- 「ゲームSF傑作選」という副題。
- ビデオゲームの小説化であるとともに、フィクションがゲームと人間の未来を描きだす。
- 人生そのものもゲームのよう(月並み)。
- おススメ度:★★★☆☆
ビデオゲームが登場してから数十年以上経ったと思います。ファミコン世代である私はその出現当時ゲームが人間の意識を変えるのではないかとは思ったわけもないのですが、現在の(ネットを介した)ゲームのありようを見ていると、確かに人生を変えるような何かがゲームにありそうな気がします。とくに、たんなる物語消費的なゲームから、人間同士の双方向性を軸にすえたゲーム(の隆盛)へと移行するに従って、コミュニケーションのありようから、人間の生活そのものもゲーム的な発想にとらわれ、より一層ゲームが人生に欠かすことのできないものになってきているようです。それは単にビデオゲームが人間の時間を奪ったり、それが有益なものとして機能したりするだけではなくて、ゲーム自体が人生と不可分なものになってくるという、まあ月並みな感想としての未来が見えてきそうです。
ヴァーチャル・リアリティーのヴァーチャルとは、本来、現実と見紛うほどの感覚を与えるものということを意味するようですが、そうした感覚を本書で少しだけでも味わえるかもしれません。では以下に、私にとっての備忘録的な解説を書きます。
『リスポーン』(桜坂洋・著)……主人公の「おれ」が殺されるたびに近くにいる人物に「おれ」の意識が乗り移っていくという内容。場面転換があっさりしていてゲームのよう。どういった原理でこんなことが起こっているのかといった問題は抜きにしてのゲーム感覚。いったい、いくつもの人物(視点)を通過した「おれ」の同一性を保つものは何か?桜坂洋の映像作品でいうと、『よくわかる現代魔法』は結構好きだった。『All-You-Need-Is-Kill』はほんまゲームアニメ的だったが、この短編と似ているような気もする。
『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー・著)……MMORPG(=「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」)にのめりこみ大学を辞めたデボン。彼の別れた恋人であるメグは、そのゲームにログインして彼からの救助要請を受けてそこへ向かうのだが……。
『1アップ』(ホリー・ブラック・著)……ネトゲ上の友人が亡くなり、彼の葬儀に向かった三人のゲーム仲間は、彼の部屋のパソコンに自作ゲームを見つけて、その指示通りに進む。そして、三人はあるおそろしい事実に気付くのだが……。
『NPC』(チャールズ・ユウ・著)……NPC(ノンプレイヤーキャラクター)がPCになるというフシギさを味わう短編。ただ少し読みにくかった。
『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース・著)……「わたし」が、病気で脳に障害をおった同性カップルのシェアリーのために、認知症患者に有効だと言われる「猫の王権」というゲームをプレイさせる。そこで彼女は驚くほどのゲームの才能を発揮する。VRゲームが認知機能の弱った者たちの新たな生活の場になるのかどうか。
『神モード』(ダニエル・H・ウィルソン・著)……「ヴァーチャル世界の構築法」を学ぶ「僕」がサラという女性と出会ってから、現実が変容していくという内容。ラストは、これでいいのかなぁというもの。
『リコイル!』(ミッキー・ニールソン・著)……会社内でFPSゲーム(=一人称視点シューティング)を息抜きのためにするジミー。深夜誰もいない社内に侵入者が現れて、彼はまるで『メタルギアソリッド』あたり(多分)を小規模にしたような緊迫感のあるゲーム的状況に追い込まれる。
『サバイバルホラー』(ショーナン・マグワイア・著)……アニーとそのイトコのアーティはサバイバルホラー系のパズルゲームをプレイしようとしたところ、部屋の照明が消えて……。実際にあるダークファンタジーのスピンオフ短編なので設定が分からないと十分には楽しめない。
『キャラクター選択』(ヒュー・ハウイー・著)……夫のいない昼間に、夫のゲーム(FPS)をする「わたし」。彼女のプレイの仕方は、ゲーム本来のもつ高得点をあげるという第一義的なものとは反していた。「わたし」のゲームクリアを無視したゲーム内でゲーム空間を楽しむかのような行動が、後にある重要な転機をむかえる。こういう楽しみ方もまたイイと思わせてくれる。
『ツウォリア』(アンディ・ウィアー・著)……ジェイクとコンピュータープログラムとの対話ですすむ話。その内容がネットスラングを多用していてオモロイ。
『アンダのゲーム』(コリイ・ドクトロウ・著)……『エンダーのゲーム』は未読未見なので、この短編となにか関係があるのかは不明。内容は、アンダという少女がネットゲーム内のとあるプレイヤー集団に入り、リアルマネーをかけた戦闘に関わるのだが……。
『時計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ・著)……「テキストアドベンチャーゲーム」を題材にとったもの。ちょっとピンとこなかった。
(成城比丘太郎)