★★★☆☆

絶景本棚(本の雑誌編集部〔編〕/本の雑誌社)

投稿日:2018年3月15日 更新日:

  • 作家・エッセイストから、編集者など、いろんな人の本棚〔写真〕
  • いずれ劣らぬ蔵書(自慢)
  • この中のいずれかに理想の本棚がある、かも
  • おススメ度:★★★☆☆

もう15年以上前にもなるが、私は、『書斎曼荼羅(参考リンク/Ama)』という、(主に)作家たちの蔵書と数々のコレクションを、イラストと少しの写真を交えて紹介した本を愛読していた。愛読というか、折にふれてパラパラとめくっては、「すげぇなぁ」とか「うらやましい」とか、「ふーん」とか心の中で呟いていた。要は、ちょっとボーッとしたいときに外の風景をマヌケ面で眺めるように、ページをめくっていたというわけだ。ちなみに、『書斎曼荼羅』と、この『絶景本棚』の両方に登場するのは、どうやら京極夏彦[の本棚]のみの模様。

その後、著名人の本棚にはあまり興味を覚えなくなり、ネットなどでアップされた、〔一般の〕個人の本棚を見ることの方が楽しくなった。なぜか。だいたいにおいて、一般の読書家の方々は何万冊も所持しているわけではなく、1~数本の本棚に、自分の好きだと思われる書物を並べているだけで、そこには、その人の人間性や小宇宙のようなものが垣間見れて、とても興味深いものがあるから。これは何も、覗き見根性というわけではなく、ただどんな本が並べられているのかを見て、おそらく厳選されて選ばれたんだろうな、というその経緯に妄想をはたらかせ、また、私と似通ったラインナップがあるか、私が読んでない本があるか、そういうものを探るのが好きなのだ(やはり、覗き見か)。在野の一般の読書家は、例えば個人全集のいくつかでも、すべて揃いで買うわけでもなく、何巻かだけを本棚に並べていたりすることもある。こういうところはなんか親近感を覚える。

そして、久しぶりに読んだ(見た)著名人の本棚本である、この『絶景本棚』においては、確かにタイトル通り、絶景としかいえないような本棚群がページいっぱいに並んでいる。人によっては、本棚の容量を軽く超え、床に平積みは当たり前、部屋一面本だらけで足の踏み場がないものもある(まさに、魔窟)。その中で、冒頭の松原隆一郎や京極夏彦の本棚は穏当だ。いや、本棚自体は壮観なものだが、整然としていすぎて、なんの面白みもない。本書カバーの根岸哲也(大学職員)の本棚もかなり整然としているが、こちらはラインナップ的に共感できるものがある(とくに、後藤明生の本が並んでいる、それだけでうれしい)。一方、『書斎曼荼羅』の京極の書斎と、本書のそれとは同じだと思うが、どちらもカオスさがなくて、これといって惹かれるものがない。むしろ、『書斎曼荼羅』に書かれている、当時の書斎の本を全て六畳間アパートの一室に収めていたというとんでもない時期の方に興味がある。本が崩れそうな中で、『魍魎の匣』を書き上げたという、その光景を見てみたかった。

本書の中で、純粋な(?)小説家というと、京極夏彦と新井素子くらいか。小説家は一冊の本を書く時に、大量の資料を使用するともいうが、本書に登場する小説家以外の人の本棚も、もちろん資料などで埋まっている。しかし、それ以上に目につくのが、コレクションとして蒐集した、書籍の数々である。海外の原書から、ミステリ本、SF、古書、雑誌、漫画などなど、それほど驚くような書名が多いわけではないが、それでもその分量(と、おそらく購入したときの金額)には驚く。実際に目にすると圧倒されるだろうな。例えば、祖父江慎(ブック・デザイナー)の本棚にある、夏目漱石関連本や、『南総里見八犬伝』関連本はスゴイ。その他にも色々あるが、これはまあ、百聞は一見にしかず。

本書は、極度の老眼でない限り、書名がはっきり見えるので、一つ一つ確かめながら読むのが楽しい。私は、文庫や新書が好きなので、どんなものがあるか確認しながら眺めるのが面白い。ちくま〔学芸〕文庫などを見ると少しテンションが上がる。しかし、一番テンションが上がる、いや、ほっとするのは、壁一面の本棚に、詩集がいくつか見えたときだろうか(ロルカの詩集がいくつか見えるなぁ)。特に、色褪せた「思潮社現代詩文庫」などの背表紙が見えただけでなぜか落ち着く。これは例えるなら、ギアナ高地にあるエンジェルフォールの壮大さを眺めて頭がくらくらした後に、岩場に生えた小さな花や草を見た時の安心感に通じるものがある(ギアナ高地行ったことないけど)。

ここで、ちょっと私の理想的な本棚の構成を少しだけ。まず大きめの本棚(六段くらい)一本だけでいい。下段には、辞書辞典事典字典の類を置き、その隙間に画集や写真集や地図などの資料集をさしこむ。そして二段目三段目には、自分にとって欠くことのできない本(書物としてとっておきたい本)を配置する。そして四段目五段目に今一番興味のある本を置く。そして最上段には、詩集(句集・歌集など含む)を配する。漫画は他のケースなどに収納して、電子書籍などデータにおとせるものはおとして極力本を持たないようにする。ここで一番大事なのは、詩集は、文庫であっても紙の本で読みたいということ。詩は、やはり紙をめくってページの余白ごと読まないといけない。
余談ながら、読書家を名乗る人がいて、その人がどれだけの本を所持・読破していようとも、その本棚の一段に、いや一画にでも詩集コーナーを設けていなければ、私はその人を読書家とは呼びたくないものだな(超偏見)。

本書は、本当に本を好きな人が本気で好きな本を集めた結果を本好きに向けて公表し本好きの読者をさらに本好きなさしめようと画策された、そんな本棚写真集である。

(成城比丘太郎)


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