- 孤島で行われる、狂気のような実験。
- 人間と獣の境目とは?
- エンターテインメントとしても読める。
- おススメ度:★★★☆☆
(あらすじ)「エドワード・プレンディック」は、「海難事故」にあい、とある「貨物船」に救助される。かんしゃく持ちの船長が運ぶものは、生物や、一人の人間と奇怪な風貌の従者だった。船は目的地の島に着くと、船長はそこへ、積み荷とともにエドワードをもおろす。彼を待ち受けていたのは、「傑出した生理学者」と評された「モロー博士」。その島は、博士の実験場となっていて、エドワードがそこで見たものとは……。
島には、モロー博士が作りだした(つぎはぎした)クリーチャーで溢れていて、そいつらは動物とも人間ともいえない存在である。とはいえ、人間の言葉を話すこともできるので、見た目はともかく、やろうとすることは人間と変わらない。もちろん姿がイラストなので描かれているわけではないので、想像するしかないのだが、なかなかのおそろしさである。映画化もされているようだが、未だ観たことがないので、どのような姿形で映像化されているかはわからない。(ちなみに、今流行りの『けものフレンズ』のようなかわいさはない、と思う)。
訳者解説では、モロー博士は、数ある「マッド・サイエンティストの代名詞」とされている。もちろんそうなのだろうが、現代の遺伝子工学の発展とかを考えると、単にマッドとはいえないのだろうか。モロー博士(ウェルズ)も、当時最新科学の「進化論」をとりいれたものだろうし、自分が狂っているとは思っていないだろう。
後半がこの作品のメインともいえる。エドワードは、つくりだされた獣人たちと接触を持ちつつ、彼らがやがて人間性を失っていくのを、おそれながらみつめている。このあたりは、人間と獣との違いを峻別させたものになっているのだが、エドワードが後に人間の顔に動物性の萌芽を見る(ような妄想)ところは示唆的で、これが本書の肝であるといえる。
ここで取り上げた「創元SF文庫」版は現在絶版のようです。異なる出版社からでていますが、どうやら、岩波文庫版は「抄訳(原文の一部を抜き出して翻訳すること)」のよう(私は未確認)ですので、読む際には、ご注意ください。
(成城比丘太郎)