- 20年前の誘拐事件の謎を追う
- 錯綜する人間関係をスピーディに
- 意外性と引き替えに、ラストにも疑問も
- おススメ度:★★★✩✩
(あらすじ)「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」という「事件」をきっかけに、20年前の誘拐事件が再び動き出す。社命を受けたのは、今や閑職に追いやられた元敏腕記者・梶。犯人はなぜ、両親ではなく、病院をターゲットにしたのか。誘拐犯を父に持つ朝倉比呂子の運命は?
という非常に手堅いストーリーラインと、その期待を裏切らない地に足のついた展開をするドラマ。独特のリズムがあるが、重すぎず軽すぎない文体で、徐々に真実に近づいていく。他のミステリと比べて特段派手というわけではないが、読み進むには十分に興味深い事実が少しずつ明かされる。
登場人物全体にリアリティがあるのもプラス点。特に千代という武藤家のお手伝いさんがいい味を出している。彼女と比呂子が出会うシーンはある意味この小説を象徴している光景だといってもいいだろう。
ここまで上げ調子で書いてきたが、この小説の難しいところは、やはりその「堅実さ」と「リアリティ」にある。両方とももちろん、誉め言葉なのだが、すでに無数の先達の作品があふれかえる現代、その二つが「没個性」を呼び、他の作品に埋没させる要因となっている。
しかし、派手でトリッキーな作品があふれる現在、却って「安心して楽しめる」特異な存在と言えるかもしれないだろう。この辺、評価が難しいのだが、俗な言い方が、いわゆる良くできた「二時間ドラマ」を期待されるのであれば、十分に期待に応える一冊だろう。
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