- 作者の「自作解説」付き9編と、書き下ろし新作1編。
- 顔芸の要素もあるが、発想をうまく生かしていた良作もあります。
- ホラー漫画をあまり読まない人にはちょうど良いかも。
- おススメ度:★★★★☆
おススメしといてなんですが、私は、最近はホラー漫画は読みません。特にこれといった理由はないですが、漫画自体、中年になってからあまり読まなくなってしまったこともあります。といっても、昔は、ホラー漫画をよく読んでいたわけではありませんが。ですので、今回の紹介本も、(いいわけですが)ホラー漫画を読まない人の感想とおとりください。伊藤潤二作品に関しても、以前『うずまき』をよんだくらいで、その時の感想は、《まあまあ面白い、もし「うずまき恐怖症」なるものがあったら、怖いだろうな》くらいのものでした。では、いくつか作品の感想を書きます。
「中古レコード」……死の直後に吹き込んだとされる歌声の入ったレコード。そのメロディに魅了されたものたちの惨劇。
「寒気」……「ぼく」の隣に住む「梨奈」ちゃんの腕には、無数の穴があいていて、それは、「ぼく」の亡き祖父が、無数の穴に苦しめられて死んだものと同じものだった。その病気の原因には、あるものが関係していたのだが……。この漫画の中で、私はこれが(穴あきの描写)一番生理的にうけつけなかった。競走馬のかかる病気に「蟻洞」という、蹄に空洞が生じるものがありますが、それを思い出しました。
「ファッションモデル」……ある大学生が、たまたま見かけた雑誌に、異様な風貌のモデルをみつけ、怯える。その後、映画サークルの主演女優に応募してきた一人に、そのモデルの女性がいて……。なんだか、ホラーというより、ギャグかと思った。とくに、全員で映画の撮影地に向かう車内での一コマには、思わず噴き出した。
「首吊り気球」……ある日「和子」の友人で、アイドルの「輝美」が首つり自殺をした。やがて「和子」は彼女の死の真相に気づく。それは、人の顔を持った気球が、その顔に該当する人物を首吊りにしようと襲ってくるというものだった。自分の顔に襲われるというアイデアをうまくいかした一編。
「長い夢」……実際の睡眠時間とは違う時間を、夢の中で過ごす男の話。彼の夢の中で過ごす時間は、はじめは数日だったのが、徐々に一年、数十年、数千年と増えていき、それに応じるように、男の風体も進化したかのように、異形のものに変わっていく。やがて、男の夢中時間は永遠をむかえ……。睡眠と覚醒との懸隔を描いた、集中一の傑作。この作品は、漫画としても面白いが、文章(小説)にしても面白いのではないかと思う。
その他に、人形使いが、逆に人形に操られる様をえがいた「あやつり屋敷」。先祖の積み重なった記憶が、頭蓋を重ねるというかたちで視覚化された「ご先祖様」。油まみれの一家と、その不快感(夏の暑い日の汗がべたべたした感じ)をかいた「グリセリド」などがあります。
紹介していない作品もありますが、どれも読みやすいです。作品全体としては、グロ表現はそれほどありません。
(成城比丘太郎)