3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

波よ聞いてくれ(1) (沙村広明/アフタヌーンコミックス)

投稿日:

  • ラジオにまつわるドタバタコメディ
  • ちょっとオタク風な作風
  • 作者が伸び伸びとしている
  • おススメ度:★★★☆☆

(あらまし)繁盛しているカレー店の女性店員であるミナレは、仕事はできるが、恋人に50万持ち逃げされ、鬱憤のたまったヤケクソ状態。ある夜、バーで意識不明になるまで呑んで、初対面の髭の男に自分の愚痴をまくしたてる。実は彼は地方ラジオ局の制作者で、その時の「愚痴」がラジオ番組の一コーナーとして勝手に流され、リスナーに大うけ。勝手に録音されてたことに憤るミナレだが、それがさらに事態を混迷させ、ラジオの世界に引きづりこまれていく……。

無限の住人」の著者は、人体破損や活劇にかなりの興味と才能があるのだが、一方、一種オタク的な独自のギャグセンスを持っており、これまでも「ハルシオン・ランチ(Ama)」や「おひっこし(Ama)」でその一端を披露していたが、SF要素や不慣れな恋愛要素があって、どうにも不完全燃焼の感があった。本作はそれらの中途半端感を払しょくし、「ラブコメ」一本で勝負するという覚悟の感じられる作風だ。

とにかく、ミナレの行動が破天荒で、ストーリーの先が読めない。たぶん、作者も半分くらいしかプロットを立てず、その時のテンションで物語を動かしているのではないかと思う。「ラジオ」という一種、地味な舞台装置の上で、けっこう派手な展開が、ハイテンションで展開される。ある意味痛快で、面白いことをしているから笑えるのではなく、そのハチャメチャぶりに笑えてくるという作風だ。

一方、「無限の住人」時代からあるサブカル的というか、オタク的というか、内輪受け的な要素も残っており、全ての一般読者には薦められないある種のオーラも持っている。「無限の住人」で言えば、一番近いのは、主人公は目黒と百琳を足したようなキャラクターで、一巻の恋愛の相手との関係は、真理路を思わせる。つまり、あの漫画の戦闘要素を抜いて書かれた、純粋なギャグマンガだ。

それにしても、作者がこの舞台で楽しんで書いていることがよくわかる。キャラクターも可愛いし、エロ・グロ要素もほとんどない。それでいて、ラジオ局というノウハウモノの要素も有り、作風が合えばあと★を一つ足してもいい中々の傑作だ。実は二巻も読んだがまだまだ面白くなりそう。結構、この先の展開も期待している。ちなみにホラーと呼べる要素はないので、怖い本好きの方は、申し訳ないが今回はスルーしてください。

(きうら)



波よ聞いてくれ1巻【電子書籍】[ 沙村広明 ]

-★★★☆☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

今週読んだ作品(12月第3週)と、軽いアニメ感想 ~宝石と詩の世界

鉱物 人と文化をめぐる物語(堀秀道/ちくま学芸文庫) 日本の詩歌(大岡信/岩波文庫) アニメ『宝石の国』(原作:市川春子)についての感想。 鉱物と人や文化との関わり(一冊目)。 日本の古代から中世の詩 …

ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(前後編)[3DSで遊べるファミリーコンピュータソフト][オンラインコード]

ゲームで初めて本気で恐怖を感じた作品 さすがに古いがよく出来たシステムと音楽 いまのスマホゲームに慣れた世代はお勧めできないが…… おススメ度:★★★☆☆ 思い返してみると、私の約40数年の人生で「恐 …

君たちはどう生きるか(映画/宮崎駿監督) ~(注)ネタバレあり~原作レビュー付き

宮崎駿監督の別れの挨拶 にしては長すぎるし、別れてない 次の一作もある!? おススメ度:★★★☆☆ お久しぶりです。管理人のきうらです。この2ヵ月余、ホラーや色んな創作物を読んでいたが、感想を書くパッ …

妖怪始末人トラ・貧!! 2 (魔夜峰央/秋田文庫) ~解説と「胴面(どうのつら)」のあらすじ

基本はパタリロと同じノリのギャグマンガ 頼りない二人(トラちゃんと貧乏神)が妖怪退治をする一種のヒーローもの 胴面は胸糞の悪い話として有名。それ以外は全編ギャグ。 おススメ度:★★★☆☆ 日曜日なので …

仮面病棟(知念実希人/実業之日本社) 〜あらましと感想、軽いネタバレ

病院に立て籠もった犯人と医者のサスペンス 文章は読みやすい。キャラもわかりやすい そこそこ楽しいがもう一捻り欲しい おススメ度:★★★☆☆ (あらまし)アルバイトである病院の夜勤についた主人公の外科医 …

アーカイブ