★★☆☆☆

鬼(高橋克彦/ハルキ・ホラー文庫)

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  • 陰陽師を扱った連作短編集
  • 平安時代の怪奇事件簿という趣(おもむき)
  • 地味と言うか渋いというか……
  • おススメ度:★★☆☆☆

(あらすじ・紹介文より)平安の都で起こる怪事件の影で跋扈する道鏡、菅原道真らの怨霊、邪鬼。弓削是雄、安倍晴明ら陰陽師の系譜を辿り、歴史の暗部から世界を読み解いていく。藤原氏支配の礎を築いた政変〈応天門の変〉の謎を陰陽術で解き明かす「髑髏鬼」他、秀逸な怪異譚全5編。

いつだったか思い出せないが、一時期ブームがあったのは知っているが、本書が陰陽師を扱ったものとは知らずに読み始めた。タイトルの「鬼」だけで選んだのである。著者の高橋克彦が何者であるか、ということも事後に調べて朧気に分かった程の無知な状態で読書はスタートした。ちなみに、著者が大河ドラマ「炎立つ」の原作者ということで何となく作家としての位置づけが分かった。しかしドラマは観ていないのであった。

と言うわけで、最初の紹介文も読み終わってから読んだ。これだけなら何やら壮大な歴史大作のように感じるかも知れないが、実際は派手な展開はほとんどなく、陰陽師捕物帳とでも呼びたいようなこじんまりした短編ばかり。平将門なども出ては来るのだが、直接対決するでもなく、単なる背景として描かれる。もっとはっきり言えば、鬼がほとんど出てこない。作中の台詞にもあるが、鬼とは人のことを指している。

ではどんな構成かと言えば、尋常ではない不吉な異変・怪異が都に発生する→陰陽師である主人公たち(短編毎に時代やキャラが変わる)に貴人から依頼がくる→調査に乗り出す→鬼(怨霊)が出る→主人公がそれを解決する、というパターンである。綺麗に起承転結となっているのだが、問題が二つある。

一つは繰り返しになるが、鬼がほとんど出てこない、あるいは出てきてもその正体がショボいということ。藤原道真や平将門と直接対決するなら盛り上がるが、そんなシーンはない。好意的に見れば意外な展開、悪く言えば小さくまとまってしまう。壮大な伝奇ものを期待していたら、凄く身近な恨み辛みが原因だと分かるガッカリ感。人情味があると言えば聞こえはいいが、精々式神を操るくらいで、とにかく地味なのだ。羅城門の様子など、鬼気迫る描写もどこか冷めた調子だ。「人間こそ鬼」がテーマなので仕方ないが、もっと鬼が見たいというのが正直な感想だ。

もう一つは余りにワンパターンなのである。全ての短編が、怪異の差こそあれ、先に書いた構成で統一されている。しかも、犯人はその短編の登場人物に限られるのである。さらに言えば、陰陽師に仕事を依頼するということは、依頼主が恨まれているのは当然であり、深く考えなくてもこの恨み・恨まれる=依頼主・対立者の二軸しかないことが分かる。そこまで分かれば、結末で犯人が「対立者」では面白くないので「依頼主」が犯人という展開が予想できる。これは古典的な推理小説の短編のようで、まとまりはいいが既視感が凄い。ま、率直に古いという感じ。1991年に初編が書かれ1996年に書籍として出版され、1999年に文庫化されているのでそれは当然かも知れない。

何かフォローするとすれば、これは歴史物の「If」というジャンルで読むべきだろうと言うことだ。登場人物などに創作が少ないので、著者が想定する読者は「平安時代の事件や有名人に一定の知識がある人」だと思う。私のように「地味な陰陽師が地味な事件を解決してるなぁ」ではなく、「あの事件の真相に陰陽師が関わっていたとは!?」とか「陰陽師とは魔法使いとは違うことをよく分かってるわぁ」などと、感心すべきなのだ。これは登場人物の階級や時代背景にほとんど言及がないので、多分間違いない。

書評失格と知りつつ書くが、私は歴史物に弱い。どうしても興味が湧かない。またパズルのような推理ものも苦手なのだ。検非違使と聞いて「平安京エイリアン」を想像する人は読んではいけない。なので、歴史好きの読者は★1を追加してもいいかも知れないと思う。

蛇足になるが、著者が「単行本のあとがき」で、自分がエンタメ派の流行作家であることを気にしていて、この短編集が単行本として、しかも函入りで出版されることを誇りに感じているのが面白かった。ハルキ・ホラー文庫になった時はどう感じたか分からないが、何か人間味のあるあとがきである。

ちょっとググると、陰陽師ブームは、1983年の「帝都物語」が端緒で、1991年の夢枕獏の「陰陽師」で爆発したとあった。安倍晴明が色白美青年になったのもその頃らしい。そんな古い話だったのか、と感慨深い。それを考えると、本書が(失礼ながら)出来の割に単行本として発刊されたのは、ブームに乗ったと言えるのだろう。本書の地味な安倍晴明は、当時の主流派へのカウンターであったのかも知れない。などと、勝手に舞台裏を楽しんでおしまい。

(きうら)


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