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★★★★☆

異常快楽殺人 (平山夢明/角川ホラー文庫)

投稿日:2020年12月21日 更新日:

  • 実在のシリアルキラー7人のエピソードを中心に収録
  • ドキュメンタリーと小説を混ぜたような内容
  • ライトなホラーファンにはおススメできない久々の「閲覧注意」
  • おススメ度:★★★★☆

とにかく「キツイ」の一言。私のように日常的にホラー小説を読んでいる人種でも「もう読むのは嫌だ」と思える部分が多数あった。やはり実在する殺人鬼という点が大きく、文章をフィクションとして脳内で処理しきれないのだ。

よって人間性が定まっていない、いわゆる未成年には非常に重篤な影響を及ぼす可能性があるので「閲覧注意」とした。なんでも受け入れられる柔軟な年齢の方が、むしろ理解できる可能性もあるが、どっちにしろ「人間の残酷さ」を学ぶのであれば、もっと適切な題材が多数あるので、こんな救いのない話は人に勧められるような物ではない。筋金入りのホラーファン、あるいは自らも「異常」の自覚がある人以外は読まない方がいいだろう。ちなみに「快楽」の文字があるが、ポルノ目当てなら、絶対に止めた方がいい。色気より寒気を感じるだろう。

以上の前置きを読んで、さらに内容を知りたいという方のみ続きをどうぞ。今日の晩御飯が食べられなくなっても責任は持てないので。

(概略)1994年に書かれた本書は、実在した7人の殺人鬼の「殺人の様子と動機」を中心にして、微妙に視点を変えて語られる事実を題材にした半フィクション。彼らの行動は必ずしも時系列順に並べられておらず、逮捕から入るケースや生い立ちから入るケースもある。ハンニバルのモデルとなった「ヘンリー・リー・ルーカス」、キングが「IT」の着想を得た殺人ピエロこと「ジョン・ウェイン・ゲーシー」、映画「テキサスチェーンソー」に強い影響を与えた「エド・ゲイン」等など「シリアルキラー史」の「重要人物」が次々に登場する。なお著者自身がすでに詳細が語られているとして「切り裂きジャック」や「デュッセルドルフの怪物」と呼ばれた「ペーター・キュルテン」については除外したとあとがきで述べている。

この本の内容でキツイのは「殺人描写」「異常性」「生い立ち」の3点。すべて実話ベースなので、かなりクる。

殺人描写
殺人シーンは長くても数ページ程度、短い場合は名前と年齢だけなのだが、とにかく登場する殺人鬼が「人体損壊」「極端な性的倒錯」「カニバリズム(食人)」「ネクロフィリア」「幼児性愛」「強姦」などの要素を少なくとも数種は持ち合わせているので、短くそっけない文章が効果的に作用している。なぜなら、彼らは殺しすぎていて「一人の人間の殺人について詳しく語る余裕がない」ことが伝わってくる。こんなことを書いていいのかどうかわからないが、まだ「殺してから料理する」のは我慢できるが「生きたまま解体する」というのは、正直吐き気がする。というか本当に気分が悪くなった。400人を殺害したという「アルバート・フィッシュ」のエピソードでは、殺害した10歳の少女をオーブンで焼いて食べた感想を家族に送った手紙紹介されている。「彼女は犯しませんでしたので安心してください」というエスケープから強烈な異常性を感じさせられる。その他も似たり寄ったりで、生きたまま腸を引き出すだの、目玉を手でつぶすだの、肛門にナイフを突き刺すだの、読むに堪えない描写が執拗に(というか本の内容全部に)記述されている。

異常性
上記と被るが、銃で撃ったとか、首を絞めたとか、日本の犯罪ドラマ的な「穏便な」殺し方はほとんど描かれていない。老若男女問わず、被害者への強姦・暴力は当たり前。生きたまま徐々に破壊されていく過程や死体の調理、コレクションの方法などが詳細に語られており、まず、読む気をなくす。ま、それも途中までで、シリアルキラー的感性をある程度理解するようになってくると「それが普通」に思えてくるのが怖い。最後まで読んだ人間は、異常と平常の逆転現象を感じるようになるだろう。著者(平山夢明)はオリジナルの資料に触れているので、よくこんなことに長期間付き合えたな、というのが正直なところだ。よく「ドグラ・マグラ」が「読んだら精神に異常を来す」などと喧伝されるが、あれは所詮フィクション。本書の方は段違いにヤバイ。400人殺すのはさすがに…。

生い立ち
ほとんどすべてのシリアルキラーが幼少期に心理的トラウマを経験しており、著者があとがきで言及している言葉を借りると

多くの者は自分で自分の身を守ることもできない幼い頃に、剥き出しの魂を汚され、凌辱されている。

のである。確かに本書で扱われる殺人鬼は、幼少期に多かれ少なかれ精神的・心理的、あるいは両方に虐待を受けている。著者は殺人鬼を「造られた」「フランケンシュタイン」と評しているが、まさにその通りで、非人間的シリアルキラーに成り果てた人間は、既に非人間的な暴力が振るわれており、深い傷を負っているのである。これをもって彼らを擁護する気は毛頭ないが、約80億人もいる人間がいれば、必ず殺人鬼が発生するということは今後も考察に値するだろう。

アンドレイ・チカチロ
本書でも特に力が入っているのが、53人の女性・子供を殺害した「ロシアの赤い切り裂き魔」ことアンドレイ・チカチロ。生まれながらにインポテンツ(勃起障害)と極度の近視をもっていたという彼の半生は、悪夢そのもの。他の殺人鬼は、その生い立ちや思考に重点が置かれているのに反し、チカチロは、殺人描写が詳細に記されている。名前入り、年齢入りで延々と語られる殺人ショーのエピソードは酸鼻を極める。本書でどれが一人強烈な描写をされているかと聞かれれば、アルバート・フィッシュやヘンリー・リー・ルーカスより、このチカチロを挙げる。次点は「食人鬼」ジェフリー・ダーマーか。読んで後悔したいのであれば、このエピソードだけでも読んでみるといい。冒頭に収録されている本人たちの写真でも最もインパクトがあるのがこのチカチロ。まさに人間の姿をした悪魔に見える。

まとめ
本書はこれだけの内容を描きながら、あとがきの一文はあまりにも平凡だ。

猟奇殺人犯は、見たことも聞いたこともないような状況を造りだすが、彼らの外見はいつでも、あなたの隣にいるごくごく平凡な他人と同じでなのである。

そりゃそうだろう。ヒトラーですら「まとも」な時期はあったのだから、人間が如何に変容するかは、この年になれば否が応でも痛感する。また、対極には「中村哲医師」のような人間も存在することも知っている。

私が真にうそ寒い気分になったのは、400人を殺害したフィッシュの話より、文字通りけた違いの人間を死に追いやった独裁者や政治家が多数いること、また、戦争や姿なき病魔が今も人間を殺し続けていることである。

人間に死は必ず訪れる。これは事実である。そしてまた、本書に登場するようなシリアルキラーが存在すことも事実である。そんな世界だ。

How do you feel now?

(きうら)


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