- マスコミの存在意義を正面から問う
- 猟奇的描写はかなり少ない
- 社会派小説に近い感覚
- おススメ度:★★★☆☆
(前説)
明けましておめでとう、とはいうものの、昨日と今日に何の境界も感じられない。年々季節感が遠のき、死の世界に近づいている。不眠症のおかげで恐怖はない。その時が来たら……このブログが見られなくなるだろう。10年くらいはサーバーを維持したいとは思っているけど、本質的に散逸したい性分なので、いつか消滅すると思う。
あらゆる宗教とは無関係で、死に対してどんな哲学も持っていない。
ただ消え去るだけ、消えるだけ、多少の痛みと共に消滅するだけ。
青い空、川の音、一声鳴いて空に溶ける。
ま、正月早々縁起でもない話か笑。
(本文)
私は本ブログで取り上げた「連続殺人鬼カエル男」の作者であることはあとから知った。あちらがケレン味たっぷりの殺人ショーなら、こちらは極めて真面目な殺人をテーマにした報道と正義を問う物語になっている。
あらすじは極めて簡単だ。女子高生がリンチの上、殺された。誤報でBPO(放送倫理・番組向上機構)入りした崖っぷちの大手報道クルーの朝倉多香美は先輩でエースの里谷とコンビを組んでこの事件を追う。やがて、被害者を取り巻く複雑な人間関係が見えてする。
横軸になっているのは、リアルな報道合戦の現場描写である。よくイメージされるように、被害者の家族に感想を聞くテレビ記者、というのが出てくる。
もっとも、少し描写が古い。元が2016年に発表されているので、ちょうどコロナ前の世界の出来事だ。下落傾向にあったとは言え、テレビというメディアが辛うじて大きな権力を維持していた時代である。芸能というかマスコミ的にはSMAPの分裂で持ち切りだった気がする。iPhoneは7が発売された年である。
昨今はインターネット放送が話題だが、ひとまずそれは置いておこう。
この作品の殺害された少女のシーンだけは非常に凄惨である。全身打撲の上に、首を絞められ化学薬品で顔を焼かれていたのである。
ただ、ここから想像される暴力や性的は描写は極めて控えめで、この作品がホラーでないことはよく分かるだろう。公式はミステリと述べているので、そういう要素もあるが、報道現場のドキュメンタリー要素も強い。
新人の多香美がスクープを追いかけ、それに挫折し、また、そこから報道とは「野次馬根性」なのか「世の中の真実を照らす光」なのかで揺れ動く。
と、これだけ書くと文芸作のようだが、フォーマットは普通の娯楽小説だ。そして残念なことに中盤までは、割と退屈でもある。
何かこの新人女性の〇〇が挑む! のパターンを読み過ぎたせいか感動が全くない。昨年は警察官や潜水士の話を読んだが、ダブる部分も多くて少々クラクラした。確かにやりやすい設定なのだろうが、男じゃダメなのか? という疑問はあった。これが今のジェンダー問題とは思わないが、やはり非力さや男世界に混じる難しさがクローズアップされる。だいたい同じ展開を辿るので飽きてきた。このジャンルも男性キャラなら直球で読めたように思う。
中盤の「大失態」から、ようやく話が動き始める。ここまでは予定調和でそれをいかに挽回するかが焦点になってくる。
多香美の対比として冷静で倫理観の塊のような宮藤という若い警察官が重要な役割を担う。彼は警察とマスコミの違いを強調し、マスコミを野次馬と全否定。そのやり方では誰も救えないと論理的に攻めてくる。しかし彼もまた、スクープ主義ではない多香美の姿勢に共感を見せるようになる。
後半はいわゆるどんでん返しの連続になるが、全体のトーンが沈んでいく。明かされる真実がことごとく残酷なためだ。特に最後のオチはキツイものがある。
最後にテレビ。私には提案がある。ニュースは朝、昼、夜の全国ニュース以外は全て、地方ニュースを細かく流す。海外の「平和な」ニュースもいいかも知れない。変なコメンテーターはいらない。それこそ世界の真実ではないかと思うのだが。
総じて読んで損はないが、想像は何も超えてこない作品。反転すれば安定した娯楽作品ともいえる。とはいえ、若い女性が惨殺された話ばかり読んでる私はいったいどうなんだ!? 変態?
(きうら)