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洞爺丸はなぜ沈んだか(上前淳一郎/文春文庫) ~あらましと感想、阪神淡路大震災の記憶

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  • 日本史上最大の海難事故の記録
  • 冷静で客体化された文章
  • 極限状態での人間の本性を垣間見る
  • おススメ度:★★★★☆

(あらまし)洞爺丸の事故(wiki)と言えば、昭和29年(1954年)に起こった死者・行方不明者あわせて1155人という犠牲者を出した実在の事故だ。タイタニック号沈没事故(Wiki)が1912年で死者・行方不明者あわせて1513人なので、その規模の大きさがわかる。ちなみに20世紀最大の海難事故は日本軍の機雷が原因と言われている江亜(Wiki)という中国の客船の事故のようで、こちらは2700~4000人近くが犠牲になったらしい。どちらにしても、船というのは輸送能力に優れているので、ひとたび事故を起こせば他の乗り物に比べ、被害が非常に大きくなるようだ。ちなみに記憶に新しい韓国のセウォル号の事故は300人近くの方が亡くなられている。洞爺丸の事故がいかに悲惨であったかは、この数字でも良くわかる。

本書は、事故が起こる前から時系列順に話が展開されていく。最初の時間は当日の06:30で、この時点ではまだ事故の予兆すらない。小説としての体裁としては、群像劇のようになっていて、時に船長、時に乗客、時に航海士の視点で物語られている。有名なキャメロンの映画「タイタニック(Ama)」と同じように、事故の可能性が高くなる後半までは、割と日常的な会話がなされている。ちなみに最後の時間は24:00になっている。

読んで驚いたのは、台風が迫っていたせいで一度、出航見合わせを決めたにも関わらず、天候の回復によって出航を決めてしまったという事実だ。これを決定した関係者の責任はもちろんあるのだろうが、むしろ、人間の予測では制御できない自然の驚異を感じる。誰が東日本大震災や阪神淡路大震災を予測できたのだろうか。これを書いている次の瞬間、巨大な自然災害が襲い掛かってくる可能性もあるのだ。

余談だが、三重県の名張市に住んでいた私は、リアルタイムで阪神淡路大震災を経験した。幸い震度は5程度だったのだが、大学に通うためにベットで目を覚ました瞬間、猛烈な揺れを感じた。棚から自分が工作して作った机が墜落して目覚まし時計を叩き割ったが、とにかく一階に降りて、すでに起きて朝餉の支度をしていた祖母に(母は父親を駅まで車で送っていた)「これは大変な地震だ!」と言った記憶がある。その後、なんと近鉄大阪線は、鶴橋まで電車を普通に走らせたので、私は大学に向かったのである。当時、インターネットはもちろんなく、入ってくる情報はテレビかラジオだけ。私は鶴橋(大阪)について、駅のアナウンスで大阪環状線がストップしていることを知り、ようやく事の重大さに気づいた次第だった。仕方がないので、郷里の名張行きの電車に乗ったが、窓の外では、瓦の外れた家やブルーシートをかけている光景など、確かにタダナラヌ雰囲気を感じた。そして、自宅に戻り、テレビの中継でその被害の大きさに言葉を失った。実際、神戸に住んでいた同じゼミの女の子は家の二階に閉じ込められたし、大学からも級友が何人も亡くなってしまった。

自然災害というものは、本当に恐ろしいものである。

本書に戻れば、後半に沈没後の描写が出てくるが、それはもう阿鼻叫喚の地獄絵図だ。しかし、その中にあっても他人を気遣う者、冷静に判断する者、他人を踏みつけていく者、祈りをささげる者など様々だ。そして、関係者の必死の救命活動には感銘を受ける。文章が淡々としているからこそ、鬼気迫る事故の様子が脳裏に浮かぶ。こういった極限状態になったとき、全ての人間が悪人にも善人にもならない様子を見ると、性善説も性悪説も極論だということを実感する。人間はそのどちらにも揺らぎながら生きていく生き物ではないのだろうか。

怖い本として読むのは少々不謹慎だが、事故の様子から学ぶことも多いので、古い本だがおススメしておく。私もこの読書を機会に防災についてもう少し考えてみたいと思う。

(きうら)



洞爺丸はなぜ沈んだか【電子書籍】[ 上前淳一郎 ]

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