★★★☆☆

本の雑誌血風録 (椎名誠/朝日文庫)

投稿日:2019年9月11日 更新日:

  • 椎名誠たちの黎明期を描く
  • 馬鹿げに満ちた壮大なプロローグ
  • 著者が好きな方には勧めたい
  • おススメ度:★★★☆☆

本書は、小説家・エッセイスト・映画監督・タレント・編集者と、様々な顔を持って活躍していた30代の椎名誠の話だ。彼と盟友・目黒考二が「本の雑誌」を創刊し16号辺りまで、悪戦苦闘しながら部数を伸ばしていく体験記でもある。本の雑誌は今でも続いていて月間で435号(2019/9現在)になっている。いま、二人は完全にこの雑誌から離れているが、雑誌の売れない時代にこれはすごい。でも、私は一回も読んだことがない。これはおかしな事だ。ちなみに椎名誠の著書は幅広く読んでいて、誰が何と言っても「武装島田倉庫」というSFこそが、真実美しく正しい小説だと信じて疑わない。心酔している。これと「わしらは怪しい探検隊」は定期的に読み返している。激しく私を惹きつけるモノがある。

本の雑誌というのは、いわゆる書評雑誌だが、もとは本だけ読んで暮らしたいという書痴・目黒考二が仲間に配った感想文から始まったものだった。椎名誠も目黒考二もこれが本物の雑誌になるとは考えてなかったようで、最初はただの仲間内のレポートのコピー、創刊しても価格は100円。しかも、販売してくれる書店を探して回るという、本当に0からのスタートを切っている。しかし、初期から執筆者に挙がっている名前がスゴイ。無名の糸井重里が(無料で!)寄稿していたり、筒井康隆に原稿を依頼したり、椎名誠自身も自由に筆を振るっていたり、とにかく煌びやかなのだ。のちに事務員となるのは群ようこであるし、椎名誠と目黒考二の人間的磁力によって才人が引き寄せられていたのがよく分かる。私にとっては、まだ無名に近かった頃の中村梓(栗本薫)も無料で寄稿しているのが驚きだった。本の世界の伝説の人々の青春記とも言える。

ただ、椎名誠自身はそうは思ってないらしく、その辺はあっさり書いている。それもまあ、普通の作家が出来ることではないだろう。あの熱い時代を、熱い思いだけで生きていた男たちの、馬鹿げと情念、さらに狂気が垣間見える。いい意味でマトモな人は出てこない。挿絵を描いてる親友の沢野ひとしや木村晋助も相当のカワリモノで、呆気に取られるエピソードが満載だ。沢野ひとしは、何の絵の勉強もしないまま(作中表記による)中学時代から画風が変わらないで挿絵の賞を受賞し、木村晋助は歌う弁護士として一時代を築き、本業では坂本弁護士拉致事件に奔走した。いやはや、スゴイ人達である。椎名誠自身も、その後、スルドく活躍し、老境の今も新作を発表し続けている。

本書では最後に、椎名誠のデビュー作が大ヒットして世界が爆発的に拡大し、同時に目まぐるしい生活で心を病む顛末で終わる。この大作小説の結末は、正に夢と現実に挟まれて苦悶する若き椎名誠のあからさまな心情の吐露で終わる……。

私のように著者を愛好する人間には、他のエッセイに登場する人物が、別角度から描かれていて大変興味深い。ただ、本書は「哀愁の町に霧が降るのだ」「新橋烏森口 青春編」「銀座のカラス」などの、先行する小説を知っていないと、十分に楽しめないかも知れない。タイトル通り「本の雑誌」に興味がある人には、その誕生秘話となっていて楽しく読めるだろう。

この本で再確認したことは、私は椎名誠になりたかった、いや、現在進行形で「なりたい」という事だった。現実の若き椎名誠は、スジものの人もかくや、といういかつい見た目で、本書でも度々喧嘩をしている描写がある。恐ろしくパワフルなガキ大将という感じだ。一方、小説家としてはユーモアに満ちたエッセイから「島田倉庫」のような低く抑えた文体、「岳物語」に著される繊細な表現まで使いこなす多才さだ。加えて、とてもいい加減。自著についてはっきり覚えて無いと、度々公言している。基本ゴーカイな性格なのであろう。他方で、30年間の不眠症を告白したりして、人間的な弱さも見せている。

何より好奇心の赴くまま、損得抜きで駆け抜ける様が私には魅力的だ。

本書の椎名誠から約10歳足して私もいい年齢になった。得たもの、失ったものは沢山あるが、今、欲しいものは、やはり好奇心と言えるもの、脳内に炸裂するイマジネーションだ。当初は金銭目的で始めたこのブログが、決定的に儲からないという事実を知った今でも(一時はユニークユーザーで3万ヒットしていても)続けているのは、そのあやふやな「何か」がを求めているからだ。

椎名誠にはその「何か」がある。私は本書を読み終え、その「何か」を探し続けようと、やはり静かに深く確信しているようだ。

(きうら)


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