- WW2の米軍一戦車部隊の奮闘
- アクション映画としてみるなら普通
- ありえない設定ではある。
- おススメ度:★★★☆☆
またもやホラーでも小説でもないが、ちょっとずつ、元の路線に戻ってきた気がする。次回、乞うご期待(やや自嘲気味)。
【あらすじ】1945年4月、ドイツ軍との闘いの最中、フュリーという名前の戦車に、タイプライターを専攻していたという新人・ノーマン(ローガン・ラーマン)が配属されてくる。その部隊長は数々の死線をくぐってきた車長ドン・コリアー(ブラッド・ピット)に率いられている。彼らは不利な戦況に投入され、それを生き抜いていく。やがて、最強のティガー戦車が現れる。
ある視点(一台の戦車)を通して見たリアルな過酷な戦場もの、ということで、ブラックホーク・ダウンやプライベート・ライアンなどの映画を思い出させる。が、これは基本的にアクション映画である。ブラッド・ピットが主役であることも分かるように、簡単に言えば「アメリカ万歳」なヒーロー映画になっている。キャッチコピーに「1945年4月――たった5人で、300人のドイツ軍に挑んだ男たち。」とあるが、まるで「300(スリーハンドレット)」ではないか。というわけで、どういう風に話が振れるのか興味深く観たのだが、結論としても娯楽性重視のアクション映画だ。
まず、戦争の悲惨さを伝えようとする姿勢は余りない。どちらかというと、圧倒的な「悪」であるドイツ軍に挑む、いかつい戦車乗りたちの友情という感じだ。そういう意味で、戦車の操作や戦闘シーンは面白いと思うし、ドンパチには爽快感がある。戦争の残酷さを切り取ってやろうという姿勢は余りない。
とはいえ、戦車の主砲や機関銃がバンバン発射されるのだが、その砲弾がなんかスターウォーズみたいにはっきりと光の軌跡を残すのはどうなのか。確かに絵的には分かりやすいが、ちょっとやりすぎなような気もする。
テーマもいかにも浅い。戦場に放り込まれた敬虔なキリスト教徒の若者が、戦闘の中で立派な兵士になっていく……なんてのは、過去、無数に語られたテーマだろう。もっとむさくるしい、どうにもならない閉塞感があってもいいと思うのだが、あくまでアクション映画なので、戦闘シーンは爽快感重視。ティガー戦車との戦闘も、なぜか主人公たちの戦車が一番最後に生き残り、ありえないような動きで戦闘をするのだが、「ガールズパンツァー」を見ているような気になってくる。観てて退屈するというものでもないが、ドイツ軍の描き方を観ても、勧善懲悪映画の範疇を出ず、公開当時、何に対してこういうアメリカ上げの映画が作られているのか考えてしまった。
途中、占領した町にドイツ人女性が隠れていて、例によってレイプ被害などが描かれるが、このシーンの違和感が凄い。ドンとノーマンが二人はある家に入ると、中年女性が妙齢の姪を隠している。どうなるか見ていると、なんと、ノーマンと恋愛状態になるのである。しかも、どう見ても肉体関係を結んでいる。ドン=ブラッド・ピッドはなぜか飯を作らせたりして、その様子をただ見守るのである。なんだこれは、と思って見ていると、10分後ぐらいに謎の爆撃があってその女性二人はあっけなく死ぬ。暴れるノーマン「お前はキリストにでもなるつもりか」というドン。
さすがにここは茶番劇過ぎる。ノーマンはともかく、ドンは何がやりたかったのか。とりあえず、ノーマンに若い女性を譲ったようにしか見えなかったし、その直後、女性二人が死ぬのも安直すぎる。
そんな様子なので、ラスト、壊れた戦車で300人のドイツ軍と戦うシーンも、アメリカ映画の美学と言わんばかりのヒーロー殉死型の英雄譚である。普通は逃げると思うけどなぁ。というか、都合よく通信機が故障したり、いろいろとその辺の設定はアバウトだ。
全体的に人は結構死ぬが、流血シーンは控えめで、残酷描写も「火に巻かれる」程度、上記のレイプシーンなども描写されず、全体的には非常に「上品」だ。はらわたを自分で詰め込んでいたプライベート・ライアンのようなグロさはない。あくまでも、悪(ドイツ軍)と立ち向かう孤独な善(一台の戦車)を描く映画だと思う。
雰囲気はあっていい映画だが、傑作というにはいろいろ軽すぎるというのが、総評。戦闘そのものは楽しめると思う。というか、やっぱりブラッド・ピットを楽しむ映画という気がしないでもない。
(きうら)