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★★★☆☆

水の精(ウンディーネ)(フケー[著]・識名章喜[訳]/光文社古典新訳文庫)~あらすじと軽いネタばれあり

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  • 人間の魂を得た美しい女性の悲恋。
  • 三角関係に巻き込まれたダメ騎士?
  • 怪異は出てくるも、メルヘンのようです。
  • おススメ度:★★★☆☆

騎士のフルトブラントは、ある女性の要請により「妖しの森」への「肝試し」を敢行、場面は美しい湖に面した岬、そこである漁夫と知り合いになり、漁夫夫妻のもとに滞在、出会ったのは美しい少女ウンディーネ、この出会いこそ彼の運命であり甘やかな悲劇への坂道となる。天真爛漫でいたずら好きなウンディーネは老夫妻の養女、ある日娘を亡くした夫妻のもとに現れた不思議な少女。フルトブラントはこのウンディーネにみとれ、彼女も彼を愛するようになる。二人が出会ってすぐのこと、養父の叱責に機嫌を損ねて家を飛び出したウンディーネ、フルトブラントは彼女を見つけようと森へ向かう、ああ、この場面は何と幻想的で美しくすばらしいことだろう。

そのうちに、岬で暮らすことになったフルトブラント、彼はウンディーネと婚礼を挙げることになる。ウンディーネはここにおいて、自分が水の精であり、人を愛することで人間の魂を得たことを打ち明ける。その後二人は町へ向かうことに、しかしその二人につきまとう影、それこそ水の精の眷族、ウンディーネの伯父「キューレンボルン」、奴こそこの物語の陰の部分をまとう人物である。ウンディーネはこの伯父の影響をなるべく排除しようとつとめるも、彼のほうはそんな水臭いこと言うなよとでもいうのか、彼女の縁戚どもは常に彼女を見守り、フルトブラントの心変わりを見張ることになる。

町で待っていたのは、フルトブラントに思いを寄せるベルタルダ、彼女こそ彼を森へと赴かせた張本人、ベルタルダはウンディーネの登場にショックを受けるも、その後三人は仲良くなる。そしてあるベルタルダの記念日に、ウンディーネの口よりベルタルダにとって衝撃の事実が告げられ、この事実により三人の中にひびが入り、ベルタルダの運命も大きく変わることになってしまう。領地のリングシュッテッテン城に新妻を連れて向かうフルトブラントは、零落したベルタルダも伴い、また三人の暮らしと付き合いが始まるも、物語展開は(定番の)最終的悲劇へ牙を研ぎ、二人の女性の間で揺れる騎士を、その顎にとらえるべく、ひそかに悲劇の執行人たる水の精を使わしめる。

誰よりも精彩を放つウンディーネ、この物語の主役たる彼女を正妻の座からおろしてしまった(結果をもたらした)フルトブラントには、最後の制裁が待っている。その最期は、しかし、哀しみにあふれている。人外のものが人への愛ゆえに人の魂を得るも、男の変節のせいで……というメルヘン的な形式ではあるものの、この物語では人間の男の哀しみなどほぼ捨象され、《愛に関してのダメ男》に惚れた美しい女性の哀しさだけが前景化される。

(成城比丘太郎)



水の精(ウンディーネ) (光文社古典新訳文庫) [ フケー ]

-★★★☆☆
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