★★★☆☆

湖上の回廊(森水陽一郎/Kindle版)

投稿日:2018年11月4日 更新日:

不気味な色調で始まる謎の多い物語

ミステリ調で始まるが、幻想私小説風に変化する

まあ、何というかスッキリしない

おススメ度:★★★☆☆

この本、出だしは素晴らしく怪奇的に始まるのである。何しろ主人公の旧夜透(とうやのぼる)は保育園のころ、お化けの真似をしてシーツを被り、花をつぶして入院し、祖父が亡くなるまでの半年間、赤い涙を流して祖父が死ぬ。なぜか、彼の周りで死が日常化し、彼の一家は夜逃げ。その途中で、祖父の骨壺を母親が投げつけ、その拍子にトラックと衝突。両親は疾走。病院で、名前を聞かれ、なぜか古い神の名前を名乗るがそれはいけないと言われる。彼は彼は施設に入ることになり、施設で与えられた旧夜透という名前を受け入れる。さらに、彼は15歳で施設を出て東京のフランス料理のコックとして修業する。同じ施設にいた佐希子から手紙をもらう。

ここまでわずか5ページ。怪奇小説愛好家としては中々順調な出だしだと思った。若干の不条理感はあるものの、しっかりと不気味な雰囲気は出ているし、フランス料理のコックというのがいい。

さらに物語は、東京でコックを辞めた主人公が、地方のリゾート施設のコックとして働くために、不気味な一軒家を借りる。隣には冷蔵庫が山積みになっている不浄な感じのする土地だ。この土地には、上陸できないと言われる湖上の島がある(タイトルの由来)。そして、やがて地方のリゾート施設は倒産し、主人公は職を失う。そして、苛立った主人公が奇行に走り、野良犬を殺そうと農薬を買ってくるのだが、猛烈な腹痛で病院に運ばれる。いろいろあるが、帰ってくると隣の冷蔵庫が動いていて、その中には大量の死……と、ここでやめておく。

まあ、ここまでは、良かったと思う。しかし、その後、話がややこしくなる。何がややこしいかというと、

旧夜透が複数存在する、

という設定が加えられることだ。文字通り、物語が分裂し始めるのである。

・一番わかりやすいのは、旧夜透と伊丹由美(彼女も複数存在する)というリゾート施設の元スタッフとが絡む話で、上記のコックの設定のまま、前の料理長のところで働くというくだり。しかし、この伊丹由美は中国に青年協力隊として渡って、陥没した地面のせいで生き埋めになる経験をすることになる。その前後の経過も時系列があやふやになっていく。

・もう一つは、湖上の島の謎に関する話だが、これも伊丹由美が登場するが、結局最後まで何が起こっているのか分からない。

・また、主人公と最初に死んだ祖父との不思議な絆を描くシーンがあるのだが、何らかのタイムスリップが起きており、さらに話をややこしくする。

・さらに、最初の方で手紙をもらった佐希子との恋人のようだった関係が後半で語られる。何らかの信仰が話に織り込まれているようにも思う。

一つひとつのエピソードに関連があるようでないような、正に回廊のようなストーリーで、これはわざわざタイトルにしているくらいなので、狙って書いた作品だと思う。

最初のテンションのまま、普通に怪奇小説で押し通しても良かったように思うが、主人公の分裂という手法が取り入れられ、結局、主題をはぐらかさせたまま、「まあ何だか良く分からないが所々気持ち悪かった」というような感想を持つ方がほとんどではないだろうか。

基本的に解題を趣旨としてないので、作者の意図はつかみ切れていないと思うが、やはり、人間が同時に存在するとすればどうなるかというような技法をサスペンス・ミステリ調にして、まとめた感じとしか言いようがない。時々出てくる、実在の作家の名前は村上春樹のたとえ話のように、若干の衒学要素を加えている。

途中、印象に残った台詞としては

つまり、言葉の持つ深さとか残酷さを知りすぎているせいで、すごく生きにくいだろうなと思ったわけ。

ほら、ときどきコンピューターの親元が、中身は良くわらないけど更新を迫って来るでしょ? これを取り入れたらさらに便利で安全ですよって。そしたら当然、今までそれがあるべきものだと信じていた何か余計なものが消されることになって、一見同じ道が続いているように見えるけど、そこには確かに過去から現在に続くダブリがあるのよ。

何となく、著者の主張が分かる気がする。という訳で、そこそこ不気味で幻想的だが、娯楽小説として読み切るのは少々苦しいか。不思議な雰囲気がすきなら一度冒頭だけでもどうぞ。一つひとつのエピソードは結構面白い。

(きうら)

<蛇足>
今に始まったことではないが、残酷な事件が起きると、必ず何らかのメディアがやり玉に挙げられるが、本来、それは逆なのである。その人間が生活している環境と本人の性質が最初にあって、無数にあるメディアの内の何かを引き寄せるのである。それが適切であれば、趣味となろうし、適切でなく、且つ修正が効かない場合暴走するのだと思う。こんな本ばかり読んでいる私などまさにシリアルキラーでもおかしくないだろう(違うけど)。

原因と結果を取り違えるのは本当に止めて欲しい。ただし、ポルノや残虐小説を区別なく未成年に見せたりするのはもちろん反対だ。あと、本が原因で悪事が起こるなら、その逆もあるが、なぜかクローズアップされない。まあ、テレビは少なくとも、だらしなく飯を食って感想を言うシーンと、どうでもいい観光名所を意味もなく尋ねるのと、同じゴシップや悪口を話す芸人が内輪話をする番組や簡単な余興をやっている番組を減らせば、もう少し大事なことを伝えることができるのではないか? うーむ、蛇足だな。

-★★★☆☆
-, , ,

執筆者:

関連記事

ビッグドライバー(スティーヴン・キング(著)/ 高橋恭美子、風間賢二 (訳))

レイプされた女性の復習劇 と、夫の連続猟奇殺人に気付いた妻の苦悩 キング節たっぷり、いい意味で不愉快 オススメ度:★★★☆☆ 稀代のモダンホラー作家・スティーヴン・キングの作品を一つも読まれていないな …

ハイダウェイ(ディーン・R. クーンツ (著), 松本 剛史 (翻訳)/新潮文庫)

刺激的な出だし、エキセントリックな構想 魅力的な悪役ではあるのだが 最後の「やっつけまとめて感」がすごい 飽き飽きするほど聞かされたフレーズ「キングと並び称される」モダンホラーの巨匠クーンツの長編小説 …

なまづま(堀井拓馬/角川ホラー文庫) ~あらすじと感想、軽いネタバレ

ヌメリヒトモドキという人に似た架空生物を扱うややSF要素のあるホラー 研究者の手記という形で、妻へのゆがんだ愛をテーマに、ひたすら湿度の高い文章が続く 表紙そのままの内容。気持ち悪いと思った人には内容 …

禍家(三津田信三/角川ホラー文庫)~紹介と感想、軽いネタばれ

家と森にまつわる因縁。 結構単純な怪異の連続だが、結構怖いです。 とにかく主人公の少年がスーパーなメンタルの持ち主。 おススメ度:★★★☆☆ 多分、三津田信三を読むのはこれが初めてだと思います。「ホラ …

再読の秋(成城比丘太郎のコラム-06)

「コラム」という名の穴埋め企画(二度目) 過去に読んだ本を再読する 現在再読中の本について おススメ度:★★★☆☆ 【はじめに】 「~の秋」というと、世間ではよく読書の秋とか言われたりしますが、真正の …

アーカイブ