- ちょっと暗めの短篇集。
- ホラーや幻想小説要素も混じっています。
- 不安や、幻想に捉われた登場人物の心理は現代人向きかも。
- おススメ度:★★★★☆
ディケンズは、19世紀イギリスの作家です。有名なので、ここで何か説明することもないでしょう。ディケンズは、長編小説(や中編小説)で有名なうえに、かなりの量の短篇小説ものこしたそうです。本書は、その中から次のような特徴のあるものを選んで集めたようです(「解説」より)。
一.超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在していること。
二.ミステリー的要素が強いこと。
三.人間の異常心理の追究。
以上の三つが混在している作品を収録していて、さらに文学的価値が高いものを選んだようです。
では、以下に簡単ながら、私の備忘録的なものを書きます。
『墓掘り男をさらった鬼の話』の、「鬼」は「Goblin」のことです。クリスマスの頃に話された怪談のことが、書かれています。まあまあファンタスティック。
『旅商人の話』は、老人になった椅子と、べらべら話す旅商人の話で、コミカルです。
『奇妙な依頼人の話』は、復讐にもえる男の話ですが、おそろしいほどに暗く陰惨な挿話です。どうやら、ディケンズの(父親に関する)実体験が影響しているようです。これは、なかなかのおそろしさ。
『狂人の手記』は、妻を狂気においやり死なせた男の話。そして、自らも狂った男のことです。「倒叙型ミステリー小説」と呼ばれてるジャンルの「先駆的」なものになるようです。
『グロッグヴィッヒの男爵』は、結婚して妻の尻にしかれる男爵の話。貧しくなって自殺しようとする男爵のもとに、絶望と自殺の守り神があらわれるのですが。この男爵の名前は、英語の意味的に「吹きだす」くらいに、おもしろいそうです。
『チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書』は、継子を殺した男の告白書。「これも倒叙型ミステリーの一つであり、劇的独白の形をとっている」ようです。
『ある自虐者の物語』は、女性の自虐的な独白的物語。「作中人物の一人ミス・ウェイドの手記であり、孤独な魂の劇的独白である」のです。ちょっと個人的にはイヤな話でした。
『追いつめられて』は、保険金殺人をたくらむ男を追い詰めていくさまがおもしろい。復讐の話。「エラリー・クイーンが二十世紀になってから発掘し」、自らの雑誌に掲載して、「本格的推理小説の傑作と絶賛してから、かなり知られるようになった」一編のようです。
『子守女の話』は、子守女が「ぼく」にする、不思議で怖い話の数々。「子供時代の思い出を語ったもの」として読めるそうですが、「ホラーとコミックの混ざった」もので、どこか民話的なかんじもしました。
『信号手』は、集中で一番有名で怖い話です。信号手が幽霊に事故の前兆を見て不安になり、最後になって「私」の言葉が彼の身に呼び寄せるものとは……。
『ジョージ・シルヴァーマンの釈明』は、孤独な男の釈明が書かれています。彼は日陰からこっそり見ているような人物です。かなり数奇な人生のようにも見えるが、60歳になってからの思い出話と読んでみると、なんだかどうでもいい話に思えるのはなぜだろう。
(成城比丘太郎)