3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★☆☆

仮面病棟(知念実希人/実業之日本社) 〜あらましと感想、軽いネタバレ

投稿日:2017年6月9日 更新日:

  • 病院に立て籠もった犯人と医者のサスペンス
  • 文章は読みやすい。キャラもわかりやすい
  • そこそこ楽しいがもう一捻り欲しい
  • おススメ度:★★★☆☆

(あらまし)アルバイトである病院の夜勤についた主人公の外科医・速水秀悟。その病院にピエロの仮面を被った強盗が押し入り、拉致して来た女を拳銃で打つ。その女の治療を速水はさせられるが、やがてこの病院の真の秘密に近づいていく……という筋立て。

最近、変化球が多かったので、初心に帰って怖い本を求めて本屋で買って来た一冊。実はその本屋の店長さんにオススメを聞いてみたのだが、俄かに慌てて「最近、本を読んでなくて……」などと意味不明な供述を始めたので、一番近くにあったこの本の裏の紹介文とオビを読んで選んで買ったのが真相だ。仕方ない。紺屋の白袴ということにしておこう。

本作の長所は適度な距離感で読みやすい文章とテンポの良い展開だ。ホテルなら程よく空調が効いた部屋という感じ。冒頭から簡潔に状況を説明し、ちゃんとフェアに伏線を張りつつ、所々に見せ場を作る。概ね作者の狙い通りのことを読者は感じるだろう。

ただ、余りにサスペンスのお手本通りに組み立ててしまった為に、この手の本になれた読者には、売りであるどんでん返しが透けて見える。その前の病院の真相も早い時点で粗方予想できる。章のタイトルが「最初の犠牲者」はさすがに頂けないと思ったが……。

終盤に向かって、物語の場面は結構複雑に入れ替わるのたが、帰着点がある程度わかる為に少々煩わしい。所々、読者も含めて登場人物をフェイクにかけようとするのだが、それが成功しているとは言えない。この辺が大きな欠点で、思わず分かったから先へ進めよ、と思ってしまった。

全体的には褒めているようには思えないと感じるだろうが、正統派のサスペンスとして成立しているし、私のようなヒネた読者ばかりではないだろうから「少しドキドキする軽いサスペンス」としてはよく出来ていると思う。Amazonの評価は低めだが、そんなに悪くないと思う。

ただ、最後のオチに何とも言えないモヤモヤが残る。多分、ステレオタイプのキャラとして描き過ぎたが由縁に唐突さがある。もう一捻りして、読者の度肝を抜いて欲しかった。このシリーズは趣向を変えた続編があるが、読みたいかどうかと言われれば、言葉を濁してしまう。

あと、やっぱり本屋の店長はどんなジャンルでも一冊くらいはオススメを持っていて欲しいなぁ。

(きうら)



(楽天ブックス)

-★★★☆☆
-, ,

執筆者:

関連記事

君たちはどう生きるか(吉野源三郎/岩波文庫)

中学生向けの啓蒙書 簡単なストーリーと簡潔な哲学入門 宮崎駿がどんな映画にするのか? おススメ度:★★★☆☆ ※誤字脱字多数あり。修正しました。スマホで書くとダメですね……。 ブームになったのは、1年 …

事故物件7日間監視レポート(岩城裕明/角川ホラー文庫)

手堅い作りのJホラー タイトルまんまの内容 オチはイマイチ おススメ度:★★★☆☆ 為になる小説とそうでない小説は確かにある。その基準ははやり、大多数の人の評価だろう。そして、読みたい作品≠為になる作 …

幽霊たち(ポール・オースター/新潮文庫) ~中程度のネタバレ注意

新米探偵への奇妙な依頼 抽象的であり、具体的でもある不思議な世界 意図が分かるようなそうでないような…… おススメ度:★★★☆☆ このサイトで、このタイトルから直球ホラーを期待された方には申し訳ないが …

空吹く風・暗黒天使と小悪魔・愛と憎しみの傷に(田中英光/講談社文芸文庫) ~作品解説と感想

「田中英光デカダン作品集」という副題。 すさまじい生活の有り様。 まさに、無頼派中の無頼派。 おススメ度:★★★☆☆ 田中英光は、太宰治に師事したことでよく知られています。私は太宰関連をよく読んでいた …

婚礼、葬礼、その他(津村記久子/文藝春秋) ~あらすじ、感想と、ドラマの感想。

披露宴と通夜とのブッキング。 面倒なことをどう乗り切るか。 簡単に読める。 おススメ度:★★★☆☆ 本書の紹介に入る前に、4/22で紹介した『この世にたやすい仕事はない』がテレビドラマ化されていたので …

アーカイブ