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★★★★★ ★★★☆☆

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ と ゴジラ(前編)【完全ネタバレ】

投稿日:2019年6月10日 更新日:

  • 身に染み込んだ怪獣の記憶
  • ゴジラを巡る個人的な理由と最新作の感想
  • 昭和と令和のゴジラは主張が反対
  • おススメ度:
    ★★★☆☆(ゴジラ キング・オブ・モンスターズ)
    ★★★★★(ゴジラ)

【前説・なぜ怪獣なのか】
私のように昭和に小学生時代を過ごした人間(主に男子)には、怪獣は非常に身近な存在で、常に視界に入っていたと言っていい。何しろ、夏休みや春休みになると、怪獣映画が朝っぱらから再放送されていて、私もそれを楽しみにしていた。同様に恐竜も男子小学生が基本的に身に着けている基本的な「教養」で、皆、幾種類も恐竜の名前を言えた。玩具の類も恐竜をモチーフにしたものが多く、ウルトラマンや今も続く戦隊特撮ものなどと相まって絶大な人気があった。そういう文化の中で過ごしたこともあり、私も特別愛好している訳ではなかったと思うが、怪獣映画というとどうしても見たくなる。そういう世代が一定数いる。

ただ、小学生時代のゴジラの思い出は、どちらかというと娯楽化した後のゴジラだったので、非常にコミカルで「人類の味方」というか、単なるアクション映画のキャラクターという印象が強い。同時期の「ガメラ」の方が流血表示もあって、子供心に恐ろしかった記憶がある。緑の血のシーンはトラウマだ。

とはいえ、それだけでは今回、ゴジラを語ろうとは思わなかっただろう。実は今個人的に執筆している小説に怪獣的な存在が登場するので、世の怪獣観をリサーチしてみたかったというのもある。テーマは全く違うが、怪獣はやはり破壊の象徴である。それに怪獣同士の戦闘のシークエンスが最新のCGでどのように映像化されているかにも興味があった。

同時に1954年のオリジナル「ゴジラ」も観なおした。もちろん、私が生まれるはるか前の映画なので、元の映画を観たのは、実は大学生になってからだった。その時の衝撃は計り知れず、私の中のコメディタッチの怪獣観を破壊するに足りる映像と表現だった。その辺りも織り交ぜながら、新作の感想を述べてみたい。なお、ネタバレは気にしないので、観る予定のある方は、以下の文章は観てからの方がいいかも知れない。

【出し惜しみはないが、脚本が滅茶苦茶】
最新作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」は、ネットの評価を見るとおおむね好評のようだが、最初から物語の展開に無理がありすぎて、頭の中から疑問符が消えることは無かった。実はこれの前作に当たる「GODZILLA ゴジラ」は観ていないので、それと話がつながっているとは思わなかった。簡単に言えば、前作では秘密組織扱いだったゴジラを研究する組織「モナーク」が、全面的に公の存在になり、大っぴらに怪獣の研究をしている。本作の冒頭は、何だか良く分からない「オルカ」というえらくクラシックな装置で、モスラと交信が成立するシーンから始める。良く分からないが「オルカ」は、クジラの泣き声の様なもので、怪獣を呼んだり鎮めたりできるらしい(ことが分かる)。ところが「ダイハード」のハンス・グルーバーもかくや、というような環境テロリストが乱入してきてこれを発明したエマ・ラッセル博士をその娘マディソンごとさらっていく。

ま、それはいいでしょう。環境テロリスト言うのも今風だし、モスラの幼虫から始める、というのも導入としてはいいと思う。

ただ、この「モナーク」という組織が妙に政治的な力と資金力があって、なんか政府から批判されているが、秘密組織だったとは思えないほど世界各国に巨大な研究施設を持っていて、そこで相当数の怪獣(タイタン(巨神)と呼ばれる)を管理している。数字から見ると70か所くらいあって、それぞれが巨大な軍事基地の様になっており、どうやってこんな組織が秘密だったのか非常に疑問が湧く。何にせよ、この組織が中心になって話は展開する。

ただ、話がこんがらがる要因は、実はこの組織の立ち位置にあって、環境テロリスト集団がゴジラなどの怪獣を使って世界の転覆を企てるのはいいとして、モナーク自身も怪獣を適切に利用しようなどと考えているのである。どう見てもこいつらの方がテロリストではないか。制作陣もそれを承知していて、「怪獣は危険だ。今すぐ殺せ」的な主張をする科学者マーク・ラッセルも登場する。名前から分かる通り、これは上記のエマの夫で、過去に息子をゴジラに殺されたという過去を持つ。だが、このマークがモナークに半ば所属するようになるので、話を混乱させる。いったい、怪獣をどうしたいのか。こいつらが最後まで怪獣の周辺をウロウロするので鬱陶しいことこの上ない。しかも、テロリストに浚われたエマ博士は、なぜか突然「地球にとって人類は害悪だ」などと、時代遅れの「地球にやさしい発言」をはじめて、怪獣を片っ端から目覚めさせていくのである。とにかく怪獣が暴れることが重要で、人間ドラマなど、最初からやる気がない事に気が付く。

【原作へのリスペクトはあるが……】
本作にはモナークの実質的なリーダーという設定で渡辺謙演じる芹沢博士が登場する。もちろん、オリジナルでゴジラと共に散った同名の天才化学者・芹沢博士が出典なのだが(前作も登場していたらしい)、何だかリーダーというより、明らかに危険なゴジラを偏愛するマッドサイエンティストにしか見えない。そりゃ、モナークの同僚からも軽く扱われるはずだ。この芹沢博士の主張が非常に曖昧で、元祖ゴジラの芹沢博士の様な悲壮感もなく、何となくアメリカナイズされた日本人、というより、アメリカに支配された日本人という印象しか受けない。それは後述する行動からも明らかだ。モスラも非常に美しい造形で素晴らしいのだが、何となく扱いが中途半端。肝心のゴジラも、イグアナみたいだった「アホの(尊敬を込めて)」ローランド・エメリッヒ版ゴジラよりはましだが、どうも顔がつぶれていてカッコよくない。何となく軽いというか、クリーチャー的なのである。まだある。
物語の中盤、突如としてオキシジェンデストロイヤーが登場するのだが、ちょっと待て。何のフリもなく、唐突すぎる。しかも、乱闘中のキングギドラとゴジラの真ん中で炸裂する割には、中途半端にゴジラを痛めつけるだけで不発に終わる。あの最終兵器がこんな扱いは我慢できない。と、いうわけで、ここに来て、この単純な割にややこしい話のあらすじをちゃんと書いておこう。

【ネタバレ全開のあらすじ(脱線あり)】
怪獣(タイタン)を管理するという世界的な組織「モナーク」は、(アメリカ?)政府などから批判にさらされ、組織を解体されそうになっている。同時期、その研究者のエマ博士は、怪獣と交信する装置「オルカ」を長年の研究の末に完成させる。これは彼の夫マークが危険だという理由で捨て去った研究を続行させて完成させたもの。夫のマークは今や自然の中で動物の写真なんかを撮ったりして、すっかりステレオタイプなエコ人間になっている。ただ、息子をゴジラに殺されたことにより、立ち直れず別居状態。

物語は「オルカ」(この名前もどうかと思うが)によって、モスラをなだめた瞬間、前述のように環境テロリスト(アラン)にエマ博士はさらわれ、「オルカ」もテロリストの手に。そんな中、ゴジラがなんとなく復活し、テロリスト集団(エマ博士)によって南極で無理やり目覚めさせられた三つ首の竜怪獣ギドラ(キングギドラ)と対決する。まずい説明で申し訳ないが、一応、夫のアランは嫁を止めようとする。ただ、嫁はすっかりエコテロリスト化して氷漬けキングギドラの氷を破壊するスイッチをオン。この辺で色々ついていけなくなる。

上記の行動で、モナークや政府や環境テロリストは右往左往。ところが、いきなりオキシジェンデストロイヤーをぶっ放すことによって、海中でキングギドラと絶賛乱闘中のゴジラが死亡(どう見ても死んでないというお約束)。ギドラが怪獣の王として暴れ始め、良く分からないが、世界中に封印されていたラドンをはじめとする怪獣が覚醒。人間を襲って暴れ始める。この辺の理由は良く分からない。環境テロリストは、人類を適正に減らしてくれて、後は彼らが大人しくなるだろうし、汚染も減って自然が栄えるなどと、いつの時代のSFの悪役かと思うような世迷いごとを言って喜ぶ(エマ博士含む)。ところが、ここに来て、キングギドラが宇宙からやってきた「侵略者」であるとなぜか発覚。これはまずいとなったモナークの面々が、みんなの予想通り生きていた真の地球の王・ゴジラの復活を目論む。エマ博士も人類を適正人数に減らしてくれるどころか殲滅される可能性があると知って激しく後悔。娘も母親を「あなたがモンスター」などと非難するが、そんなことを言っても手遅れ。

(脱線)
というか、「怪獣を使って人類を適正人数に減らさないと地球が滅亡する」からといって明らかに人間を襲っている怪獣を復活させる思慮の浅さに驚嘆する。その理由が「怪獣を制御する装置『オルカ』があるから」なのだが、パナソニックの現場用ノートパソコン「タフブック」を折り畳み式にしたようなちゃちなマシンで、どう見てもそれ程複雑なコードでプログラミングされているとは思えず、しかも、バックアップすら取っていないという始末。じゃあ、超技術すぎて複製できないのかというと、後のシーンで、半田ごてみたいな道具で直しているし、汎用PCでも十分再現できそう。というか結局出力される制御信号が音声なのだから、別に特殊な装置は不必要だろうし、なぜ、ローカルコンピュータに保存した? 超能力でガメラと交信する方がよほどまし。

(本筋)
巨大秘密組織「モナーク」が考え出したゴジラ復活の方法は、ゴジラのエネルギー源である核物質を与えるために、ゴジラの近くで核爆弾をぶっ放す、という小学生が考えたような特攻作戦。なぜか「モナーク」が持っている高度な潜水艦で海底に沈んだゴジラを探すと、海中に吸い込まれ、何と、古代文明の遺跡(アトランティス?)に遭遇する。ここに来て地球空洞説は立証されてしまう。しかし、吸い込まれたショックで故障する潜水艦。さらに核爆弾発射装置も都合よく一緒に故障(本体は動く模様)。そこへ男・芹沢(渡辺謙)が「俺がゴジラを目覚めさせる」といって、核爆弾を抱いて特攻。芹沢博士はゴジラを触って「友よ」などと言う。

(再び脱線)
いやいや、オリジナルでゴジラ保護を訴えていた山根博士ならともかく、オキシジェンデストロイヤー一発でゴジラと心中した芹沢博士が「友よ」とか言ったらあかんやろ。それにあれだけの放射線を浴びて平気なはずはない。この大雑把なリスペクト具合に終始モヤモヤさせられる。この映画の欠点は、中途半端にオリジナルを思い出させられるために、どうしてもそれと比べてしまうことだ。かといって、原作無視もできず、こんな状態になったのか。

(本筋)
で、もちろん見事ゴジラは復活する。一方、驚異のザル管理で、エマ博士の娘に「オルカ」は奪われ、研究所を抜け出した娘は、「オルカ」を球場のスピーカー(町内放送用みたいな見た目)に接続し、ボストンにキングギドラを呼び寄せる音波を放つ(クジラは何千キロも離れても声が聞こえるからという「科学的な説明」がある)。「オルカ」は、スマホアプリかよというほど簡単に操作でき、外部に音声を出力できる謎技術を搭載。そうして、目論み通りそこへ終結したキングギドラ・モスラ・ラドン&ゴジラによって、最終決戦が行われ、核エネルギーでブーストしたゴジラが、超絶攻撃(超高温の衝撃波?)を放ってキングギドラを粉砕(モスラはラドンをやっつけるがキングギドラにやられるっぽい描写がある)、世界中のモブ怪獣はゴジラに頭を下げて服従。エンドロールでは、怪獣は巣に戻ってめでたしめでたし。自然も蘇って世界は救われた! と、思わせて環境テロリストは最後に怪獣の死骸っぽいのを買い取るぜ! などと、続編ありきで終結。劇中のフリから言って、ゴジラと因縁の深いキングコングと戦うであろうと思わせて終わり。

【致命的欠陥・続く】
支離滅裂な文章だと思うけど、これでも頑張って書いた。これを読んでもらうと分かる通り、ストーリーには致命的な欠陥がある。それは後編で述べるとして、一応良かった点も挙げておく。

  • エンディングでかかるモスラとゴジラのテーマがカッコいい。ここで感動した。
  • キングギドラとモスラの造形は悪くない。ちゃんと雷を吐いたりするのもいい。
  • 突っ込みどころ満載で、映画館では一応最後まで退屈したりはしない。
  • CGはそれなりに豪華。「シン・ゴジラ」のしょぼさでがっかりした方も納得だろう。

こんなところ。続けるほどのものでもないが、次回に続く。

(きうら)


-★★★★★, ★★★☆☆
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