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★★★★☆

リズと青い鳥(山田尚子〔監督〕/アニメーション映画)~テレビシリーズの感想も含めて

投稿日:2019年8月21日 更新日:

  • 『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ作品。
  • 実質、新三年生組主体の、『響け!』続編作品。
  • 実写映画を思わせるようなアニメーション。
  • おススメ度:★★★★☆

2018年公開映画。京都アニメーション制作。脚本は吉田玲子。キャラクターデザインは西屋太志。本作品はテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズの続編で、テレビシリーズが黄前久美子を主人公としていたのに対し、こちらの映画は、鎧塚みぞれ(オーボエ担当)と傘木希美(フルート担当)の二人がメインになっている。この二人に合わせてさらに、同じく新三年生になった中川夏紀(ユーフォ担当)と吉川優子(トランペット担当)も加わることで、テレビシリーズと似たようなカルテットが形成されている。というか、この四人以外の他の部員に関しては(わざと)存在感をぼかして描いている。男子部員はセリフが全くなく、顔がハッキリ映るのもチューバの後藤のみ。だからなのか、一見して、女子高の話かなと勘違いしそう。この点でいうと、邦画の『櫻の園』(1990年)を内容的にも連想させる。

映像としては『響け!』より派手さはないものの、まるで薄い湯葉をすくい取るように繊細に人物の心情をすくいとっていて、そのさまが制作陣の演出によって丁寧に描かれる。とくに青春にまつわる恋愛感情に似た心情を顔の表情で示しているのが印象的。さらに、演奏の難しい(と言われている)オーボエの音色によってなんともいえない緊張感をみぞれと希美の間に生んでいる。そのためか、90分足らずの視聴時間があっという間に過ぎていく(何度見ても)。この感覚は本編でもあったけれど、それとはまた違うもの。

『響け!』では黄前久美子が、部員同士の問題や家族の問題などで東奔西走するという内容だった。東に(一見)ツンツンした同級生がいれば飛んでいって彼女のことを詳しく知るはめになり、西にもめ事を起こしかねない先輩たちがいたら走っていってなんやかんやと潤滑液のように彼女たちの間を(図らずも)取り持つ役目をおうようになる。この久美子の視点から吹奏楽部員たちの青春群像劇をのぞくのがテレビシリーズのひとつの楽しみだった。それに対して、この映画では、舞台はほぼ学校内のみで、人物への焦点もみぞれと希美(と夏紀と優子と新一年生)だけ。

『響け!』二期では、久美子が「ユーフォみたいだね」とあすか先輩に言われて、それが久美子自身の立ち位置を表していて興味深かった。みぞれはオーボエみたいかどうか分からないけど、なんかそんな感じがしないでもない。個人的にはみぞれがオーボエ以外の楽器を演奏しているイメージが湧かない(とはいえ、フルートとかホルンとか持っててもあまり違和感ないが)。今回は久美子の出番はほぼないものの、それに代わって新三年生の間を支えているのが、同じくユーフォの夏紀だろう。この映画では、主にみぞれと希美ばかりのことに目がいきがちだけども、何回か観ると、やはりここでも夏紀がいい味を出しているのがわかる。

テレビシリーズの(初期の)夏紀はやる気がなかったが、滝先生が新任し久美子たちが入部することでやる気を出して、コンクールメンバーのオーディションに本気で取り組むことになる。しかしそれに落ちてしまうが、それでも腐らずに久美子を励まし、葉月ちゃんたちとコンクールメンバーをサポートし、二期からは希美を部に復帰させようと働きかける。映画でも部長の優子を支えている。要は、都合のいいキャラなのかもしれないが、本当にこの夏紀は(性格はキツそうでも)いい子で、もしクラスメートにいたらホレてまうかどうかわからないけど、何とも気になるキャラ。どーでもいけど、映画ではキャラデザが変わったので、夏紀はちょっとだけ『Free!』の江ちゃんに似ていなくもない。

ところで、『響け!』の一期は、本当に素晴らしい作品だった。何が素晴らしいかというと、低音パート(とくにチューバ)にスポットが当てられているから。他にも吹奏楽部を舞台にチューバが出てくるアニメはあったが、これだけチューバのことが取り上げられた作品はないだろう。とはいえ、この作品を見てユーフォ女子は増えたかもしれないが、チューバを希望する女子はたぶんいないだろう。そういう意味でいうと、葉月ちゃんがチューバのマウスピースを選んだのはなんでなんだろう。騙されて買わされたのか、ただ何も知らずに通販とかで買ったのか。ここでちょっと変なツッコミを入れると、葉月ちゃんはチューバのケースを背中にしょってたけども、私の経験から言うとあれは非常に危険だし、そもそもあんなこと出来ないし、もししようとしても先輩に怒られると思うんだが。

さて、その一期では全くセリフがなく、しかもモブ感のあったみぞれが、二期になって急に(?)存在感を出し、希美復帰希望の余波で表舞台へと登場することになる。みぞれは一年生の時に、自分に何も知らせることなく部を辞めた希美に屈託があった。もともとみぞれは、希美への依存というか、クビキのようなものに捉えられていた。テレビシリーズ二期ではそのわだかまりも解消したかに思えたのだけども、本作ではまた違う形でそれがあらわれてくる。というよりも、お互いがどちらとも未だ解決できていないことを、コンクール自由曲『リズと青い鳥』によって知ることになる。その曲ではオーボエとフルートとの掛け合いがあるのだけども、その演奏段階でふたりの間に力量の差があることがわかり、さらにどちらもがお互いにそれぞれクビキに捉えられていたこともわかる。最後に二人がお互いの立場を受け入れることで、「青い鳥」を自由にした「リズ」のように自分の執着しているものを手放し、またはその「青い鳥」のように自由に羽ばたいていくさまが描かれる。最後に、静(みぞれ)と動(希美)をあらわすふたりが、同じテンポで歩いて行くのが印象的。

この映画で演奏される『リズと青い鳥』は、(架空の)同名童話を基にしている。この童話に出てくるリズと青い鳥とを二人に重ねて話は進んでいく。劇中劇といったかんじで映画本編にその童話が挿入されるのだけども、それはどこか『耳をすませば』に似ている。というかジブリっぽい部分がある。ひとつツッコミをいれると、この劇中劇をもうちょっと詳しく描いていればよかったのになと思う。『耳をすませば』みたいに。もうひとつツッコミを入れると、みぞれが図書室で借りた『リズと青い鳥』の本は、見た目は岩波文庫(赤)なのだけども、分類がどうなっているのか、海外作家と日本人(らしき)作家とが並んで置かれている。

コンクール用の自由曲『リズと青い鳥』の第3楽章に、オーボエとフルートの掛け合いとソロがあるのだけども、その出だしは、明らかに『韃靼(だったん)人の踊り』に似ている。この『韃靼人の踊り』は、みぞれと希美(と優子)にとっては因縁のある曲で、これを意識して作曲したのかどうかわからないけど、『韃靼人の踊り』を思い浮かべることで、この映画に奥行きが出るように思う。さらにいうと、同じく京アニ制作の映画『ハルヒの消失』で使われた、サティの曲も思い出した。

この映画は、同監督・同脚本の『たまこまーけっと』シリーズを思わせるような演出をさらに純化したようなかんじで、とても良かった。とくに、『たまこラブストーリー』で見たような、先輩と後輩とのやりとりを思わせるようなところなど。さらにキャラデザが、いい意味で薄い感じに変更されたので、アニメーションというよりも実写映画に近い感じが出ている。誰でも観ていてほっとできるような作品といいたいのですが、しかし、この映画だけを観ただけではさすがに一見さんは十全に楽しむことができないだろう。もちろん全くわからないわけではないけども、やはりテレビシリーズを観ることが前提になっているような気がする。まあ、これだけ観る人はあまりいないと思うけど。

(成城比丘太郎)


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