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蔵書の処分と、最近読んだ怪奇幻想もの(成城のコラム-25)

投稿日:2021年1月28日 更新日:

  • 本の処分について
  • 最近読んだ怪奇幻想もの
  • イタリア独自の幻想小説
  • オススメ度:★★★★☆

【蔵書家あるある】

年が明けてまずすることというと、蔵書の整理です。断捨離というほどのものではないです。毎年数百冊くらい処分する候補の本を選び出して、あーだこーだ悩むわけです。悩みながら処分する本を選びつつ、本を手にとってページをめくり時間だけが過ぎていくというのが、蔵書家としての楽しみだという人もいるかもしれません。

そんなこんなで、処分する本を選ぶのが新年のタスクみたいなもんです。本の処分先は、古本屋に売るか、病院とかの施設に寄贈するかですが、去年はなんやかんやで病院に持っていくのは控えました。なので、その代わりにとある施設にキレイな本を寄贈しました。今年もまだご時世的に、病院に持っていくのは無理そうでしょうか。

ちなみに、処分した本の穴埋め(?)として新刊や古本を買うのは、最近控えてます。どんどん本を減らしていきまっしょいということです。できれば、読みたい人に差し上げたいとも思うのですが、なるべくその本を読みたいという人に直接手渡したいというのはちょっとエラソーかな。

蔵書を意味なく所蔵していても、そのうち死蔵したその本たちは、どこかへ遺贈されるだけかもしれません。まあ、遺贈されるならまだいいですが、廃棄されるのは何とも忍びない。

【読んだ怪奇幻想もの】

・ 『19世紀イタリア怪奇幻想短篇集』(橋本勝雄〔編・訳〕、光文社古典新訳文庫)

収録作品は以下の通り。

「木苺のなかの魂」(イジーノ・ウーゴ・タルケッティ)

「ファ・ゴア・ニの幽霊」(ヴィットリオ・ピーカ)

「死後の告解」(レミージョ・ゼーナ)

「黒のビショップ」(アッリーゴ・ボイト)

「魔術師」(カルロ・ドッスィ)

「クリスマスの夜」(カミッロ・ボイト)

「夢遊病者の一症例」(ルイージ・カプアーナ)

「未来世紀に関する哲学的考察」(イッポリト・ニエーヴォ)

「三匹のカタツムリ」(ヴィットリオ・インブリアーニ)

【感想など】

19世紀イタリアの、日本ではあまり知られていない怪奇幻想小説をあつめたもので、ほとんどというか全く読んだことのない作家ばかりでした。「解説」にもある通りに、ホフマンやポーやオカルティズムの影響が濃密に感じられる作品あり、SF風ものあり、民話風ありと、なかなか面白い短篇集でした。単なる幻想ものだけでなく、文学性も感じられました。

「木苺のなかの魂」は、木苺のなかに宿った女性の魂が、ある男爵に入り込み、ものの見え方が二重になります。そのふたりのやり取りがおもろいです。なにかの幽霊的なものに憑依された人を客観的に見ると、こう見えるんだろうなぁ。

「ファ・ゴア・ニの幽霊」は、悪魔らしきものとの契約と、そらから幽霊による復讐が描かれます。タイトルにある名前は、日本人とされます。日本やインドの要素を取り入れて、当時の日本趣味の一端がうかがえるかもしれません。

「死後の告解」は、語り手が死んだ女性の「あの世の告解」を聴く筋の話。幻想小説というより、なにかの奇跡物語のよう。

「黒のビショップ」は、黒人と白人のチェスの差し合いが、当時の情勢との絡みで、おそろしい展開を迎えます。「光と闇」の対比が効果的で、なかなかのおもしろさ。

「魔術師」は、死への恐怖を逃れるため研究人生を送った男性が、迎える結末とは。何の予断もなく読む方がいいかも。

「クリスマスの夜」は、亡くなった姉の面影を、とある女性にみる。情景描写は、『死都ブリュージュ』を思わせます。それと、キラキラした室内の描写が印象的だった。

「夢遊病の一症例」は、ミステリとして読めます。しかし、スペンゲル氏の「明晰な直感」による捜査は、はっきりいうとチートです。その内容は読んでのお楽しみ。

「未来世紀に関する哲学的考察」は、ディストピアに類する短篇なんですが、とくにおもしろくはなかった。

「三匹のカタツムリ」は、カルヴィーノのイタリア民話集にでも収録されそうな一品。民話らしいブラックユーモアや、残酷なところや、卑猥なところがあります(残酷さは回避されますが)。「寝とられ公爵」という称号をもつことになる王が、なんともおかしい。寝とられものが好きな人が楽しめるかどうかはちょっとわかりません。

【まとめ】

今年はひとまず、数十冊を寄贈してきました。古本屋にもそのうち売却するつもり。病院へは、新型コロナウイルス感染症の蔓延が収まってから持っていくつもり。本を愛して読んでくれる人がいたら差し上げたいけど、自分のまわりにはそんな人がいない。

イタリア怪奇幻想短篇集は、現代(20世紀)イタリアの作家の源流をみるようで、なかなか面白かったです。カルヴィーノとかブッツァーティの短篇が好きな人なら読んでみてください。いつも思うけど、文庫でこういうのが読めるのは有り難し。

【補足:ほんのりとした物足りなさ】

本書の最後には、とある疾患の文章表現と、黒人に対する差別表現への、「編集部」による注意書きがあります。まあつまり、「短篇発表当時の時代のもので、現在において差別意識を助長するものではないですよ」というやつです。黒人差別への注意書きには一定の効果はあるでしょう。しかし、病気の差別偏見に関しての注意書きはあまり意味がない。なぜかというと、その注意書きに書かれた知識はこの本を読むような人は先刻承知のことでしょう。たぶん本書に書かれているような差別偏見に類する表現は現在ないでしょう。むしろ生半可な知識を有することで、かえってきちんとした理解が妨げられる面があるように思います。中途半端な知識がかえって、差別とは違う認知を与えるということです。差別意識のない偏見が、かえって差別的なことに通じるときがあります。きちんとした理解をしていない、という認識を持つことがいかに難しいか。このことについてはもう、詳しくは書きませんが、「編集部」も注意書きなさるなら、もう少しページを割いて書いてほしかった、といっても言うだけむだでしょうが。

(成城比丘太郎)



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