- 「読書メモ074」
- コロンビアの僻村が舞台。
- 不妊の黒人女性と飼い犬の相剋。
- オススメ度:★★★★☆
【著者について】
著者のピラール・キンタナはコロンビア生まれの作家です。『雌犬』(原題La perra)は、コロンビア太平洋岸の寒村を舞台にした内容ですが、これは作家自身の生活経験(の一部)をもとに書かれたもののようです。著者は、ラテンアメリカ文学やスペイン語圏文学界隈だけでなく、世界的に注目されている作家のようです。
この作家が本格的に日本に紹介されたのは本作品が初めてでしょうけど、なんともめでたいことです。はじめて読んだ作家ですが、なかなか興味深いものでした。
【あらすじ】
あらすじは簡単です。舞台は、コロンビア太平洋岸にある僻村です。大自然(海やジャングル)に囲まれたその村に住む、黒人女性のダマリス(四十歳)が、一匹の雌犬を譲り受けて育てることから物語は始まります。その雌犬とダマリスたち村の住民とのなんやかんやがこの作品の大筋であります。その「なんやかんや」の中に、人間と動物(主に犬)と大自然にまつわる「愛と暴力」が含まれるのです。
【感想など】
この作品には、とにかく犬が出てきます。猫に関しては、私が読んだなかではこの本には全く出てきません。ダマリスが飼う雌犬やその子犬たちなどなど、犬ばかりです。だからといって、犬好きの読者の人が楽しめるかは分かりません。なんせ、この村の住人たちは、飼うのに面倒になった犬を密かに海へ捨てているのです。その他にも犬たちはけっこうヒドイ目に遭いもします。犬好きの人が読むとかなしくなるかもしれません。
その一方で、海で溺れ死ぬのは犬だけではありません。人間も死ぬのです。この作品内では、二人の人間が腐乱死体で発見されます。その中で奇妙な死に方(?)をするのが、ヘネ氏という老人です。ヘネ氏は、全身がほぼ麻痺していて車椅子でしか移動できません。そんなヘネ氏は、波とともに運ばれる腐乱した遺体となって発見されるのです。身動きのとれないそんな人がなぜ海へ転落したのか。その理由は分からないままですが、なんとも印象に残る出来事です。
まあ、やはり主題としておもしろいのは、ダマリスと雌犬との対比でしょう。最初はその雌犬をかわいがっていたダマリスが、雌犬の行動に翻弄されるうちに、犬への態度を変えていくところがおもしろいところです。犬好きの人にとっては考えられない行動をダマリスがとるのです。
あまり書くとネタバレになってしまうので、このあたりでやめておきます。ダマリスと飼い犬の関係性が変化していくところが読みどころだということだけ書いておきます。犬が奔放に暮らしているのがアクセントになっていて面白いのです。
コロンビアの現代女性作家に興味がありましたら手にとって読んでみてください。
(成城比丘太郎)