評価不能

本は、これから(池澤夏樹[編]/岩波新書) ~本の未来を巡るいくつかのお話

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  • 7年前に出版された、「本」についての短文集。
  • 私が当時(2010年)考えたことを中心に。
  • 電子書籍の未来については、きうら氏に。
  • おススメ度:特になし。

今回取り上げるこの本を2010年に読んで、私がその時に描いた将来像を(妄想として)まずは書いてみたいと思います。これから書くのは電子書籍に関することでもあるのですが、私はその方面にうといので、そちらは「きうら氏」の記事にまかせたいと思います。

2010年において、各界の著名人(や文筆家・詩人・漫画家・学者など)が「本」について書いた短文を本書に載せています。その中で、紙の本と電子書籍の未来について書かれたものを取り上げたいと思います。まず、「活字中毒者は電子書籍で本を読むか?」(内田樹)から、本と電子書籍の未来をみてみたいです。内田があげる(電子書籍の)第一の難点「どこを読んでいるのかわからない」……このことについて内田は色々と理屈をのべているが、これらは将来的に解消されるのではないでしょうか。例えば、「電子書籍は、『読み終えた私』への小刻みな接近感を読者にもたらすことができない」という、この「読み終えた私」とは、未来完了形でとらえた私のことで、読者が想定する「仮想的な消失点」のことです。これは近い将来、技術的な革新により、ポスト電子書籍として、紙の本と遜色ないものが登場することでしょう。

第二の難点に関して、(電子書籍には)「宿命的な出会い」(がない)ことについては個人差があって何とも言えませんが、内田が言う、これから手にとろうとする紙の本が自分にとって重要だと「先駆的」に了解されるということも、電子書籍の未来に見えないとは限らない。本という物質がまとう「固有のオーラ」を内田は強調しますが、本か電子書籍かという現在の選択も一過性のものにすぎないのではないでしょうか。なぜなら、電子書籍およびその先の技術で育った人間は、電子書籍に何らかの「オーラ」を感じるようになるかもしれませんし、さらに言うと、本と見紛うような新たなプラットホームが出現した場合、もうそのような選択自体なくなるでしょう。

西垣通は、「『紙の本はモノだが、電子書籍は情報だ』という言葉も、実は本のアウラへの賛辞を表現している」としたうえで、「やがて電子書籍の画面にアウラを感じるようになるのではないだろうか」と、私と同じことを考えているようです。その上で、西垣は「肝心なのはアウラの消失ではない」といいます。デジタルデータが主流をしめることによって、いかなる「権力メカニズム」が作動するのか、ということに注視すべきなのでしょう。そこまでは何とも言えませんが、おそらく一部の書籍を除いて、消費者に提供する商品は変わってくるかもしれません。今は書店に行くと紙の本が場所を占めていて、一応多様性はあるようです(大きな書店ならですが)。これがデジタルデータのみになった時、コンテンツ内容が今と大きく変わるかもしれません。いや、変わるというより、(消費者が)気付かないまま、何者かの都合のよいように、ある特定のものに偏向した商品が流通するようになるかもしれません。それはある意味透明なディストピアではないでしょうか。ちょっと、ディックのSFを読んだ後なので変な妄想が働きました。そこまではいかなくとも、近未来には西垣の言うように、役に立たない(とみなされた)本は淘汰されるかもしれません(まあ、大丈夫だと思いますが)。そこで、大事になるのが(個人による)編集です。

日本で出版されているほとんどの本は編集(者)が関わっています。デジタルデータ(とそれを簡単に扱える環境の整備)の普及によって、個人で編集作業ができる可能性が広がったといえるのではないでしょうか、ということを7年前に考えました。「組み換え可能な情報のモジュール」(外岡秀俊)を個人の編集によって、様々なコンテンツへと生まれ変わらせ、そのことでオーソライズされた書物とは違ったものができるのでは、と期待したのですが。例えば本書で(製本講師でもある)四釜裕子が教える、個人で行う簡単な製本作業のように、データを取り出して個人好みの本を作るというように。どうやら、現在では物質性の本を新たに位置づけるものとして、個人がSNSなどで発信したものを出版社が書籍化することが多いですが。その先がどうなるか興味深いですね。

電子書籍が紙の本の単なる代替物でしかないならば、電子書籍への移行によって、本の物流関係で多少の(?)変化はありこそすれ、大きな問題は起こらないでしょう(電子書籍によって人間の意識下にどのような影響があるかはわかりませんが)。結局本を読むプラットホームが変わるだけのことです。考えなければならないのは、未来に《読書》そのものの概念を揺るがすような技術革命が起こった時でしょう。例えばそれはSF的ですが、デバイスなどを直接脳に埋め込むなどして、(物理的な)《本》そのものが消え去るときでしょう。

ってなことを、本書を読んだ時に考えたのですが、現在の状況についてはよくわかりません。電子書籍の方が本を読むには便利(特に場所を占有しない)と、よく聞くのですが、その辺りのことはこの後に「きうら氏」に書いていただく予定です。

(成城比丘太郎)

きうらです。と、いうわけで、成城比丘太郎氏より依頼をを受けたので、詳細をやり取りして聞いてみた結果、以下の3つが疑問とのこと。順に疑問点と私なりの見解を記してみる。

    1. Q・電子書籍(スマホアプリ含む)=デジタル化された本が、未来の技術発展によって紙の本を読む感覚と遜色ないものが生まれるのではという期待感があるが実際はどうなのか。
      A・改良はされたが、遜色のないレベルには達していない。「紙の本を読む感覚」というのは、「一覧性と視認性」つまり「パラパラめくって簡単に読めて、解像度(見やすさ)が限界まで高い」という点だと思うが、残念ながら一覧性については、電子書籍は、目次なり検索なりを操作して目的のページを探すのが一般的で、Kindleには「パラパラめくる」機能がついているが、気になる遅延があるので、やはり改善されたというレベル。視認性は解像度が上がったので、不自由はなくなったが、切り替え(ページめくり)の遅さという欠点が残っている。ただ、電子書籍は紙の本の長所を取り入れて、改良しようとしている節がある。辞書機能や文字の拡大、ライト機能、即時購入できる点などは紙の本にはない長所で、ある意味、紙の本より便利だと感じる。重さも適度で、電子書籍に慣れた私はどちらかというと電子書籍の方が読みやすいので、価格が同等か安ければそちらを買う。特にベッドに寝転んで明かりを消して読む読書には最適で、このスタイルを好む人にはお勧めだ。それもバックライト式でない、専用の電子書籍リーダーの方が目が疲れない。
      結論として、10年先程度なら、紙の本に取って代わるというより、どこかで住み分けるのではないかと思っている。20年先にはイノベーションによって、強制的に電子書籍化されている可能性もある。ただ、後述するがいくつかの問題点の解決が必須だ。
    2. Q・画一化されたプラットホームの出現で、人間の知的生活に何らかの進化(変化)があるのかどうか、という問題。
      A・現在、情報収集用のプラットフォームは、ほぼ、スマートフォンに画一化されてしまった。つまり、TV・PC・書籍・雑誌・ラジオ・ゲーム・カメラ・通信・情報発信の機能が統合されており、ほぼこれだけで事足りる。実際、さっき挙げた専用機器が不要という方も多いのではないか。実際にはそれぞれ専用機器の良さも残っているので、完全に淘汰はされていないが、テレビや雑誌などは顕著に衰退した。そして、それがどのように知的生活への進化(変化)を与えているかという点では、簡単に言えば、未だ過渡期とはいえ、情報格差が解消した。つまり図書館に行ったり、高価な書籍を買わなくても誰でも即時に情報を収集できるようになった(情報の不確実性が増したという負の側面もある)。なので現代人は情報を得るのに、昔より能動的ではなくなった。では、知的生活が進化したかというとそれは疑問だ。なぜなら元になる人間自体が進化してないからだ。これは私個人の感想だが、古代から現代まで「生きる」そして「そのために働く」という構図は変わっていない。つまり生きるための労働という行為がある限り、人間の知的生活は変わらないと思う。これは非現実的な話だが、労働が不要になり、さらに人間が不死を得たとき、何らかの知的生活が変化するのではないかと思っている。
    3. Q・個人による(デジタルデータの)編集によって、新たなコンテンツの開拓はできるのか。
      A・これは現在でも少しの知識があればKindleで自主出版ができるし、そもそもそんな面倒なことをしなくても、Twitterやブログ、SNSなどで、無数のコンテンツが発信されている。よって、成城氏が想起しているのではないかと思う個人による出版は、大きく変わらないだろう。本が欲しい人は同人誌を作っているし、やろうと思えば無料で電子出版は既に可能だし、その他の映像や音楽もYouTubeなどで既に発信されている。今は黎明期にあるVRデバイスが超絶進化しない限り、新たなコンテンツは出現しないだろう。それには最低10年、一般化には数十年かかると思っている。

    以上、簡単に所感を述べてみた。電子書籍リーダーは、個人的には大好きだが(カテゴリの「電子書籍リーダー」か、過去記事・電子書籍リーダー3つのメリットを参照ください)、大きな問題点が3つある。

    一つは商品のラインナップ、もう一つは一覧性、最後は保存性である。最初の問題は致命的で、特に日本は電子書籍で出遅れた。現在でも市場の10%強を占めるに過ぎない。例えば村上春樹の最新作は電子書籍では読めないし、村上つながりで言えば、村上龍はほとんど電子書籍化されてない。人気作家の宮部みゆきなども同じ。これが普及の大きな障害だ。

  1. 次に、一覧性というのは、やはり「パラパラめくる」感覚と「本棚から取り出せる」という物質的な便利さがない。事実、何百冊も買っていると、何を持っているのか忘れる。これは紙の本でも起こるので、大きな欠点とは言えないが。最後の保存性が致命的で、もしAmazonや楽天が無くなると、電子書籍は読めない(再ダウンロードできない)仕組みになっている。さらにデバイスの寿命があり、例えば1000年前の和紙の本は読めるが、1000年先に今のスマホか電子書籍リーダーは絶対に使えないだろう。実際には電子データとして消えることは無いと思うが、1000年先はともかく、私が生きてる間でも「電子書籍の出版社が債務超過で倒産」などという事態が絶対に起こらないとは誰にも言えず、その辺の安全性はもっと真剣に議論されるべきだと思う。事実いくつかの電子書籍販売サイトは消滅・統合されてしまった。

    と、いうわけで長くなるので、今回はここまでで。電子書籍リーダーを愛して止まないきうらでした。





    本は、これから (岩波新書) [ 池澤夏樹 ]

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