★★★☆☆

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編(村上春樹/新潮社) ~あらましとモヤモヤした感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年7月18日 更新日:

  • 結局、上手く騙された感じがする
  • とにかく性的メタファーの多い後編
  • 誰かに勧めるかといわれると勧めない
  • おススメ度:★★★☆☆

第1部を読んだのが3月で、今が7月なのでそれから第2部を読み終えるのに4か月もかかってしまった。これは読むのが遅いというより、読む決意がなかなかつかなかったからだ。理由はある。まず、第一に、村上春樹が異常にこだわる性的表現に少々食傷気味であったこと、物語が単純に平坦で読むのが苦痛だったこと、単に時間がなかったなど。第2部の半分は半日で読んだので、結局、読む決心がつかなかったのが大きい。

(あらまし)騎士団長という奇妙な抽象キャラクターが顕現する世界で、画家と金満家とその娘、そして画家の嫁と友達と娘をめぐる「家族ドラマ」を村上春樹が、恐ろしく遠回りな手法を用いて表現した物語の後編。「恐ろしく」は「畏ろしい」でもあり、凡百の作家ならメロドラマの題材にしそうなテーマを、よくこれだけ煙に巻けると感心したのは正直なところ。とにかく、物語的な起伏に乏しく、それでいて話は長い。「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」のエンターテイメント性や「風の歌を聴け」の勢いのようなものをそぎ落とした静かで、抽象的なものに支配された著者独特の作品世界が広がっている。

怖い本として読むと、十分怖いのだが、怖いと感じるためには、この小説のテーマを理解しなくてはならず、それは結構面倒だ。単純に娯楽小説を読みたいのであれば、もっと別にいい作品はあるし、文学としての重さやテーマを求めるのであれば、これももっといい作品があると思う。ならば、駄作かといわれるとそうも言いきれない部分もあり、何だか良く分からないまま「いつもの村上春樹」を読み終えたという乾いた感想だけが心の中に湧き起こってきた。

著者は人間の性的な行動と世界の真理には不可分のものがあるという確信を持っているに違いない。それほどまでに、無駄に性的--エロ表現にこだわっている。エロスこそ人間の本性であり、それは理性と分かつことはできないと何度も繰り返し主張される。それはそれで構わないのだが、このテーマは最初の作品からずっと続いているものであり、さすがに何度も繰り返し読んでいると「もういいよ」という気分になる。それはそうかもしれないが、何度も他人の性的行動を子細に描写されても、私の気持ちは冷めるばかり。この部分は正直に言って、まりえという少女の胸のサイズの問題も含め、すごくどうでもよくて、これが読むのが苦痛な理由だった。

それに比べるとリアリティを失う物語のクライマックスは、むしろ生き生きとしていて、著者は本来はもっとちゃんとしたファンタジーを書くべきではないかと思った。中途半端なリアリティを挿入するより、いっそ「指輪物語」級の架空の世界を読んでみたい。前述の「世界の~」の方が魅力的なのは、多分著者の資質にあっているからだと思う。乾いてクールな表現も一流だとは思うが、むしろそちらを切り捨ててファンタジーに浸ってみて欲しいとも思う。

読み終えてみると、テーマは全て収まるところに収まっており、納得できないこともなく、それについて不満はない。ただ、これを誰かに勧めるかといわれると、相当躊躇することになると思う。簡単に言えば、著者はもう別に著作が「受けても受けなくてもいい」と考えているような節があり、終わり近くに唐突に挿入されるある日本の大事件を見ても、どこか「投げて」いるような印象を受ける。もっと簡潔に言えば、村上春樹は「枯れて」しまっている。それはいい意味でも、悪い意味でも。

とにかく、表現したいテーマもわかるし、それなりの感慨もあるのだが、じっくり読みたいようなものでもなく、実に微妙な感想になってしまった。それはこのレビューにも現れていると思う。今から読む人は少ないと思うが、無理して読むほどのものではないとは思う。結局、物語的には何も起こっていないし、やはり村上春樹流の家族ドラマであることには間違いないのではないかと、結論としてはそう思う。

(きうら)



騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編 [ 村上 春樹 ]

-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

6時間後に君は死ぬ(高野和明/講談社文庫) ~あらすじとそれに関する軽いネタバレ

未来予知ができる青年が関わる短編連作 落ちは読めるが面白い ただ、少々わきが甘い気もする おススメ度:★★★✩✩ 高野氏の著作は結構読んでいるが、失礼ながら当たり外れが激しい方で、外れると手に追えない …

「超」怖い話ベストセレクション 怪恨 (久田樹生/竹書房文庫) ※Kindle Unlimited対応

著者が取材した実録系怪談集 「呪い」や「憎しみ」が主なテーマ 短い区切りがあり読みやすい構成 おススメ度:★★★☆☆ 著者が過去に発表した<「超」怖い話> シリーズ6篇から選んだエピソード …

人喰いの時代(山田正紀/ハルキ文庫)※ネタばれ余りせず

クラシックな探偵小説 と、見せかけての大落ちあり 不思議な読後感 おススメ:★★★☆☆ 著者は著名なSF作家兼ミステリ作家だが、例によって突発的鳥頭思考でこの本を読んだので、一切、そんなことは知らなか …

怪談狩り 黄泉からのメッセージ(中山市朗/角川ホラー文庫) ~ややネタバレあり

きわめてノーマルな現代怪談短編集 様々な怪談パターンを網羅 ただ、基本的にはこれまでの怪談集と同じ おススメ度:★★★☆☆ このサイトでもこういった現代を舞台にした短編怪談集は結構紹介したと思う。私も …

拝み屋怪談 鬼神の岩戸 (郷内心瞳/角川ホラー文庫) ~軽いネタバレ

安定のシリーズもの怪談集 単発怪談+連作怪談 思わせぶりな分、少し肩透かし感 おススメ度:★★★☆☆ この著者の作品は過去にも紹介(拝み屋郷内 花嫁の家拝み屋)している。現役の拝み屋が自分自身の体験か …

アーカイブ