。はたして斉藤が、どのような意味で「優れていた」というのか分かりませんが、客観的なものを書くという意味において、その当時としては、「格差」への目配りには限度があったかもしれない。どういうことかというと、現在と明治期との格差社会のありようにおいて、それらを単純に比較することには留保しなければならない。

ところで、この『生きづらい明治社会』という本は、中高生以上向けのものなのだが、よくできた新書だ。どういう意味かというと、こういった一般的な歴史関係の新書にありがちな、「過去の出来事と現在のそれとを比較して相似的な部分を見つけて、そのことによって現在の(憂慮すべき)情勢を学んでいこう」という単純で安直な再帰的ともいえる図式化に対してある程度抑制的で、また、そのようなことを書く時においてもなるべく単純化しないように慎重に書いていくという、かなり(?)めずらしく自覚的な書き手であるように思う。そこにある程度好感が持てる。そういった意味合いにおいて、『日本の同時代小説』から読みとれる現在の小説の書き手にはイマイチ感しかない。憂慮すべき情勢を煽ることだけが小説家の第一義的な仕事ではないだろう。このことは『日本の同時代小説』にも書かれているが、これからの小説家には大きな枠組みと同時に小さくて繊細な目線を持ってほしいところ(多分してると思うが)。

【余談】

さて、アニメのゾンビランドサガ(Amazon/Blu-Ray)は佳境に入ってきた。9話では、「鹿島踊り」という架空の(?)踊りがあったが、これは一瞬ガルパンのアンコウ踊りかと思った。それにしても、昔のよう形のレディースって今もあるとしたら、ここだけ時代錯誤感がない。つーか、あのたまごっち推しはなんだろう。あの時代はケータイ(PHS)あったけどなぁ。10話では、アイドルアニメにありがちな謎の雪山修行(もののけ姫とかタイガーマスク的な部分もあり)で時間潰しした後、後半はいよいよ話は主人公にうつることを思わせた。

ところで、『日本の同時代小説』を読んでいて、このゾンビランドサガは、ふたつの大きな震災(を含むいくつかの災害に見舞われた)後の日本をあらわしたものではないかとの妄想が働いた。高齢化率が非常に高くなった佐賀は日本そのものだし、突然の「死」に見舞われた登場人物たちは災害で突然災厄に見舞われた人たちのことかもしれない。彼女たちは佐賀(日本)を元気づけるためにネクロマンサーに呼びさまされたわけであり、どことなくこの前読んだ『ペット・セマタリー』を思い出す。その中で、伝説のたえさんには人格がないように見えるが、これは震災によって失われた記憶そのものを示し、たえさんが訴えようとしてコトバにできないのは、残された日本人の記憶がまだ災厄自体を対象化できていないことなのかもしれない。そうしてこのアニメ的に、最終的に目指される場は、現在の佐賀(日本)の状況を救うために一度死んだ者(震災関連死の死者)たちがよみがえらされ、過去と未来とをつなぎとめることのできる所かもしれない。アイドルということで、やはり目指すはあの地だろうか(どうかは分からない)。

※[追記]
ゾンビランドサガの最新話を観た。たえさんのことはよく分からないまま終わるのだろうか(まさか、中の人的に、セー○ー戦士的な伝説?)。それとも、劇場版に続く、とか言わないでね。グラサン野郎の知り合いらしきバーのマスターも出てきた。このバーは、以前の話にも出てきたように徐福からとった名前のようだが、もしかしてあのおっさんが徐福、なわけないか。徐福は三重県(とか全国)に到達した伝承があるんだが、佐賀にもあるのか。まあ、来週が最終話のようなので、できればすっきりと終わることを願う。

(成城比丘太郎)


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