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★★★☆☆

未来の年表(河合雅司/講談社現代新書)

投稿日:2017年7月3日 更新日:

  • 止められない少子化(人口減少)の実情と、それへの「処方箋」。
  • 「静かなる有事」という、人口減少による(日本)社会崩壊の危機。
  • 日本の「おそるべき未来を時系列にそって、かつ体系的に」ときあかす。
  • おススメ度:★★★☆☆

本書では、人口減少による出生数の減少と、高齢者の絶対数の増加と、勤労世代の減少とによって、この日本にどのような危機が訪れるかを、時系列で示している。2065年までにだいたいどのようなことが起こるかが書かれているのだが、その時になって顕在化するわけではなく、今でもその兆しはあるだろう。まず「第1部人口減少カレンダー」を読めば、もうすでに実感している項目もあると思われる。

例えば、著者が言う、団塊世代がすべて75歳以上になる「2024年問題」や、また団塊ジュニア世代が「高齢者」に属することになる「2040年問題」は、その当事者であれば、その身に迫った問題としてすでに感じていることだろう。それら問題についてまわる、「老老介護」はすでにはじまっているし、それに伴う「介護離職」も少なからず起こっている。それらが近い将来、大量に発生するのは分かってはいるつもりだったが、年表として時系列に提示されると、危機というのが自分個人だけの問題ではなく、日本全体の問題だということが分かる。

「2027年」には「輸血用血液」が不足するというのは、今まで考えたことがなかった。血液は何に使われるかというと、「約80%」が、「がんや心臓病、白血病などの病気に使用される」という。人口が減少し、献血量も減れば、今のままでは治療もままならなくなるだろう。「2020年」には女性の2人に1人が「50歳」になるというのもまた考えたことがなかった。そのうえで、「女児の数が減っている」状況では、いくら「合計特殊出生率」が改善されても、出生数の増加にはつながらないというのも、よく考えたらその通りだ。また、「高齢化(=高齢者数の増加」)と、「高齢化率(=総人口に占める高齢者の割合)の上昇」とは、分けて考えなければならないというのも、なるほどそうだとは思う。

よく分からない部分もある。分からないというのは、5年後10年後なら何とか想像できるが、それ以上になると、どうなっているか簡単にはいえない問題があると思われる。例えば、国防に関することなら何とか分かるが、国際的な「食料争奪戦」や「バーチャルウォーター」に関することは、日本だけの問題だけではないので、もっと早く劇的な変化があるかもしれず、そうなるとここに書かれたことも変化するだろう。(もちろん、この年表はあくまで単純な見取り図だということだろうが)。

気になるのは、東京の危機が大袈裟に語られていることか。まあ、こういうのは東京圏の尻に火をつけないと実感できないことだろうからしようがないが。秋田県の人口が最近100万人を割って、地方自治体の危機だと言うが、私の第2の故郷である島根県奥出雲地方に帰るたびに、10年以上前から、県民の「高齢化」を実感しているが、今さら何を言っているんだという感じだ。これに関して、本書で唯一笑ったのが、「都道府県を飛び地合併」という「日本を救う」処方箋の一案で、「東京都と島根県とか」を「合体」させる「大胆な発想」だ。どんだけ東京中心の考え方、いや島根を下に見てるねん。確かに島根は小笠原諸島より距離的に東京に近いが、「脱・東京一極集中」という処方箋をだしながら、こんなお粗末なこと書かれたらガクっとくる。(おそらく)著者には悪意はないだろうだけに……。

本書の後半では、これからの「日本(の未来)を救う」ための10の「処方箋」が書かれているが、まあ、社会制度に関することなら今すぐにでもできるものもあるだろうし、とにかく有効なことをやってもらいたいとしか言いようのない内容だが、「少子化」対策だけはなかなか難しそう。著者が言うように、「婚外子」が少なく出産と婚姻が結びついている日本では、女性の社会進出が進むことで、「晩婚化」や「晩産化」もまたすすむだろう。これらは、個人だけではなんともできない部分もあるので、有効な手を願いたい。

著者は読者のひとつである若者に向けての言葉で、「団塊ジュニア世代は、あまり子供を生みませんでした」と簡単に片付けている。どうしたそうなったのかは、一応書かれているが、そもそもリーマンショック前のなんちゃって景気を、「非正規雇用」などの弥縫策で支えさせられた「団塊ジュニア世代」の処遇に対する反省はどうなっているのだろうか。もちろん、すべてが社会のせいではないが、いくら今の若者の意識を変えようとしても、それだけでは限界があるので、しっかりと行政側に「(制度的な)グランドデザイン」を描いてもらわないと、いつかの轍を踏まないとも限らない。しかし、今の日本(の政治家・役人など)にドラスティックな改革ができるものだろうか……。

本書は、読む人にとって受け取り方が違ってくるだろう。何も考えたことのなかった人には、ある程度の衝撃はあるだろう。《そんな未来のことなんて知らんわ。自分が生きている間には関係ないし》というスタンスの人には、読んでも意味がないだろう。個人的には意外と穏当な(過激ではない)未来像だった。また「処方箋」を読むと、個々の自治体だけで考えるだけではなく、日本全体で考えるべき問題だと思った。

(成城比丘太郎)



未来の年表 人口減少日本でこれから起きること【電子書籍】[ 河合雅司 ]

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