- 「飛ぶ」ことを純粋に求めるカモメの物語
- いろんな意味でひたすら「美しい」
- 伝説化したのが分かるような、そうでないような
- おススメ度:★★★☆☆
初めに読んだのは1974年に発行されたバージョンなので、このリンク先にある完全版とは異なる。完全版は第4部が追加され、ジョナサンが去った後の話が追加されている。著者が事故によって心境が変化し、44年後に突然、完全版を出版したそうだ。その辺の事情は「かもめのジョナサン(Wiki)」に書かれているので、興味があれば、読んでみて欲しい。
もともと、奇妙な本だと思っていた。ご存知とは思うが、この本は人間のように哲学的に思考するカモメの物語だ。第1部は、餌を摂ったりする普通のカモメを横目に「飛ぶ」ことに熱中するジョナサンの受難の日々を描く。まあ、これは非常にわかりやすい寓話で「何のために生きるのか」という問いに「いい仕事に就き、金を儲けて、良い生活をして、美人と結婚して、幸せな家庭を作る」と答えるような人間へのアンチテーゼであろう。単純に飛ぶコツを覚えて成長していくジョナサンの様子は楽しいし、ストーリーとしては単純ながらディティールにはリアリティがある。
と、いうジョナサンはついに「開眼」し、第2部では、さらに高次の次元の特別なカモメの仲間入りをする。ここからが幻想的というか、教条的というか、最終的にジョナサンは瞬間移動まで体得してしまう。あらすじをすべて紹介しても仕方無いので、簡単にこの後を紹介すると、第3部は、地上に戻ってジョナサンは後継者を育て、第4部はジョナサン亡き後の世界を描く。全世界で4000万部というから、先日紹介した「星の王子様」には及ばないものの、大ベストセラーには間違いない。
しかし、先ほど書いた通り、私にとっては奇妙な本という印象は再読しても変わらず、合間合間に挟まれる美しいカモメの写真も含め、何か違和感があるのである。この話は非常にキリスト教的であるし、思春期的な「汚い世界に対してどう生きるかという疑問」に明快な答えを出してくれる教科書な側面もある。日常的な些事や生活に追われず、理想を追求せよ、と、美しいジョナサンは語りかけてくるのである。それは良く分かる。ただ、何となく、美しいものを美しいと思うように導かれているような気がして私はのめり込めなかった。多分に私自身の性格が捻じれているせいでもあると思うが、このどことなく人工的な感じがするお話に違和感をぬぐい切れなかった。ただ、追加された第4部で、その辺の部分は補われているように思う。
1974年版のあとがきではあるが、五木寛之も翻訳者でありながら「愚かな群れ」を低次のものとみなし、悟りを開いたカモメが「白く」輝く描写に、釈然としないものを感じているようで、疑問を感じながらの翻訳であったことを明かしている。翻訳者が翻訳する小説を批判的にとらえているのが印象的だった。
とはいえこの小説には、俗な言い方だが、何か心を貫くような純粋な輝きがある。一切を疑わない素朴な信仰のような敬虔な部分があって、それがこれだけの読者に支持されている理由ではないかと思う。と、いうわけで、上記の諸々の理由から私の評価は低くしたが、もっと若い学生世代や理想と現実に悩んでいる真摯な人物であれば、全く違って読めるはずだ。私以外の人がどのようにこの話を捉えるか、かなり興味がある。
(きうら)