- 男と女にまつわる怖い話が1ダース=12編
- 絶妙なブラックユーモア的な落ちがつく
- 大なり小なりエロス的要素がある
- おススメ度:★★★☆☆
著者の阿刀田氏は星新一氏とならぶショートショートの名手として知られている(と思っている)のだが、今でもあちこちで名前を聞くことが多い、星新一氏とは違い、余り耳にすることが無い。そういう私も本棚を探して見つかったのが、この一冊だけだった。ただ1983年文庫初版という古さにもかかわらず、実に多彩で工夫の凝らされた物語が多く収録されている。
基本的なお話のフォーマットは、男と女の性的な関係に関するブラックユーモアで、物語の端緒で何らかの問題が提示され、それについてのお話が展開され、そしてまさしく「ニヤリとする」という表現がぴったりなオチがつく。オチのつき方は、多少のクオリティの差はあるものの、一定水準以上の意外性があり、読んでいて退屈しない。その辺はさすがに、星新一と並び称されることだけはあると思う。
収録されているお話は多彩で、SF的な要素を持った「妖虫」「進化論ブルース」やミステリ的な側面が強い「友を裏切るなかれ」、メタ的ユーモア「格子模様の夜」や単純に艶談として面白い「結婚嫌い」など、バラエティに富んでいる。本書のタイトルの「一ダースなら怖くなる」は素晴らしいタイトルで、確かに各話ともどこかしらユーモアがあるのだが、よくよく考えてみると非常に怖い話ばかりだ。よくよく考えなくても怖い「湖畔の女」なども収録されている。
最初にも書いたが、まあ、直接的に言うと結構「エロい」お話が多いので、そういうのが苦手な方には余りお勧めできない。男女の交合の様子が割と直接的に描写されていることも多い。描写自体はそんなに淫靡ではないのだが、作者の作風、はっきり言えば性癖だと思うが、卑猥な表現がお話のポイントになっているので、苦手な方はご注意を。
たとえば、最初に語られる「妖中」は、ひょんなことから「プラスチックを食べる虫」を見つけた冴えないサラリーマンが、この虫を利用して一獲千金を夢見るというストーリー。同時に男は、エリカという名前のあるホステスに恋をしているのだが、このエリカにも虫の話をする。エリカも主人公の男の話を信じ、好意を抱くのだが…という筋立て。エリカは、物語上では非常に魅力的な体を持った女性として描かれている。それはこのお話の根幹と密接に関連していて、最後まで読むと、驚愕するというというか、呆れるというか、とてつもなく虚しくなるというか、曰く表現しがたい複雑な感情を抱くだろう。要約すると「ニヤリとする」という風になる。
一方、科学的・論理的にそれほど厳密な話ではないので、あくまでも大人が楽しむ艶談として、軽い読書に向いているだろう。ホラー的な要素はそれほど強くないが、確かに「怖い」話も多いので、このサイトで紹介しているような怪談がお好きであれば、少々時代的に古いことは考慮する必要はあるが、一読の価値はあると思う。
(きうら)