★★★☆☆

西巷説百物語 (京極夏彦/角川文庫)

投稿日:2022年6月5日 更新日:

  • 百物語シリーズ第5弾
  • 金で人の恨みを晴らす仕事を怪談風に
  • 名前の通り大阪が舞台
  • おススメ度:★★★☆☆

最近、凄惨な現代の殺人事件の小説ばかり読んでいたので、久し振りに京極夏彦でも読んでゆっくり楽しむか、と思って手に取った一冊。前に紹介した時に書いた通り、刊行されて居るのは知っていたが、このシリーズは基本的な構成が同じなので続けて読むと飽きてくる。本作も工夫はあるが基本的に同様である。ただ人が死ぬのは一緒で、これを息抜きにする私もちょっとどうかと思った。長所はシリーズモノだが、本書だけでも楽しめることだろう。もちろん、これまでの無印、後、前の巷説百物語を読んでいる方が楽しいはず。

これまでの記事も触れているが、この小説は私の年代で言えば「仕事人シリーズ」に怪談を混ぜたような内容である。お金を貰って、法で裁けぬ悪人をやっつけるのは「仕事人」、そのやり方に怪異を用いるのが京極夏彦の趣味である。ダークヒーローというほど格好良くは無いが、手際よく悪人を嵌めて殺してしまう。人工怪談と私は呼んでいる。

例えば1話目の「桂男」。桂男とは月に生えていると言う桂の木の手入れをさせられている罪人で、月を見ているとその男に持っていかれる、死んでしまうという設定である。その設定を現実の江戸時代の上方を背景に、現実的に再現される。

本作で主に仕掛けるのは帳屋の林蔵(ちょうやのりんぞう)表の稼業は帳面屋と今で言うコンサルタントである。第一話も廻船問屋の杵乃字屋剛右衛門(きのじやごうえもん)に取り入って働いている。しかし、実はこの剛右衛門、最初は穏やかな商人に思えるが、段々と馬脚を現す。中身は読んでのお楽しみだが、この大旦那の暗い過去、化けの皮を剥いでいく様子は痛快である。もちろん、月はテーマになっている。最後はなかなかに残酷な結末である。決め台詞は「これで終(しま)いの金毘羅(こんぴら)さんや」。

本作は娯楽小説なので、ちゃんと最後にオチの解説までしてくれる。何が謎で何が悪かったのか。手品の種明かしである。読者にモヤモヤを残さないタイプの小説だ。京極夏彦の代表的な百鬼夜行シリーズと比べても、連作短編集だけに短い起承転結を繰り返してくれるので、読みやすいのも特徴である。

以降、ほぼ同じパターンで構成される。悪徳商人を記憶喪失にさせて本性を暴く「遺言幽霊 水乞幽霊」、刀鍛冶の昏い秘密が暴露される「鍛冶が嬶」、人形使いの過去を巡る「夜楽屋」、村人の大半が死に絶えたという凄惨な事件の真相が語られる「溝出」、少し趣向を変えて酒屋を舞台にした人情噺の「豆狸」、ラストはある烈女の哀しい結末をオールスターキャストで描く「野狐」と続く。

それぞれに趣向が凝らされているが、例えば一話目と二話目は似たような商人が主役なので、そこで早くもちょっと読み疲れるのも事実だ。ただ、シリーズ5作目ともなれば、それは重々承知の上で、そのマンネリ感も含めて楽しんでいる。だから、私にとって京極夏彦は冒険というより帰郷するような気分になる。要するにファンなのである。普通の人でも決め台詞と共に作中の大阪弁が移ってしまうくらいには面白いだろうと思う。

この後、遠(とおくの)巷説百物語が刊行されており、2022年6月は現在進行形で了(しまいの)巷説百物語が連載中らしい。この話も後2冊読めば、おそらく完結するだろう。私もそのうちフラッと読んでみるつもりだ。

※再び資格試験を受験するつもりだ。秋までは更新ペースが落ちるかも知れない。皆さんには私の分までホラー小説を読んで欲しいと思っている。

(きうら)


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