★★☆☆☆

殺人依存症(櫛木理宇/幻冬舎文庫) ~ 話の要約とネタバレあり、閲覧注意

投稿日:2022年5月1日 更新日:

  • タイトル通り、閲覧注意
  • 残虐で不条理な物語
  • 後味は最悪だ
  • おススメ度:★★☆☆☆

最初にこんなことを書くのもどうかと思うが、本書を読むのはやめた方がいい。ただ残虐でグロテスク、実在の事件をネタにするなど、色々酷い。それでも異常快楽殺人を紹介しているのに感想を何も書かないのはフェアじゃないので紹介はする。

ここから先はかなり不愉快な単語が散在しているので、引き返すのはここが最後だ。

(あらすじ)物語は列車内での集団痴漢のシーンから始まる。ターゲットは15歳のお嬢様高校の女生徒。男たちに囲まれ、絶体絶命の状況になる。車内で甘いものを食べ続けていた太った中年女性が口を出す。中年女は肝の据わった関西弁で男たちは笑いものにして蹴散らしてしまう。解放された少女は感謝と安堵でその女性と一緒に列車を降りるが……。

この後のネタバレは少し後に書くとして、本書の変態性について言及しよう。世の中の性的嗜好について考えざるを得ない内容なのだ。

良い変態と悪い変態というものはあるだろうか。明確な差があるとすれば、まず犯罪かどうかの基準が分かりやすい。冒頭の痴漢行為はもちろん犯罪で、この嗜好があり実践する人間は悪い変態だ。ただ作り物である痴漢映像や小説・コミックを収集するのは犯罪ではない。

また痴漢行為を通して人間がもっている何か特別な価値(変態性から逆進して人間の本質を暴く)ような作品もあるかも知れない。臭いものに全て蓋をするスタイルで、こういうもの全てを排除することは人間性の否定になりかねない。その為、変態だから良い・悪いというものはなく、それを受け取る側の問題になると思う。

本記事も出来れば価値観が確立した年齢で読んで頂きたい。ここからはかなりマニアックな話になる。

本書がメインテーマにしているのは、痴漢ではなく強姦殺人である。拷問、ペドフェリア、人体破壊、精神・肉体的虐待が多く登場し、殺人崇拝の要素もある。途中、わざわざ神戸連続殺人事件(少年A)が実名で引用されているほどだ。

男たちが集団で少女や少年に性的暴行を加えた上で惨殺するという内容をかなりストレートに描いている。確かにそういう本もいっぱいあるが、本書はその描写が現代的で悲惨なのである。あからさまに語られる悪意と暴力、死体の描写は相当きつい。

最近読んだ「蝶のいた庭」も似たような内容だが作品の底に被害者を助けたいという暖かさもあった。それは本書にはない。徹頭徹尾、残酷だ。同時にこれほどの悪意が生まれたことに対する説得力がない。いわゆるマインドコントロール系のオチになる。ただ胸糞が悪いだけの小説だ。

では、ざっと話を紹介しよう。

冒頭の少女はあの後、ワゴンでさらわれ男たちに徹底的に破壊されたのち、死体で見つかる。顔面や内臓への執拗な殴打、乳房の切断、身体中の刺し傷、膣と肛門への陵辱、指を折る拷問などが、ほとんど生きている間に行われた。当日の犯行はネットを使った同好の男たちによる犯罪であることが徐々にわかる。それに対するのは主に荒川署捜査一課の浦杉という中年の刑事である。彼は自らの7歳の息子を6年前に同じように誘拐・殺害された経験を持つ。また16歳の娘・架乃(かの)がいる。妻とはその事件以来上手くいかない。彼は自ら望んで別居状態にある。浦杉はそんな訳で一人暮らしだが、ひょんなきっかけで隣に住むシングルマザーの7歳の女の子・亜結(あゆ)を預かる。最後には実の娘より強い愛情を抱くようになる。

そこからの話は簡単で、捜査は現代風にスマホやサーバー、カメラの解析などで順調に進み、痴漢の実行犯は次々と明らかにされていく。同時に彼らを操っている存在が分かる。それが冒頭の中年女・浜真千代だった。彼女自身も壮絶な虐待を受け、その復讐として変態達を操って、殺人を企てていたのである。

ラストはこの二人の直接対決のようなシーンになるが、浦杉はかなり不利だ。娘と亜結を人質に取られ、一人は浜の体の下のトランクに入れられている。追い討ちとして息子を残酷に殺したのも浜と実行犯であることを告白され動揺する。その上で浜はどちらを助けたいか選べという選択を迫り、浦杉は亜結を選んでしまう。しかし、トランクには亜結の無残な死体があった。一方、架乃は隣の部屋に居たが無事に助かる。浜は警官隊に踏み込まれて逮捕される。

浦杉は二人の実子より亜結を選んだことに激しい自己嫌悪を抱き、警官を辞める決意を固める。娘には「その子を助けてくれ」と言ったため真相はバレていない。

一方、浜は護送中に自分で育てた半グレ組織に助けられる。彼女の目的は自分を追い詰めると直感的に感じた浦杉の排除であった。それは果たした。最後に彼女はこの先も復讐を誓って物語は終わる。
以上、あらすじというより要約である。途中、実行犯が色々犯罪行為を行うが、その辺は普通のサスペンス。弟や妻の行動、実行犯の正体という要素もあるがそれは割愛する。

疑問点は二つある。

浦杉はなぜ7歳の亜結を選んだのか? 彼女はハーフのような美少女で小学校2年とは思えない大人びた賢い子どもである。ただ作中、浦杉がロリコンであるという描写はない。息子の死と家族の崩壊、その過程で「逃げ場」として、他人の少女に感情移入したと語られるが、まったく納得できない。そもそもこの関係がかなり強引で不自然だ。帰りが不規則な刑事が少女を保護するのはいいとして、添い寝をしたりするだろうか? そもそもその原因が浜による息子の殺害だ。予定調和過ぎてがっかりした。

浜真千代のキャラクター造形や犯行動機も基本的に理解不能だ。性的暴行を含む虐待から「人間を捨てた」というような台詞があるのだが、モンスターになるには何か足りない。ラストでは女性と子どもへの殺人は終わりにして、直接虐待した男たちへの復讐を誓うが、それは順序が逆じゃないか。ここに矛盾があり、冒頭の残虐描写への説得力が足りない。

本書は幼児性愛に人体破壊というタブーへ踏み込んだ描写と、浜真千代と浦杉の対決(映画のセブンのラストをイメージさせる)を軸にしたスプラッタ・ホラー・サスペンスを狙って書かれたと思う。前半の要素は得意ジャンルのようで狙い通りだが、キャラクターの行動や物語が不自然なので、その部分ばかり悪目立ちしてしまっている。ただ素人のレベルでもない。

結局、殺人依存症のお話というより、殺人描写依存性の人が書いた話という感じだ。では私は殺人描写本依存性になるのか。

こんなオチをつけてみたが、とにかく不快な読書感覚だった。なんか珍しく読んでから後悔している。

(きうら)


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