★★★☆☆

隣の不安、目前の恐怖(アンソロジー/双葉文庫)

投稿日:2018年1月19日 更新日:

  • 「日本推理作家協会賞受賞作家短編集」
  • 隣人や家族における、不安や恐怖または異変
  • まあまあのおもしろさ
  • おススメ度:★★★☆☆

アンソロジー(異なる作家の作品をテーマ別などでまとめたもの)を読むおもしろさの一つに、今まで読んだことのない作家の作品を手軽に読めるということでしょう。私はこの文庫では、三人(有馬・石沢・鈴木)の作品を読んだことがなかったですが、そのなかでは有馬頼義の一品がよかったです。すごく面白いわけではないですが、手軽に読めると思います。

有馬頼義『空家の少年』…少年の勝海が、隣家の人妻に恋情(初恋)のような想いを抱き、彼女のことを自宅から眺めたり、実際に彼女と話をしたりします。そのうちに、彼のある行動がきっかけになり、ひとつの事件が明るみに出ることになるのですが。初恋としては奇妙なものであり、その終わりは切ないものに。とくに、ラストの光景は思春期の残骸を象徴しているよう。

石沢英太郎『その犬の名はリリー』…由利子は、隣の家で飼われている「リリー」という犬が、飼い主の未亡人に虐待を受けているのではと疑います。話の内容としては、過去のちょっとした近隣トラブルのことから、女性同士のおそろしいプライドゆえの事件におよび、できすぎた推理のプロセスを経て、最終的にはそれらをひっくり返す真相にいたります。

江戸川乱歩『陰獣』…言わずと知れた乱歩の傑作中篇小説。陰獣というと今では「ハンター×ハンター」が出てくる向きもあるでしょうが、これが本家(?)。『孤島の鬼』でも「陰獣」というワードが出てきましたがお気に入りなのでしょうか。あらすじを書くと長くなるし、何も聞かずに読んでもらいたい作品です。それでもちょっと読みどころを。本編語り手(書き手)の「私=寒川」によると、探偵小説家には、二つのタイプがあるようです。「犯人の残虐な心理」を描きたいタイプの作家(=大江春泥)と、探偵の推理の径路を描く理智的な作家(=私)と。私こと寒川は、知り合った女性(=静子)から、その大江春泥(本名は平田一郎)から脅迫されている(彼女への復讐)という相談を受けます。話としては、寒川が大江春泥の行方を追うとともに、ある殺人事件の推理へとおよぶのですが、ここでその推理等に用いられるのが、大江春泥が実際に発表した作品の数々。その作品名とは、『屋根裏の遊戯』からはじまり『一枚の切手』に『B坂の殺人』といった作品群。これは言うまでもなく乱歩自身の自己言及です。いや、乱歩作品を模倣(?)した春泥を本作で葬ることは、過去への反省的な面もあるのでしょうか。まあそれはいいとして、はたして寒川の推理は正しいのか、本当の犯人はいったい誰なのか(それともいるのか)、最後にはそれらが宙吊りになったかんじです。クライマックスで、理智的なはずの寒川は、推理物の謎解きに情念的なものをもちこんで非理性的にうつってしまいます。寒川の推理は推理とは言えず、自己完結した末に自家中毒を起こしたようになり、やがて彼は非-決定の闇に沈むことになります。

折原一『耳すます部屋』…団地でのご近所トラブルの行末を描いた作品。私は団地で生活していただけに、この話にひそむ怖さはなんとなくわかります(実際に体験したわけではないですが)。ある日家に訪れるようになった子どもの傍若無人な振る舞いと、その子への疑惑を、過去の回想として断片的におりまぜながら話は進みます。主婦同士の会話と、主人公の久恵の言動が、最後になって転倒する仕掛けになっているのが話としてうまいです。

鈴木輝一郎『あなたのためを思って』は、「あなたを思って」いろいろタイミングよく現れる老婆と、パッとしない日々を送る小海老との話。都会で起こりそうなある意味不気味な一コマ。宮部みゆき『さよなら、キリハラさん』は、ある家族に起こった異変にまつわる話。はじめはSF的な話かと思いきや、最後はちょっとほのぼのしたユーモアになります。

(成城比丘太郎)



隣りの不安、目前の恐怖 (双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作家傑作短編集 3)

-★★★☆☆
-, , , , , , ,

執筆者:

関連記事

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり【映画】(アンディ・ムスキエティ監督)

正統派続編ちょっと長い 微妙なフラッシュバック それなりには面白い おススメ度:★★★☆☆ 個人的にはマクドナルドのアレ、ジョーカーと並んで、3大ピエロとしてペニーワイズを認識している。 前作のあらす …

覘き小平次 (京極夏彦/角川文庫) ~あらすじとおススメ度、ネタバレなし

「嗤う伊右衛門」に続く古典怪談の京極風リメイク インパクトはないが、ダメな主人公を魅力たっぷりに描く 残酷描写は軽めで読みやすい おススメ度:★★★☆☆ 四谷怪談を再構築した「嗤う伊右衛門」に続いて、 …

新興宗教オモイデ教 (大槻ケンヂ/角川文庫)  ~あらすじ、感想、軽いネタバレ

人を発狂させる力をもった人間の暴走を描く 青春の行き場のないエネルギーのマイナス方向への発散 精神的なエロ・グロ要素満載 おススメ度:★★★☆☆ 「筋肉少女帯」などミュージシャンとしても有名な大槻ケン …

再読の秋(成城比丘太郎のコラム-06)

「コラム」という名の穴埋め企画(二度目) 過去に読んだ本を再読する 現在再読中の本について おススメ度:★★★☆☆ 【はじめに】 「~の秋」というと、世間ではよく読書の秋とか言われたりしますが、真正の …

眼の壁 (松本清張/新潮文庫) ~あらすじとそれに関する軽いネタバレ、感想

手形詐欺の真相を探る社会派エンターテイメント小説 流麗な文章できわめて読みやすい ちょっと強引なトリックと時代性のギャップを感じる おススメ度:★★★☆☆ もはや説明の必要のないくらい「砂の器」「点と …

アーカイブ