★★★☆☆

自殺の歴史(ロミ、土屋和之[訳]/国書刊行会)~読書メモ(017)

投稿日:2018年9月19日 更新日:

  • 読書メモ(17)
  • 古今東西自殺のエピソード
  • あまりこわくはない
  • おススメ度:★★★☆☆

【本書について】

図書館で借りてきて、ちまちまと読みすすめていった本。読む前は、それほど怖い本ではないだろうなと思ったが、その通りに怖い本ではなかった。怖い本を取り上げるというこのサイトに基準があるのかどうかわからないが(というか、ないと思う)、その基準に照らし合わせると怖い本ではない。むしろ、おもしろエピソード満載なので、ごくまれに読んでいてクスっとなるところがあった。ただし、私のように「自殺」にすこしでも興味があれば楽しると思うが、そうでなければ読む必要はないと思う。

1964年原著刊行ということなので、そのあたりがあまり怖いと思わせない要因の一つ。なぜなら、ここに載せられた自殺にまつわるエピソードは古いものばかりなので、なんとなく生々しさを感じないから。こういった自殺関連の本によくある悪趣味な写真なども収録されず、自殺現場の画像もイラストのみ。

フランスを中心に、ヨーロッパや日本を含む世界の自殺に関してのエピソードが載せられている。新聞記事や文学作品などからの引用もあり、どちらかというと単なる自殺の万国博覧会といったかんじ。学術的なところもあまりない。

この本でおもしろいというか、興味深かったのが、モナコにカジノができたさいに、自殺者が増えたので、カジノに対する反対運動がメディアなどで起きたが、金銭(株式)の力でそれを黙らせたということ。さて、日本でカジノができた場合はどうなるのでしょ。

【おことわり?】

さて、本来なら、ここで感想というか紹介は終わりなのですが、それだけでは味気ない(?)ので、穴埋めとして創作を載せます。まあ、暇があれば読んで下さればよいものです(いつも他人の創作物に対して文句ばかり言ってるので載せただけです)。ちなみに、只今『毎日新聞』で絶賛連載中である、作家又吉直樹の小説に触発されたことを付言しておきます。

【ある回想という名の創作(1)】

僕たちはその人をいつのころか先生と呼んでいた。なぜそう呼び始めたのかは思い出せない。名前はまだない、というわけではなかった。僕たちは先生の本名を知っていたのだけど、先生のことをSという名字では呼ばずに、先生と呼んだのだけども、それは名字で呼ぶのが不自然と感じたからだ。なぜ、先生と呼ぶのかは僕たちの間では問わないという不文律ができていて、先生の個人的な事情もあまりきかないことにしていた。

僕たちは学校が終わったりすると、いくつかの流れが大きな川になるように、いつも気がつくと先生の家に上がりこんでいた。先生の家は完全に溜まり場になっていたのだと思う。先生は夕方になるまで帰宅しないことも多くて、どこで何をやっているのかも分からなかった。最後まで、先生が何をしていたのかは分らなかった。僕が大人になってからは、先生の事情を薄々理解することができたのだが。

僕たちは、留守にしている先生は、別れた家族の見舞いに行っているのだとか、何か人に言えない仕事をしているのだとか、近所の寺に座禅をしに行っているだとか、托鉢に出ているのではないかとか、勝手なことを言いあっては、いつも先生の家でゲームをしたり、先生の蔵書を読みだしたり、先生が隠してあった酒を探りだしては酸っぱくなりかけているそれを呑みだしたり、僕たちが勝手に庭に植え付けたミニトマトやジャガイモなんかを収穫してそれらを料理しては酒のあてにしていたりした。

僕はだいたい、持ってきたチーズなんかをぼそぼそ食いながら、先生の蔵書を読むことが多かった。先生の蔵書の多くは文学書で、僕にとっては名前の知らない文学者ばかりだった。僕が分かったのは、夏目漱石の他に、太宰治や芥川龍之介や川端康成や三島由紀夫や有島武郎や牧野信一や原民喜や嘉村磯多や葛西善蔵や小山清といったものだけだった。この人たちを含めて、僕は色んな文学を読んだと思う。でも、先生がもっている本は古いものが多いせいか、虫食いやカビや変な書き込みなんかで、ページ半分何が書いているのか分からない本も多くて、結局何が書いてあるか分からないまま読了した本も多かった。

先生は、外が暗くなってくると僕たちが気付かない間に帰宅していて、いつの間にか僕たちの間に加わって、酒を呑みだしたり、鼻毛を抜いて並べていたり、座禅を組んで瞑想していたり、対戦ゲームの一員になっていたりして、それに気付いた僕たちを驚かせた。でも、その驚きは一瞬のもので、すぐに先生がそこでそうしているのが当たり前のようになって、時刻が8時を回ると、僕たちは順々に先生の家を何も言わずに、蒸気が拡散するように出て行った。

ある日の夕方に、僕を除いてみんな帰ってしまって、そこへ先生が現れて、二人きりになったことがあった。それは、9月のことだったと思う。先生はビニール袋を手に提げて、外を眺めていた僕の後ろから、おや君だけかい、と声をかけてきた。僕が、はいみんなは帰りました、と言うと、先生は黙ったまま袋から何かが入ったビンを取り出して、グラスに注ぎ出した。

それは金色の液体だった。僕がその様子を見ていると、先生は、飲むかい、と言って、僕にグラスの一つを差し出した。僕がおそるおそるその液体の匂いを嗅ぐと、アルコールを煮詰めたとしか言いようのない強烈な刺激が鼻腔を貫いていった。僕が、うわっ、と言ってのけぞると、先生は、それは酒蔵の友人が試しに仕込んだウイスキーでちょっと試飲してくれっていわれてね、と言うと、先生は僕のグラスに炭酸水を注ぎこんでくれた。

限りなく透明に近く薄まった金色の液体はほとんど味も臭いもなくなって、それは薄めた尿だといわれてもわからないくらい何のアルコール感もなくなってしまっていた。先生は、氷だけでそれを割っていて、平然とした顔で舐めるように呑んでいた。しばらく黙ったまま、僕たちは薄青くなってきた空を見ていたら、先生はぼそっと、9月の月はいいなぁ、と呟いた。

僕も、薄暮を迎えつつある空に浮かぶ、満ちつつある月がひっそりと漂っている情景に、なんとなく風情というものを感じようとしていた。僕が、なんだか雅な感じですよね、と言うと、先生は何も言わずに、部屋の明かりをつけないままCDを取り出してプレイヤーに入れた。流れてきた音楽はどうやらクラシックのようで、厳かな感じで始まったかと思うと、しだいに旋律は静かな哀調を帯びるようになってきた。

僕が、これは何という曲ですか、ときくと、先生は、シューベルトの未完成、と答えて、未完成はいいよね未完成はねぇ月にしても何にしても未完成は本当に私の心をくすぐってくれるし未完成には完成に向かう可能態の魅力が詰まっていていいよね、と誰に語りかけているのか分からないまま嘆息すると、窓を閉めて部屋の明かりをつけた。

僕は、先生が言うその未完成という言葉になぜか魅力を感じて、未完成のどういうところがいいのか尋ねると、先生は、直接そのことには答えず、それは死のことだね死がひとつの完成だとすると生きていることは未完成なんだよ、と言った。僕は分かったようで分からないので、死という完成形に向けて未完成の現実を生きているのでしょうかだから自ら死を選ぶことは人間を完成させることなのでしょうか、ときくと、先生は、それならいんだがむしろ私はそのどちらも選べられないんだよね、と答えて、一冊の本を取り出した。先生は、「自殺の固定観念は、生きることも死ぬこともかなわず、この二重の不可能性に絶えず注意を注いでいる者の属性である」と声に出してその一節を読むと、僕にその本を手渡した。それは『悪しき造物主』という本だった。僕はしばらくその本をパラパラとめくって読んでから、先生に向かって、なんだか悪趣味なことばかり書いてますね、と言うと、一瞬にして先生は今まで見たことのない表情で顔を歪めながら、電灯の影になって暗くなっている壁を背景にぼんやり浮かんだ顔だけを轢死者のように青白く漂わせて、さらに歪んだ顔をひきつらせて何かおそろしい暗示を運んできた鳥のように口元を裂きつつ、僕の魂を奈落に引きずり込む声を微かにあげた。僕はその時、先生の顔をかぶった悪魔の姿を見たような気がした。僕を食らうでもなく僕を堕落させるでもない、本当の絶対的な悪魔の存在を感じた。その姿にかなしげな恐怖を感じた僕は、すぐにその本を先生に渡すと、何も言わずに、薄暗い廊下を通りぬけて、門扉を壊すくらいの勢いで駆け抜けた。

そして、それからしばらくは先生のもとを訪れなかったが、仲間たちが、先生が僕のことを心配している、と言うので、一カ月ぶりに先生のもとへ行ってみると、先生は今までの通りに穏やかな顔をしていて僕たちを迎え、その後、先生との交際が唐突に絶えるまで、何事もなく僕たちと先生は日々を過ごした。

(成城比丘太郎)


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