★★★☆☆

穴の町(ショーン・プレスコット、北田絵里子〔訳〕/早川書房)

投稿日:2019年8月3日 更新日:

  • 「カフカ、カルヴィーノ、安部公房の系譜を継ぐ」物語?
  • 消えゆく町のことを本にしようとする「ぼく」
  • 町が消えることは町に関することがすべて消え去ること
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】

オーストラリア出身の著者による小説デビュー作。先日記事に書いた『ある一生』は、オーストリアの作家のもので、こちらは南半球にある大陸のオーストラリアの作家のもの。物語の舞台も、オーストラリアである。

【とある町にやってきた「ぼく」】

「ニューサウスウェールズ中西部の消えゆく町々」についての本を書くために、とある町を訪れた「ぼく」が、その本を書こうとするものの、町に住む人とのアレコレを通して、執筆が難しくなっていくという筋の話。そして、その町に突然「穴」が現れて町自体が消えていってしまう。やがて「ぼく」は、とある女性とともに、町を出て都市を目指すことになるのだが・・・

まず、「ぼく」がこの町にどうやって来たのかがよく分からない。その辺はもしかしたら私が読みとばしただけかもしれないけど、この町には貨物列車しか止まらないし、他の町からバスなども通っていないようなので、この町に訪れるには車で来るしかなさそう。最終的に「ぼく」が車で町から出ていくので、おそらく車で来たのだろう。

【町にいる人たち】

本書に出てくるのは、人も施設も含めて、なるべく抽象化されているように思える。もちろん、「ぼく」以外の、シアラやジェニーやトムやリックというような登場人物たちには、具体的な名前が付けられているしその人たちも色んな職種に就いていたり特徴があったりするのだけれども、そのいずれもが名前も含めて他と代替可能と思えるほどに、影が薄い。そのわけは、この「町」や「都市」という場所や特徴がなるべく薄い印象を持つように書かれているためと、登場人物のしていることが何の役にも立たないような、そういう「閉塞感」を感じさせるためだろう。

この町で住人がしていることは、基本的に何の意味もないようなことばかり。「ぼく」はこの町ではほとんど情報を得られない。図書館員によると、この町について知るべき理由が何もないのでこの町に関する本は何もない、とのこと。それから色んな人がいる。誰も乗らないバスを延々と巡回させている運転手はその町で音楽ができなくなったためにそのバスで生活するようになっている。他にも誰も聴かないコミュニティラジオのDJがいたりする。要は、その町に関する沿革が何もないと、「ぼく」は知るはめになるだけ。消え去る町は、この町のことでもあると思えてくる。そしてそのことは、何も舞台となった町のことだけではないとも。

さて、挙句の果てには(?)、この町について調べようとする「ぼく」のことをぶちのめしてやろうとする人物がいると、「ぼく」は知らされるのだけども、その顛末がこれまたおもしろい。もしかしたら、本書で一番笑った場面じゃないだろうか。

そんななかで、唯一印象的なのが、「<マクドナルド>」といった世界的に蔓延っている店名がアイコンのように、本書で浮かびあがるようにあらわれるところ。そのことがまたより一層、「町」と「都市」の均質化といった側面を表してもいて、なんだか日本の風景のことも思いあわせると、他人事ではない。

【穴とは何か】

この町に現れる「穴」は何なのかは、読む人それぞれ次第というか、どうとでも解釈したらよいかもしれない。まあ、町が消滅することにつながる「穴」とは、そこに住む人や歴史をも消し去ることに通じるので、訳者あとがきにあるように、土地それぞれの持つ黒歴史的なものをも消し去ることになるのだろう。その「穴」は「無」につながるのではないかと「ぼく」は思わせられるのだけれども、もしかしたら、「無」につながるかもしれない「穴」のことを考えることこそ、「閉塞感」の正体なのかもしれない。

しかし個人的には、最後にたどりつく「都市」のことを読むと、それほどの閉塞感はおぼえない。なんというか、著者自身がゲームライターでもあるらしいので、ゲーム感覚で読むことができるような気がする。RPGかなんかで、ヒントを求めてあれやこれやするも、なかなか核心にたどりつけない感じの、そういうもどかしさをおぼえるときのような。そういう感じが好きなら楽しめます。

【本書に関連する本】

訳者あとがきによると、著者自身はカフカの『城』(Amazon)に影響を受けているよう。この町にやってきた「ぼく」の姿は、『城』を訪れた測量士の「K」に通じる部分がある。まさに現代版『城』という感じもしないでもない。

それから、安部公房『砂の女』(Amazon)との連想も訳者は書いてるのだけども、たしかに、『砂の女』の主人公が集落に捉われてしまう感じにも本書と似ている部分がある。そして、それ以上に類似点があると個人的に思うのが、安部公房の『燃えつきた地図』(Amazon)だろう。『燃えつきた地図』では興信所の探偵が迷い込むようにとある団地を訪れるところから始まるのだけども、それからの展開も本書と似ている。すくなくとも、読んだ時の印象は非常に似ている。

他方、カルヴィーノとの関連はよく分からない。なんかありそうな気はするが、今のところなにも思いつかない。

【まとめ】

まあなんというか、アドベンチャーゲームを進めていくような感じで読むと、それなりにおもしろく読めると思います。私はこういう小説を読むときには、いつもそうやって読んでいます。もちろん、何かの意味をよみとろうとして読んでもいいですし、現代版『城』や『砂の女』としても読んでもいいです。個人的にはそれほど閉塞感は感じなかったです。なぜかというと、現実的に逼迫した状況にある人にとっては、ここに書かれたことは生ぬるく感じてしまうからです。最後は余計なことを書きましたが、あまり怖くはないけどまあまあおもしろいです。

(成城比丘太郎)


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