★★★☆☆

松永兄弟(小野寺 秀樹/Kindle・ペーパーバック) ※ネタバレあり

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  • 宇宙人に侵略された世界を描く硬質な長SF
  • 著者は半プロ、そういう感じの文章
  • とはいえ、最後まで読みたくなった
  • おススメ度:★★★☆☆

約7か月に渡る資格試験3連戦が終わり、ようやく「趣味の本」を読める余裕ができた。この間の心の荒みようは過去の更新を見て頂ければ明白だろう。見えない何かに見えない怒りをぶつけるという無意味なことを繰り返していた。さすがに昨日書いた北京オリンピック批判は酷すぎたので削除した。一度書いたものを消さないといけないと思ったのは久しぶりだ。

資格試験と言っても★でいえば4段階で1、2、2という初級程度の試験で私の年齢に相応しいプロフェッショナルなものではない。しかも生業にしているIT関連で、だ。それでも「合格」のためにはかなりの努力を必要とした。一つ目は楽しんで、二つ目はプライドで、三つめは意地で乗り越えたが、合計すると一日2時間以上、420時間を割いた。仕事に2,821時間、学習と合計すると3,150時間。割合でいえば一日の約62%、15時間の快適とは無縁の時間。多いのか少ないのか分からない。ただ、言えることは、学生である時にもっと学ぶべきであったという教訓だ。後悔は全くないが、勉強するなら若ければ若い方がいい。知力・体力・時の運、全てが追い風になるだろう。とはいえ、私は加齢と言う逆風の中でこの一人でやる戦闘に勝ったことに満足している。

それが1週間前で、ようやく「本」に手が出た。とはいえ、リハビリもかねての読書なので本作と「三屋清左衛門残日録」の2冊を読み終えただけだが、ようやく空いた2時間のリソースを娯楽に回せるようになった。またいつ資格病が再発するかもしれないが、それがなければ、何でも読めるはずだ。以上が近状、言い訳、陳腐な教訓だ。

(あらすじ)地球は宇宙人によって壊滅状態にあった。突如降り注いだ硬質な塊とそれが発する殺人ガスによって、ほとんどの人間は死に尽くした近未来の日本。タイトルにある松永兄弟は宇宙人の戦略施設に小型核爆弾を設置する任務を負っている元外人部隊の精鋭の双子だ。物語はこの兄弟の親の死の謎と、もう一つのチームの破壊作戦の任務遂行を描く。

読み始めてすぐに分かったが、筆力がプロのそれではない。失礼ながら、三屋清左衛門残日録と比較すると、必要な描写が抜け落ち、無駄な描写が多い。あまり編集されていないラッシュフィルムを見るようなイメージだろうか。もっとも円熟期の藤沢周平の筆力に勝てる人間など多くないだろうとは思う。ちなみに私がプロっぽくないと思ったのは、同類だからだ。この文章のような感じで、書きたいことを書いているのであって、望まれている文章ではない気がした。

その例が、設定の安易さ、物語の焦点が至近距離でしか描かれないこと、反対に銃器・兵器関連についてはかなりの知識量を有することが分かることだろうか。要はミリタリーマニアが趣味で描いたアクション小説なのだ。

すっぽ抜けていると思うのは、宇宙人の設定だ。ディティールがなさすぎて、まったく存在感がない。導入部はまるで漫画「ガンツ」終盤のようなアポカリプスが描かれるが、結局、兄弟が戦うのは人間ばかりである。それも非常に渋い軍人の行動記録のようになっている。何となく映画「第9地区」を思わせる宇宙人だが、正体不明。一瞬で人類を虐殺した割にはあっけなく反撃されるのも疑問を感じた。

とはいえ、少々的が外れていようが、そのしぶとい描写方法は不快ではなかった。兄弟と一緒に荒廃した世界に放り出されるようで、荒んだ私の気分にぴったりのハードな展開を丹念に繰り返していく。一定の緊張感を維持して、これだけの文字数をまとめるのは大変だっただろう。技術を抜いて、その情熱の総量としては藤沢周平のそれと大差ないように感じた。

ミリタリーファンなら細かな武器の挙動を堪能できるだろう。一方、人物描写は今一つはっきりしない。男たちは魅力的だが、女性に関してはヤンキーの双子姉妹が出てくるくらいで、敢えて避けているとしか思えない。つまり、こういう世界で必ず描かれるバイオレンスは強烈だが、同時に展開されるはずのエロ要素がほとんどない。双子姉妹も徹底して下品な人間として描かれているが、最後まで年齢もキャラクターもつかめなかった。椎名誠が武双島田倉庫で同じような日本の終末世界を描いているが、苦手なエロ要素にも鋭く切り込んでいたのと対照的だ。同じ話ばかりで申し訳ないが、その「武双島田倉庫」の「肋堰夜襲作戦」を延々と長くした感じ。

そう描きたかったのは武器であって人物ではない。それははっきりと意志として伝わってきた。変な萌え要素はないのはいいが、双子の姉妹はもうちょっと何とかできたはずだと思う。本当にストイックな人柄なのだろう。ラストにほんの少しだけエロ要素があるが、それはむしろ導入で必要だったような、そうでないような。

ここのサイトの共著者に、自分の小説を見せた時、自分が編集者なら最初から最後まで書き直せというだろうと批評された。結局、書き直さなかったが、世間の評価も同じだった。この本もそんな感じ。もうやり直せないくらいの分量の文字を書いているが、適切なアドバイザーがいれば、もっと完成度が高くなったはずだ。

でもいいのだ。書きたいから書く。小説なんて食えもしないし、失敗すれば、何の役にも立たない。さらにSFというマイナージャンル。これでいい。いくらベストセラーを叩き出しても書かれる総量から言えば、ほぼ100%の確率で物語は歴史から損なわれる。見えない敵と誰も見えない戦いをするのが醍醐味なのであって、本質的には無意味なのだ。資格試験と違って、明確な合格もない。

ホラー小説は探しているが、どうしてもピンとくる作品が出てこない。ホラーもマイナーだから仕方ない。デビュー当時の勢いのある貴志祐介や鈴木浩二、京極夏彦級の作家は探せていない。キングもさすがに老いた。

さて、次は何を読もうかな、書こうかな? ようやく自由だ。

(きうら)



-★★★☆☆

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