- 超有名な架空の人物。
- 何も知らずに読むと、ミステリーとして読めます。
- 怖いというより、暗い感じの悲劇。
- おススメ度:★★★☆☆
「ジキル(ジーキル)とハイド」は、その名前だけはベストセラーの域にあるほどの、有名作品でしょう。この名前が何を示すのが分からない人もそれほどいないと思います。
一応ネタバレとしていっておきますが、
この二人は同一人物で、現在では二重人格(または解離性同一性障害)の代名詞となっています。ジーキルとハイドには、名前の響きだけからして、ドラキュラやフランケンシュタインなどと同じように、怪物的人物の感じがあります。狂気の博士と、極悪な犯罪人というように。
私は、小学生の時に、学校の図書室(あるいは地域の図書館)で片端から本を借りていた時期に、児童向けの『ジキルとハイド』を読んだような記憶がありますが、内容は覚えておらず、上記のような人物像しかもっていませんでした。しかし、この『ジーキル博士とハイド氏』を読むと、必ずしもそうではありませんでした。ジーキル博士とは身なりのよいきちんとした人物で、ハイド氏とはそのジーキル博士に潜んでいた、「わが精神の内なる下等な要素」であったのです。
まあ、ジーキル博士のとった行動(実験)は狂気じみたといえるでしょう。今読むと、ちょっと稚拙というか分かりやすい二元論だなと思うのですが、ジーキル博士が自己の内面に巣くう衝動を実際にどう処理したのか、というところは面白いです。ところで『ジーキル博士とハイド氏』に、この頃のフロイトの仕事が何か影響を与えたのでしょうか。それと、ジーキル博士とハイド氏とに分離して変化することは、それぞれがイギリスの社会階級の差をあらわしてもいるのでしょうか。
内容はそれほど難しくはありません。アタスンという、ジーキル博士の友人が、立て続けに起こる事件と「異形な」ハイド氏との関連を知ることによって、それら事件の真相に迫っていくのが、本筋です。アタスンに謎が明かされていくさまと、「ドクター・ラニヨン」の行動の解明とが、ミステリーのようにもなっています。ジーキル博士とハイド氏のことを知っていても、それなりに楽しく読めると思います。作品名は知られているのに、読まれたことのない作品は数あるでしょうが、本作品はその中でも実際に読んでほしい一冊です。怖くはないですけど。
(成城比丘太郎)