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★★★★☆

看守の流儀(城山真一/宝島社) 〜ネタバレありなので本文は読まないことをおススメ

投稿日:2022年4月10日 更新日:

  • タイトル通り看守の世界を描く
  • サスペンス・ミステリ・人情劇
  • 自分の知らない世界は興味深い
  • おススメ度:★★★★☆

最近紹介した生活保護がテーマの「悪い夏」と同じく、近くて遠い世界である刑務所を舞台にした群像劇だ。ポイントは近年に書かれた作品であるため、テーマが現代的で読みやすく興味深いこと。面白かった作品ではいつも断っているが、ここまで読まれて興味を持たれた先に(小説の最後にある解説も絶対読まず)本文だけ読まれることを強くおススメする。

以下ネタバレあり。本文の読書前に読むとたぶん後悔される。

サスペンス・ミステリと書いたが、実はこの小説は凝った構成になっており、ある日記の抜粋、5つの連作短編(結構長い)が互いに関連しながら交互に進行し、ラストに2段階の落ちが用意されている。気づく方もいるかも知れないが分からない方が楽しめる。

はっきり言えば全体が一つの叙述トリックになっていて、作者の正確な意図は小説でしか実感できないだろう。漫画や映画でも演出の工夫で可能だろうとは思うが、やはり別物になってしまう。ただ、叙述トリックそのものは斬新ではない。ここまで読ませのるは舞台が刑務所だからだ。組み合わせで創造する妙味と言える。

ここからは具体的なエピソードを紹介してみたい。まだ完全にオチは書かないのであらすじから推理してもらっても楽しめる。ただし各章のオチは書いてしまう。

小説はある受刑者の手記の抜粋から始まる。題名は「プリズン・ダイアリー(完全版)」で作者は三上順太郎。ネットからブレイクし紅白歌合戦にまで出場した人気者だったが今は刑務所の中だ。そんなこともあり、刑務所で自分が特別扱いされていることを書いている。さらに、自分のために尽力してくれた刑務官のHTさんに感謝を述べている所からスタート。彼は特別待遇を受け、他の受刑者との接触はほとんどなく、風呂も一人で入るという。

このHTさんは上級試験合格組と言われかなりのエリート、名前は謎でも何でもなく火石司とすぐに分かる。全編を通して火石は推理劇におけるシャーロックホームズの立ち位置で、様々な刑務所内の事件を解決する要だ。外見は刑務官にしては髪が長い美形だが、顔に大きな傷がある。その理由は語られない。

5連作の1話目のタイトルは「ヨンピン」。最初なので少し長く紹介しよう。

地方の小規模な加賀刑務所(金沢刑務所がモデルと思われる)が舞台だ。副看守長42歳の宗方と若い奥井の二人が明日仮出所する三人の預かった荷物を改めている。そこで37歳の源田という傷害罪を犯した男の荷物から、謎の電話番号が書かれた紙切れが見つかる。彼はヨンピンと呼ばれる刑期の1/4を残して仮出所する優等生だった。しかしその謎を探る前に蛭川という男が死にかけているという急報が入る。彼は薬の入ったアルミケースを飲み込もうとして意識不明の重体になっている。実はこの刑務所では先月も介護が必要な受刑者が誤飲で死亡していた。蛭川も痴呆の診断が下っており、このまま続けて死者が出ると管理不行き届きをマスコミに糾弾され、非常にまずいことになる。せめて自殺であれば言い訳が出来るが、担当看守の若い西門は詳しいことは見ておらず、監視カメラにもはっきりした自殺の根拠となる映像は残っていない。そんな中、翌日仮出所した源田が保護施設から姿を消す。この後は二つの事件の顛末を追っていく。色々あるがラストには宗方は何とか源田を発見、火石も蛭川の自殺未遂の証拠を出し一件落着となる。

このまま書いてると引用の域を越えるので、あとは要点を書いていくことにするが、ここまでで既に叙述トリックをなぞっている。私もあることを避けて書いたのだが、鋭い人には分かるかも知れない。

第二話は「Gトレ」。冒頭のダイアリーの引用の締めくくりは火石のことを同性でも惚れてしまうと表現している。Gトレとは元暴力団受刑者用の仮出所を早めるためのプログラムのことを指す。これを受けるということは他の受刑者から裏切りと見られる。そんなGトレ対象者と受け持つ情の厚い及川という看守部長が中心のお話で、事件は刑務所で印刷を受託している試験問題の流出疑惑だ。誰が犯人か、それを預かる及川の運命はどうなるかというミステリ要素の濃い話で、トリックも用意されている。その及川を助けるのが火石である。事件は最小限の被害で解決する。及川は結局、責任を取って移転となる。ラストはなかなか泣かせるいい場面だった。

第三話「レッドゾーン」は最初に出てきた要介護の服役者たちのエリアを指す。今回の事件は受刑者の健康診断書の紛失。これを内部犯行と見る総務部の小田倉の葛藤が描かれる。長いので端折るが、とにかく近日中に記者会見があってそれまでに書類が見つからないと非常にまずいことになるというサスペンス色の濃い一作。小田倉は処遇部の内部犯行と考える。予算方針で対立したからだが、まずいことがよく起こる刑務所だ。実は犯人は医者自身で意外な理由でこの行動を取ったのだが、これが明かされる過程は複雑なので省く。重要なのはこの医者が社会からドロップアウトしていて、あまり好まれない刑務所での常勤勤務を行なっていることだ。そもそもが受刑者達が暮らす施設である。そういった逸れものたちの悲哀を感じる。火石の行動は控えめだが初めから事件の全貌を知っていたというオチ。火石が初めて刑務官を咎めるというシーンが印象的だ。ちなみに医者の隣の部屋には薬剤師がいるが、彼女も40代独身で何か訳があって働いているらしい。作ったような(実際そうだろう)フランクな性格で火石を「つかちん」と呼ぶ。

第四話は「ガラ受け」。身柄を受ける家族がいれば出所が認められる制度を指すらしい。主役は一話に出てきた西門である。彼は自らの監視不足で、結局担当の受刑者・蛭川が死んでしまったことを悔やんでいる。そのため、彼は受け持ちの貝原という膵臓癌で余命3ヶ月の男をガラ受けさせることで贖罪することを決意する。貝原は不倫現場を目撃された男を突き飛ばした結果、相手が事故で死んでしまったという罪だ。真面目な職人気質の元社長である。ガラ受けに奔走するが西門だが、過去に一例しか無い難事業で、家族に会えるまでは行ったが、その後がうまくいかない。本作でも一番力の入った人情劇で話も長い。取り付く島の無い家族、その家族の抱える秘密、それを少しずつ貝原の心と一緒に解きほぐすという筋立てである。泣けるかどうかは別として、複雑な人間関係を分かりやすく読める。火石は鋭い観察眼や大胆な行動をとって西門をサポートしてくれる。肝心の秘密は、貝原の罪のきっかけとなった不倫事件の真相にある。実は彼が会っていたのは不倫相手ではなく、貝原の義父の隠し子だったのだ。彼は妻と娘の身持ちを考え、それを墓場まで持っていこうとするが、火石の一案もあり、秘密は公になり、家族と和解する。

最終話は「お礼参り」タイトルは出所者の再犯を指す。つまり最終話だけあって出所した受刑者を追う堀の外の話が中心だ。出所が決まった牛切という放火で服役していた男の心理テストが「再犯率が極めて高い」と出てしまう。本話はこの牛切を警察と協力して尾行するお話である。ちなみに三上もすでに出所している。三人称と一人称視点が混在するので、少々混乱するが、これは三上のダイアリーと同じ仕組みなのである。つまり、一人称を牛切と思わせながら、実は牛切を恨んでいた他人でしたという叙述トリックが入れ子構造になっている。ミステリ要素はその部分と少しのトリックだけで、出所した牛切に思える男の復讐の行方が詳しく描かれる。さらにこのエピソードのオチが二つの大オチと連動している。ラスト付近はそのまま作品全体のクライマックスになっている。
では、そのオチとは何か?

本当に書くのでご注意を。

最終話の一段目のオチは先に書いた通り、牛切と思わせていた男が、実は同時期の出所者であることだ。彼は牛切の放火によって恋人の顔に消えない火傷痕を残されたことを恨み、復讐として牛切をイベント会場におびきだし、スプレーとバーナーで顔を焼く計画を立てていた。牛切を追ってわざわざ犯罪者になり刑務所に潜り込んだ程の執念深さである。

二つ目のオチはその行動を寸前に阻止したのが若い女性だということ。顔にはよく見れば大きな傷がある。その女性は看守服を着ていない火石だった。「彼女」は新興宗教の勧誘を装い、バーナーを持った犯罪直前の貞弘という男の手を握って阻止する。やがて貞弘も火石に気付き、刑務所内で彼女にかけられた言葉を思い出し、ついにその復讐を止めるのであった。
必然的に女性である火石がわざわざ男性刑務所に赴任した理由が必要になる。これが最後のオチで、プリズン・ダイアリーの作者の三上順太郎が性転換手術を受けた戸籍上の男性だったからである。つまりトランスジェンダーかつ見た目が女性という三上のために火石は志願して、たった一人の女性刑務官として加賀刑務所で勤務していた。

そう思って読み返してみると、叙述トリック特有のミスリードが多数仕込まれているのが分かる。私もこの紹介文で代名詞で火石を呼ばなかった。火石には三人称の人代名詞が本文でも使われていないのである。また彼女が特別なのは上級試験に合格したエリートが地方刑務所に来たからという風に感じさせられるのだが、よく読むともう少しでその暗黙の了解を破りそうになっているシーンもある(軽い刑務官が女性であると言いかける)。顔の傷も男性らしさの演出だろう。最初の登場シーンで髪が長めで歌舞伎の女形のような整った顔と描写されているが、これも男性と思わせるミスリードだろう。三上のダイアリーも全編を読めば自分が女性であるという描写が出てくるはずだが、抜粋という形でそれを避けている。火石を「同性でも惚れてしまう」という部分をわざわざ残しているのも演出なのである。読み返せばもっと色々あるだろう。

私はこのオチにびっくり仰天するほどでも無かったが、全編に漂う微妙な違和感の正体が分かってスッキリして本を閉じた。

ただ、今回紹介文を書くに当たって読み返してみると、ある種の軽さを感じてしまったのが惜しい。いわゆるLGBTQ問題をメインに扱っていて、スマホやネットブレイク、介護問題など現代的なテーマは読みやすかったが、やや通俗的な解釈が多かった。再読すると、ラストのオチを通すために多少無理しているのも分かる。三上順太郎もネットでブレイクする歌手の本名とは思えない。

などなど細かい不満はあるものの、普段不満ばかり言っている私でも最後まで楽しく読めた。さすがに怨霊とか殺人鬼とか因縁の土地など、いかにもホラーに食傷気味だったので、程よくジャンルミックスされた本作は新鮮だった。

しかしまた次の面白い本を探さなければならないな……。

(きうら)


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