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★★★★☆

異次元を覗く家(ウィリアム・ホープ・ホジスン[著]・荒俣宏[訳]/ナイトランド叢書)

投稿日:2017年9月1日 更新日:

  • ある廃墟から発見された手稿。
  • 謎の<窖(ピット)>から出現する化け物。
  • とらえどころのないスケールのでかさ。
  • おススメ度:★★★★☆

アイルランド西部クライテンという、小さな村に滞在することになった、トニスンと「わたし」が、廃園のとある廃墟から手記を発見するところから始まります。このような導入は、他の作品でもよくあります(『ねじの回転』もそうでした)。体験者そのものではなく、第三者の目を通して、脅威を知るという形は、読者に信憑性を与えるとともに、二段階の恐怖を感じさせることができると思います。

手記を発見した二人が、その地に何らかのおそろしい印象を受けるのですが、手記の内容もまたおそるべき体験談でした。それを書いたのは、以前ここに住んでいたと思しき老人が書いたもので、彼は、妹と犬と同居していました。彼は、ある日<家>の部屋で異変に襲われます。宇宙へと意識が飛ばされたような感覚でしょうか。気付くと、異世界のような平原にいたのですが、この世界というのが、一種幻想世界のようなのですが、どこか神話世界のようです。

彼は<家>に戻ってくるのですが、その後、深い谷間のピット(穴)から現れた豚の化け物に襲われます。「生きている<恐怖>」を感じたその化け物は、彼が異世界で見た豚の化け物だったのです。<家>に侵入しようとする化けものと応戦したり、奴らを追ってピットの内部へと潜入したりと、この辺りは化け物たちとの戦いが始まるのかなと思わせます。

ところが、ここから彼の手記の内容はとんでもないものになります。部屋にいた彼の周辺の光景(太陽など)が急激に変化し、彼は一瞬にして地球の日々を過ごす体験をし、見つめるものが急激な転変によって崩れていき(愛犬のペッパーの描写がかなしい)、とうとう彼は精神だけの存在となり、宇宙(太陽系)の時空的な遷移を見つめます。この部分が手記の半分近くを占めていて、驚くべき内容です。コズミックホラーというより、よくテレビなどである宇宙の歴史のCG映像を見るような感じです。

本書は何かすごいホラーを期待すると肩透かしをくうかもしれません。はじめに出てきた豚の化け物についてもよく分かりませんし、それとピットとの繋がりや、彼の宇宙レベルの体験が何だったのかも判然としません。まあ、私が読めていないだけかもしれませんが。ホジスンの「著者からのメッセージ」にある、「物語に出てくる<天宮の球体>の記録は、現実の物質のあいだにわたしたちの思考と情念が実体としてたしかに存在することの、驚くべき仮説」という一文が読む際の導き手になりそうです。

この作品は、手記という形で(虚構として)公表されたものです。誰もここに書かれたことの整合性を(書いた本人以外)問えるものはいないのです。もし、人里離れた、何か雰囲気のおそろしい廃墟で、このような手記を発見したらと想像してみてください。これを書いた人間は気が狂っているのか、どうなのか分からずに、言いようのない恐怖を覚えるかもしれません。そのように想定すると、この一見大雑把な内容が、現実的な恐怖を伴って、読む人(手記の発見者)を震え上がらせたさまを、擬似体験できるように思います。

(成城比丘太郎)


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