★★★☆☆

雨月物語(上田秋成、佐藤至子〔編〕/ビギナーズ・クラシックス日本の古典)

投稿日:2018年4月28日 更新日:

  • 『雨月物語』の簡単な成立状況などが分かる
  • 古典への取りかかりにイイ本
  • 和歌や漢詩が効果的に使われているのがよく分かる
  • おススメ度:★★★☆☆

『雨月物語』は、以前の記事(2017年9月19日)に円城塔の翻訳本のことについて書きました。本書はそれとは別の、角川ソフィア文庫「ビギナーズ・クラシックス」の一冊です。このシリーズは原文と翻訳がすべて載せられている古典は少ないですが(私が読んだものだと)、簡単な解説が初心者向けに書かれていてとても良いシリーズだと思います。本書の構成としては、作品概要に合わせて一部原文とその現代語訳が載せられていて、さらに成立状況などの解説と、ちょっとした「コラム」が付け加えられていて、『雨月物語』のとっかかりには良い本だと思います。
では、以下に過去記事には書かなかった『雨月物語』の簡単な感想を、本書解説を基に書き出したいと思います。

『白峯』……西行(生者)と崇徳院(死者)とが対話をするという内容ですが、これには西行の二首の和歌を軸に据えています。崇徳院に「忠」や「孝」を説こうとする西行の姿はやはり江戸時代的なのかなと思ってしまいます。「死してなお恨みを抱き続ける人間の切なさ」を描きだした一編。

『菊花の約』……とある中国小説からプロットを拝借したそうです。重陽の節句(九月九日)が約束の日として設定されているのが重要な部分のようです。重陽という秋と、菊という花とが、一方が和歌において「飽き」に通じたり、一方が菊の色が移り変わる様を詠んだりしたりというように、約束をした二人の「心変わり」に対する試練がこの作品タイトルの「菊花」と「約」に重ね合わされているようです。
ところで、話は変わりますが、最近読んだ『ケルト 再生の思想(Ama)』(鶴岡真弓・著)で、ポーランドでは「ハロウィン」の時期に菊の花を飾り、それが「死者の永遠の生命を祈る徴」となっているようですが、菊という花は、死者と生者とが交流することに深く関与するものを持っているのでしょうか。

『浅茅が宿』……中国小説より話の骨格を得た作品だそう。また、『源氏物語』「蓬生の巻」を想起させる場面があり、『徒然草』(百三十七段)の一節もまた同様のようです。会えなくなった恋人(夫婦)との、結果的に枯れ果ててしまった関係が「浅茅が宿」に重ねられるかなしい一編ですが、男性の勝手な行動が招いた結果ではありますけど。

『夢応の鯉魚』……中国小説『古今説海』の「魚服記」に基づいているようです。「魚服記」というと、やはり太宰治ですねぇ。太宰の「魚服記」について書こうとしましたが長くなりそうなので、また機会があれば書いてみたい。この「夢応の鯉魚」は、生に執着する俗人的な僧侶の話として読むと面白いかもということです。

『仏法僧』……高野山で「仏法僧」の声を実際に聞いた、秋成自身の体験談が混じっているようです。この「ブッポウソウ」と鳴く鳥は現在ではコノハズクで、ブッポウソウという名の鳥自身はそうは鳴かないのだそうです(ややこしい)。

『吉備津の釜』……作品冒頭での秋成の文章が、「夫が男らしくふるまえば、妻を自分に従わせることができる」というジェンダー観に裏打ちされている、と解説者(編者)はいいます。夫の浮気によって引き起こされた、女性(妻)の嫉妬の行き着いた先がどうなるかといった話で、その夫が最後にどうなるかという懲らしめの話とも読めないことはない。秋成が「男性の読者を想定して書いた」とするなら、解説者のいうこともその通りなのでしょう。しかし、現代でもよく見られるように、嫉妬ゆえの凶行なんてのは男性でもすることであり、そうすると、現代的な読み方では、いくらカップルがお互いを(強権的に)律しようとしても、浮気と嫉妬は人の世から無くなることはないから、「吉備津の釜」の怖さはなくならないでしょう(他人事)。

『蛇性の淫』……これも中国小説にある話からネタを取り入れた一編。さらに道成寺というのもある伝説を思い出させます。真女子が富子に取りついているのは『源氏物語』の「夕顔の巻」を踏まえています。解説者は、この一編を主人公豊雄の成長物語と読みとっています。私からしたら、成長というより「ヤンデレ」妖怪の怖さに直面した結果だとは思いますが。

『青頭巾』……とある僧が愛した稚児の死体と暮し、かつそれを食らうという内容の一編。僧の妄執だけにかなしい、とはいえますが、別に僧侶じゃなくても似たような事例は聞いたことがありますし。まあいずれにせよ、伝聞という限定ではかなしいというだけ感想ですが。妄執に捉われた僧侶に対して、快庵禅師は「自分のなすべきことを考えよ」といって、この僧の妄念を解消させたという解釈のようなのですが、私としてはドロドロのグチャグチャの妄執まみれのラストで、快庵禅師が「もうこりゃあかんわ、好きにせいや、地獄でのう」と、そんな改悪をしたいようなそんな感想です(これまた他人事)。

『貧富論』……武将と「黄金の精霊(=貨幣の精霊)」と対話するという話ですが、しかし、何度読んでもなにも感心しない、というかピンとこない一編だなぁ。いやまあ、金銭は「非情」であるというのはともかく、金は大切にしてくれる人の所に集まる、というのもそうでしょうねぇとは思うが、解説にあるように、ただ秋成自身の考えを述べてだけであるようなので、何か突飛なこと(?)を望むのも、私がひねくれているからか。

(成城比丘太郎)


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