- 自衛隊とPKOの意味を問う
- ジュバ・クライシスの詳細レポート
- 戦闘で人が死ぬということ
- おススメ度:評価せず
コロナ禍の混乱の中「絶対に教科書に載りますね」と知人に言われた2020年から全くの地続きで、2021年が始まった。
その2021年の最初に読んだのが本書。図書館のお薦め棚にあったので、特に理由もなく選んだ。或いは、前日に酔っ払ったままリドリー・スコット監督の「ブラックホーク・ダウン」を観たからかも知れない。ブラックホーク・ダウンはソマリアでのアメリカ軍の軍事介入を描いた結構、残酷描写の多いドラマチックな映画だ。そこで繰り広げられる無意味な死と葛藤。そう、何かこう、戦争というものに対して、好奇心を唆られるものがあった。
好奇心? そう、私は今酷く的外れな作文を書いているのかも知れない。アメリカのホワイトハウスが暴徒に一時占拠されると言う衝撃的な「民主主義への暴力」が振われたにも関わらず「戦争」は世間の話題から切り離されてしまっている。アフガン、シリアなどの紛争、ウイグルの弾圧、北朝鮮や中国などの軍事的脅威……それは見えないだけで、あちこちで今もテロリズムなどに名前を変えて続いている。残念ながら、争いの無い世の中では無いのだ。そして、私はそれに向き合うこともなく、ただ好奇心で一応とはいえ、安全が保証された場所で本書を読んだ。
本書は題名の通り「戦場」と化した2016年7月8日から4日間に及ぶ「ジュバ・クライシス」と呼ばれる内乱(大統領・副大統領の対立による軍事的争乱)を、第10次南スーダン派遣施設隊員として体験した自衛隊員視点で描いたノンフィクションだ。派遣前、事件、その後の「日報破棄」問題までを、丁寧に扱っている。後半は安倍晋三元総理も出てきてハッとした。そうなのである。これもリアルタイムに起こっている事件なのだ。そう言えば自衛隊員の「日報破棄」も確かに記憶にある。今は宴会の領収書破棄がトレンドだが、とにかく、都合の悪いことはドンドン無かったことリストに追加しているのだ、現政権は。
そんな相も変わらず生ぬるい対応を続けている政府のある日本で、本書の感想として何がいったい適切なのか、好奇心で片付けていいのかどうか、正直、自信がない。そう言う意味で、珍しく評価せず、とした。自衛隊や憲法9条問題や国際紛争に興味があれば貴重な資料となるだろう。そうでなければ、うーん、何なんだろう。
私はここで自衛隊や憲法について語る気は無いし、その政治的意義や政権批判をぶちたい訳でもない。強いて言えば、私は何故か戦場に放り込まれてみたかった、というところだろうか。生きるか死ぬかを疑似体験したかったのかも知れない。得体の知れない死への興味が、死の記録の断片を求めているような気もする。
そういう意味では、可能な限り日本人が体験できる「戦争」を体感できる。もちろん、「ブラックホーク・ダウン」のような劇的な感じでは無いが、静かに深く迫り来る不条理な死の感覚を味わえる。宿営地のすぐ側で行われた戦闘行為の中、いつ、流れ弾に当たってもおかしくない状態だったようだ。他にも、日本隊と外国の派遣隊の違い、現地での生活、自衛隊の矜持や苦しみ、そんなことが詳細に書き綴られている。上官への信頼の情を語るところや、仲間たちへの愛情など、一般の会社には無いある意味特殊な「自衛隊」という世界を垣間見得て面白かった。文章は朴訥としているように思うが、読みやすく、細かく表題付きで段落分けされているので、レポートはテンポよく進んでいく。
結果、私の好奇心はある程度満たされた。ルワンダのジェノサイド(とその後の復興)にも触れられており、紛争全般に対する基本的な日本の立場というのも理解できた。
印象的だったところを最後に一つ。それは現地の衛生状態の悪さである。国連軍が保護するような形で、避難キャンプがあるのだが、糞尿垂れ流しで、食べ物が有ればハエで真っ黒に。世界一と言ってもいい清潔好きな日本人の感覚では耐え難いだろう。そんな清潔な日本、帰りの満員電車の中でこの文章を書いている。
結局、好奇心などと書いてはいるが、私は繰り返すこの生活の営みから逸脱したい臆病者に過ぎない。しかし、自衛隊にいる自分を考えることは、不思議な喜びもあった。そんな読書だった。
(きうら)