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★★★☆☆

<ひとり死>時代のお葬式とお墓(小谷みどり/岩波新書)

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  • 葬式のありようが変わる。
  • お墓(埋葬)の多様化。
  • <ひとり死>の弔いをどうするのか。
  • おススメ度:★★★☆☆

<死>のことを、まず、自分が死んだらどうなるのかという実存的な問題として考えたことのある人も多いでしょう。幼少期に死の観念が身につくとともに、自分が死んだら一体どうなるのか、どこへいくのかという、切迫した問題として捉える人もいたことでしょう。しかし、長ずるにつれて、そんな哲学的な問題は忘却の淵に沈められて、死者を弔うということ、つまり簡単に言うと葬式や埋葬のことと、その後の供養の事がまず念頭に浮かぶようになります。<死>を直に経験するのは、自分である個人のはずなのですが、そういう考えは脇に置かれて、<死>は別の意味の《死》となって、人々に死者の葬送儀礼という社会的宗教的な次元を要請するようになります。

昔なら、《死》の処置、つまり死者(遺体)の扱いから弔いまで、親族や自治的組織が共同で担ってきたことが多かったでしょうが、現在では、個人単位でも考えなければならなくなっています。これは、社会紐帯の弱化(無化)があるとともに、平均余命の上昇などによる部分もあります。そこから、どういった最期を迎えるのかということを自分で考えるという「終活」の余地が出てくるのでしょう。自らに(ある程度)頼れる身内や友人などがいるかどうか、経済的に余裕があるかどうかで、この「終活」の内容は大きく変わってきます。

ありていに言うと、この余裕がなければないほど、「つながり」のない最期になるということです。「死んでいく人」に対して「見送る残される人」や「故人を大切に思う人(あるいは故人を共同的に弔う場-引用者)」が全くいなければ、著者が言う「お葬式やお墓の無形化」がさらに先鋭化するでしょう。葬祭は宗教的儀式にも関することであるので、もし<自分は無宗教だし、縁者は誰もいないし、誰にも弔われたくない>、という人がいるなら、著者が「つながり」を強調しようが、どうしようもないでしょう。結局最後は、即物的ですが、遺体と遺骨の処置をどうするかという問題が残るだけでしょう。しかし、そんな極端な人はそういないと思うので、何らかの形で《死》は身近なものだと考えておいた方が良いということです。

本書の内容(とくに葬式と埋葬について)は、よくある類書と比べてもそれほど違いはないと思います。日本社会のありようの変化に伴って、葬式と埋葬とその後の弔いがどう変化してきて、現在ではどうなっているのかが簡単に書かれています。『未来の年表』という本では、東京の火葬場が足りなくなるという危機が煽られていましたが、本書によると、「人気のある時間帯がとりづらい」という現況であって、近い将来に火葬場が足りなくなるとは書かれていませんでした。それと、大都市圏では、一基あたりのお墓の面積が地方のものに比べて小さいので、金銭面で安くなっているものもあるようです。

海外での現状紹介も面白いです。台湾や東南アジアでの葬儀・お墓がどうなっているかとか、スウェーデンで「葬式税」が徴収されているとか。この「葬式税」は日本でも導入できそうですが、日本ではどうなんでしょうか(無縁者が増えればわかりませんが)。とはいえ、どんどん葬式が「簡素化」する現在では、そんな税金はいらないでしょうねぇ。

いつかやってくる、すぐにやってくるかもしれない《死》について、考えてみても良いのではないでしょうか。ちなみに、私は、両親の実家にある墓をこれからどうするか(その地での弔いを継続するのか、お墓を移動せざるを得なくなるのか、それとも放置するのか……)を、これを読んで考えました。まだ結論は出そうにないですが。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
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