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★★★☆☆

キャリー(スティーヴン・キング、永井淳〔訳〕/新潮文庫)~読書メモ(013)

投稿日:2018年8月22日 更新日:

  • 読書メモ(13)
  • キングの処女長編
  • テレキネシス(念動能力)をもった少女の大破壊的復讐までの顛末をドキュメンタリー風に
  • おススメ度:★★★☆☆

全世界というか、日本で広く読まれているスティーヴン・キング。彼の処女作である『キャリー』については、私があれこれ書くまでもないでしょう。ではなぜ書くかというと、この記事が個人的な備忘録だからです。ですので、『キャリー』のことをよく知っている人には、これから書くことに、残念ながら何も益するところがないと思います。

まず内容としては、簡単にいうと、キャリーという少女が起こした破滅的事件を扱った作品です。作中で、この事件とケネディ大統領暗殺とが並び称されていて、それが驚きです。ここには、何事もショービジネス化してしまうアメリカ、という個人的な偏見を感じてしまいます。チェンバレンという町を襲った破局的事件を、様々な文献や証言を渉猟し、多角的に捉えた本作品の構成自体が私にそう思わせます。まあ、実際にキャリー自身が念動能力者だったわけですし。

それほど重要ではないと思われる人物に「アーカムのラヴクラフトを思わせる奇妙にひきつった表情」という描写をあたえています。これは、キングが、自分はラヴクラフトの「伝統に連なるニューイングランドの作家」だということを意識しているかもだそう(『AllOverクトゥルー(Ama)』)。そして、前掲書において、本作品を「ダンウィッチの怪」と比べています。キングにとってラヴクラフトは重要な作家なのでしょう。

キャリーの異常とされる生誕から、彼女が長じるにつれ能力をみにつけるところを、遺伝子学的に理論付けるところが興味深いですが、これについては何とも言えない。ここには何か意味があるのかないのか、ただ単に書いてみただけなのかよく分からない。超能力が決して文字通りの意味で「超」ではないと言いたいのか、単なる科学的な権威付け(?)なのか、よく分からない。

キャリーは二つの関係に苦しめられていました。一つ目は母親との関係です。あまりにも倫理的で狂信的な母親の性質による抑圧が、キャリーの異常能力発露にすくなからず関与したのか。なんとなく化物語の戦場ケ原ひたぎを思い出す。ひたぎさんは、蟹の怪異に出会って自身の身体に変調をきたしてしまった。母と娘の関係というのはどこの国も難しいものだねぇ。まあ、キャリーとはかなり違う環境だが。戦場ケ原さんにも父親の影がほとんどなかったし。
一方、最後の惨状を引き起こすきっかけを作ったハイスクールの連中との関係もよくありがちだが、これまたなかなかしんどいものがある。キャリーには、君に届けの黒沼爽子の姿と重なるものがあった。しかし君に届けの世界にはほとんど悪意というものがなかったように思う。キャリーは同級生の誘いに不審ながらも応じたが、爽子ならそう簡単には応じないだろうなぁ。それにしても、本を読む時に(海外作品)、こうして漫画やアニメを思い浮かべてしまう癖は何とかならないものか。

事件後に、ほとんどの人がこれを起こしたのがキャリーだと証言したのはなぜか。皆、なんとなく彼女が原因だと思ったようだが、これはキャリーのもっている能力ゆえだろうか。
この映画をキングは気に入っていたよう。この作品がもつ映像喚起力はすごくて、映像化しやすそう。とくに赤い血に赤い炎というように、赤い色が印象的キャリー(映画版・Ama)

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
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