★★★☆☆

縄文の思想(瀬川拓郎/講談社現代新書)

投稿日:2017年12月13日 更新日:

  • アイヌと古代海民との共通性
  • 近現代までにいきのこる縄文の思想
  • おおまかなまとめ
  • おススメ度:★★★☆☆

著者は、考古学者でアイヌの研究者です。これまでの著書ではアイヌの歴史などを(主に)追ってきましたが、本書ではアイヌと古代海民との共通性をみて、そこから縄文的思想を「立体的に浮かびあがらせ」ようとしています。縄文と弥生をはさんで存在した古代海民。彼らは日本列島(あるいは大陸沿岸)を北から南へ行き来して交易などに従事しました。海民はまた「非モノカルチャー」の文化を継承していて、そのことも本書で強調されるところです。

「海民とは、弥生文化という新たな時代状況のもとで、各地に偏在する高度な縄文伝統の漁猟文化を導入しながら、列島全体で専業的な海洋適応の暮らしを構築していった海辺の人びと」と著者は定義したうえで、日本各地にのこる海民由来の縄文文化のあとをみていきます。とくに北海道にのこしたと思われる海民の足跡を遺跡からみていく流れは著者の面目躍如といったところです。ここからうかがえるのは、グローバルな交易を行った「海民という縄文性を帯びた人びとのネットワーク」があったということです。個人的には出雲弁と東北北部の方言との近縁性に、海民かどう関わったのかに興味があります。

また、アイヌと古代海民とに共通する伝説をとりあげます。それは「海の神が山頂の女神のもとへ往還する物語」であり、海辺にある洞窟が他界への入り口となり、出口である山頂が他界的な場であったという構造をもちます。単純化したものではあるものの、縄文的世界観とは、このような二元的な世界をベースにもっていたようです。ここでいう海民の伝説とは、例えば各地の『風土記』や『古事記』に記された海辺の人びとのものと思われる神話的物語から読みとったものです。

本書では、はっきりと縄文の思想がみえるわけではなく、その輪郭がおぼろげにうかぶだけです。海民と占いのことや、縄文性をのこした人の呪能や性能を王権がとりこんでいったことや、まれびとのことや、アイヌの交易にみる贈与など幅広くみていくので、かなり射程が広く懐も深そうなので、思想として剔出するには骨の折れそうな印象です。ひとまず古代海民からつづく縄文性を身に帯びた人びとは、縄文の思想によって彼らの生活を律していたといえそうです。その思想とは「自由・自治・平和・平等に彩られていた」ようで、そのなかでも平等は「才能と野心をもつ若者を排除して」成り立つものであり、だからこそ外部(モノカルチャーとしての農耕民)からは「剥き出しの欲望・暴力」とみえたようです。しかしそこからは何か生き生きとした世界が垣間見えるかもしれないというのは魅力的です。まだ端緒についたかんじの「縄文の思想」素描ですが、ここから(現代人が)何を読みとるかは個人の自由でしょう。

本書は怖い本というわけではないですが、興味深い本ではあるので、そういった意味ではおススメです。

(成城比丘太郎)


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