- エキセントリックな文章と物語
- ケレン味たっぷり
- 普通の悪趣味幻想小説
- おススメ度:★★✩✩✩
書評サイトとしては反則なのかもしれないが、Amazonのレビューが高かったので、内容を一切確認せずに購入して読んでみた。結果を言うと失敗であった。この小説は、道具立ては立派だが、外連味たっぷりの文章と気取った内容、中途半端なスプラッター要素と、最後までホラーが燻ったまま終わる。もっと素直に書けばいいのに。これは失敗したハードボイルド・ホラー小説だ。重ねて断ってから述べる。書評サイトが言うことではないが、他人の評価を信じて読んではいけない。せめて、自分で数行読んでから判断すべきであった。
(あらまし)他人の不幸を集めることが趣味の金持ちの変質者の依頼を受け、轢き殺された被害者が乗っていた自転車や目玉を刺して殺された新郎のメガネやかつらといった遺物を集める謎の主人公「12(トゥエルブ)」。彼は、自分の子供を殺し、首を隠したという女の家に乗り込み、その遺品を蒐集しようと目論むが、その家には朔太郎と礫(さざれ)という奇妙な兄弟がいた。果たして、首尾よく「遺品」は入手できるのか。
と、まあ、設定はいかにもホラーで面白いのだが、とにかく文章がいけない。ご存知かも知れないが、一応、外連味とタイトルの意味を解説しておく。
外連味(けれんみ) …… 元は歌舞伎用語で、大げさなさまやはったりを指す。
メルキオール …… 東方の三博士の一人。新約聖書の登場人物で、イエスの誕生時に来て拝んだ人物とされる(詳しくはWikipedia)
とりあえず、一文を引用する。
暇つぶしなら反対側にも錆びた缶詰のような自主コンビニがあったが、今はどこかに座りたかった。
錆びた缶詰……もし、この文を購入前に読んでいたら、たぶん定価では買わなかった。こういう風に普通の情景を描くのに過度な修飾を用いると、本当に決めたい文章が映えないのだ。この一文は、一番穏当な表現だが、終始この調子で「オリジナルティのある文章」は加速していく。好みの問題もあるので、私が嫌いだという可能性も大いにあるが、私はホラー小説が読みたいのであって、ホラーっぽい文章を読みたいのではない。
これだけでは何のことだがわからないだろうが、物語の設定自体が突飛なのに文章まで突飛なせいで、単にヘンテコリンな物語になってしまった。スプラッター描写も頻繁に出てくるのだが、これもこの文章のせいでちっともリアリティがない。読者に痛がらせないといけないのだが、文章が痛がっている。
それでも、終盤の展開は中々興味深いものがあるのだが、そういう展開に持っていくなら、どこかにまともな人間を一人置いておくべきだった。主人公かヒロインか、警官か。つまり客体化されていないので、ホラー小説というよりは幻想小説に近い。なんだかドグラ・マグラ(Ama) を読んだ時と同じような気分であった。
結論から言うと、冒頭の私の二の轍を踏まないように、何行か読んでから購入することをお勧めする。文章がはまるなら物語もはまるだろう。
私は無理だった。
(きうら)