★★★☆☆

絶滅危惧の地味な虫たち(小松貴/ちくま新書)

投稿日:2018年5月28日 更新日:

  • 失われゆく自然と虫たち
  • 虫探索のために全国を飛び回る著者の熱意
  • 少しは虫が好きになるかも
  • おススメ度:★★★☆☆

【はじめに】
先日、図書館から『目からウロコの自然観察』(唐沢孝一/中公新書(Ama)を借りて読んだのですが、残念ながら「目から鱗」がボトボトこぼれることはありませんでした。落ちそうで落ちそうにない「ウロコ」をなんとか落そうと頑張ったのですが、物事の真理がわかった、というような境地に至るような「ウロコ」は落とせませんでした。まあそれでも、オールカラーでわかりやすい読み物でした。簡単な自然観察本としてはまあまあ読めました(暇つぶし程度には)。内容的には、私がよく見かける昆虫や動物や植物のことが少しは分かる程度ですが。
この本の中で、カマキリの共食いの連鎖のことに触れられていました。私もよく共食いの場面に遭遇しますが、三匹以上の共食い連鎖は見たことがない。大きなバッタがアブラゼミを捕獲したところを狙って、カマキリが漁夫の利(?)を得たところは見たことありますが。

【『絶滅危惧の地味な虫たち』について】
さて、『目からウロコの自然観察』がイマイチだったせいか、モヤモヤが残ってしまい、他に生物関係の新書で何か面白そうなのはないだろうかと、本屋で探したところ、見つけたのが『絶滅危惧の地味な虫たち』です。これはタイトルに「地味な」と入っているのが、まずはイイ。とにかく、本書に載せられているのは、見たことはおろか、名前すら聞いたことがないと自信を持って言えるような、地味を通り越してもはやその存在すら疑うレベルの虫たちばかり。絶滅危惧種、つまり「レッドリスト」に一度でも記載された虫が対象ですから当たり前なのでしょう。しかし、その絶滅が危惧されるなかでも、絶滅しても誰も騒がないような虫たちばかり載っているのです。人気のあるといわれるチョウやトンボなどは、本書では無視なのです。

そもそも日本には、昆虫が、「名前がついたものだけでも三万種近く、推定上は十万種にのぼるとされている」ように、名前のついていないものがいくらでもいるのです。「レッドリスト」に記載されているものの中で、人間に優遇され特別に保護されているのは、外見の優美で体の大きなチョウやトンボなどといった一部のものばかり。それほどの種がいるとされている中で絶滅のおそれがあるのは、なにも有名なものばかりではありません。それは少しでも考えれば分かること。しかし、現実には、そうはなっていない。なぜなら、体長が小さくて局地的にしか棲息していない、あまりにも「地味な」存在の上に、昆虫マニアにしか知られていないからか。例えば、以前「クニマス」が再発見された時には報道されたが、同じように「ウスケメクラチビゴミムシ」という(ひどい名前の)虫が近年再発見された時には、一般には見向きもされなかったようです。まあ、報道されていても「ふ~ん」としか思わなかったでしょうが。ちなみに上記のひどい名前の虫の学名は「素晴らしい、驚嘆すべき」という意味なのだそうです。

本書には、聞いたことのある虫のことも載っています。例えば、「蛾」のこと。チョウよりはるかに絶滅の危機が高いものがいるのに無視されているようです。さらには、「蚊」もまた同様。こちらに関しては、著者も「蚊の愛好家に会ったことはない」というほどの不人気ぶり。その中で、清流を好む「日本のハマダラカの仲間は多くの種が急速に絶滅の道」にあるようです。感染症を媒介する蚊については分かっていないこともあるので、絶滅すると困るのではないかと。
また、著者によると「ブユ」の扱いもひどいそうです。

ときに害虫扱いされていて、絶滅危機にあっても、おそらく保護されないであろうものに蜂がいます。「ヤマトアシナガバチ」は、近年不可解なほどの減少ぶりを見せていて、その原因は分かっていません。また、きわめて凶暴な「モンスズメバチ」の場合、積極的な駆除の対象になるので、おそらく絶滅しても誰も気にしないでしょう。スズメバチが絶滅したら、生態系に何らかの不都合が起こらないとは言えないと思うのですが、おそらくそのことに思いつく人はあまりいないでしょうね。対馬や九州には、日本の種よりも凶暴な「ツマアカスズメバチ」がすでに上陸しているようですし、将来的にはこちらが猛威をふるうのでしょうか。
蟻のことについても、困ったことに(?)、赤い「ヤマアリ類」は、蟻塚を作ることとその容姿のために「ヒアリ」と間違われて駆除される可能性が高くなるようです。比較的寒冷地に住むという「ヤマアリ類」については、唯一(?)この本で役に立つ情報でしょう。もし、「ヒアリ」に似た蟻塚を作る赤い蟻がいたら、それはもしかしたら「ヤマアリ」かもしれないので、まずは確かめてください、ということをお伝えしておきます。

このような絶滅危惧種の書籍を出すことについて、著者にはジレンマがあるようです。本書が乱獲につながる情報源になるという懸念はあるが、同時に、人間の住居付近に「レッドリスト」に載っているような地味な虫がいることに気付いてもらいたい。
また、「虫マニア」が採集中に各地でしでかしたことで「採集中止」になっている地域もあります。しかし、採集中止になると、「レッドリスト」の掲載に有益な情報も得られなくなるのです。そうすると、虫に対する無関心が進むかもしれず、そうなると、虫へのイメージも悪くなる一方になるかもしれません。まあ、著者には、「虫マニア」への偏見を払しょくしたい思いもあるのでしょう。

ここに載せられた虫の多くは、名前すら初めて聞くような虫ばかり。それらは、人知れずこっそり暮らしているものばかりなのです。それらの虫たちの環境依存度は非常に高いのです。ちょっとした環境の変化によってすぐにいなくなることが予想されます。植生の変化による乾燥化、河川の護岸工事、海岸の整備、ダム建設、森林伐採、土地の造成、洞窟の整備などによって簡単に絶滅してしまうのです。というか、近い将来に絶滅するのでしょう。本書には、近い未来に姿を隠すであろう虫たちに対する愛惜に溢れています。
普段歩いていても、ふつうには目につかない虫たちばかりですが、これから小さい虫を見かけるたびに、いとおしくなるような気にさせてくれる本です。

(成城比丘太郎)


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