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再生 角川ホラー文庫ベストセレクション ~ネタバレあり

投稿日:2022年2月18日 更新日:

  • リハビリがてらに読んだ直球路線のホラー短編集
  • 確かにジャパニーズホラーだ
  • 頂点でもなければ底辺でもないという内容
  • おススメ度:★★☆☆☆

現時点で本ブログには900本を超える記事があるのだが、そのうち、角川ホラー文庫を扱ったものは一定の分量があると思う。そういう意味ではお世話になった文庫、その渾身の短編集といえるベストセレクション。確かに作家の名前では新旧併せてビッグネームが揃っているが、その中身は無難の一言に尽きる。基本的に本作の立ち位置は霊的存在を認めている人間向け、である。ホラーに合理性を求めるタイプの読者はあまり楽しめない。ある程度の矛盾を受け入れる感性があれば、退屈はしない程度の内容だ。順を追って短い感想を述べていきたい。

ネタバレは気にしないスタイルなのでご注意を。

「再生/綾辻 行人」
本サイトでは「殺人鬼-覚醒篇」を紹介しているが本来はミステリで名を成した作家である。一言でいえば変形版「猿の手(Wiki)」を想起させる作品と言えるだろう。タイトル通り、死者の再生を願ったために悲劇に陥るという話である。この手の話は無数に読んだが、死者が蘇ってハッピーになったという例は少数で、大多数は悲劇を生む。本作は大学の先生と生徒の情事(?)に近親相姦というアブノーマル要素、少々のスプラッター風味を加えて出来上がり、という良くも悪くも分かりやすい作品。さすがに素人っぽさは微塵もないが、かといって誰がこの小説を好んで読むのかと聞かれると困るような内容だ。短編集のトップを飾るだけあって、バランスのいいホラーではあるが、そのバランスの良さが凡作っぽくも思え複雑な気分になる。この作品にテーマをとった表紙の絵は素晴らしいとは思う。

「夢の島クルーズ/鈴木 光司」
著者の名前は知らなくてもリングに出てくる「貞子」の原作者と言えば若い人でも分かるだろうか。短編らしいシチュエーションもの。東京湾を航行するヨット、そのオーナーはマルチ商法にハマった夫婦で、主人公はその勧誘を受けている若者である。映画化もされた短編集「仄暗い水の底から」から収録。その名の通り、水分たっぷりな湿っぽい展開を遂げる厭なプロットだ。ただ少し古くて携帯が通じないのは異次元に映る。普段、ホラーなど読まない方からすればそれなりに怖いかも知れないが、そこそこ、このジャンルに染まっている読者には物足りないだろう。作品のテーマが「怖い」よりも「哀れ」にあるからだろうか。リングからサスペンス性と緻密な設定を引いたら本作になるような気がする。

「よけいなものが/井上 雅彦」
本書では最も短くユーモアもあるショート・ショート。ホラーというより洒脱な怪談といった体裁で、何回か読んで納得するというような内容だ。怖いことは少しも起こらないが、何かが起こりそうで起こらない「起」だけのお話。まあ、こういう箸休めも必要だね、と全部読み終えるとそう思うが、拍子抜けするのは間違いない。

「五月の陥穽/福澤 徹三」
読んでいる間はずっと「昭和」という単語が頭をよぎっていた。とにかく設定が古い。ふとしたきっかけで、危機的状況に陥る嘘みたいなサラリーマンのお話である。サラリーマンもそろそろ死語になりそうな今日この頃、この作品の持つ時代感を共有できるのはギリギリ40歳以上(2022時点)ではないだろうか。まるで赤川次郎のような軽妙な会話を駆使して、非日常を生み出す技術は確かだが、やはりスマホが無い世界の住人には共感できないだろう。そう思うと流行作家ほど儚いものはない。対照的に日曜のゴールデンタイムに「ちびまる子ちゃん」と「サザエさん」が放送されているのが不思議でならない。あのアニメを観た子どもは一体どういう感想を持つのだろうか。ダイヤル式電話や空き地、御用聞きの酒屋さん……一周して明るい現代ファンタジーに映っているのだろうか。いわゆる不条理という世界に片足を突っ込んだやや不気味な短編。

「鳥の巣/今邑 彩」
私が最も苦手とする「女の情念」を女性視点で描いた、そこそこ長いお話。このタイプのオチはいまや古典といっていいほど多用されていて、途中で底が割れる。鳥がテーマなのはヒッチコック趣味なのだろうか。それも古い話だ。平成二桁に無理に持って行ってシックス・センス風といっても今はネタバレにはならないような気もする。かいつまんで言えば、リゾートホテルに遊びに来た女子大生が、不気味な主婦と出会い、ある惨事の真実を知るという内容である。極端につまらなくはない。むしろ読みやすい。ただ、少しでも物語を好んで読む人には興ざめする結末となるだろう。夢落ちと一緒である。私には流行することがいいのかどうか、分からなくなってきた。

「依って件の如し/岩井 志麻子」
タイトルは「よってくだんのごとし」と読む。くだんとは簡単に言えば牛頭人身、不吉な架空の予言者の怪である。とはいえ、怪談ではなく本作は第二次世界大戦前後の寒村に生まれた不幸な兄妹の絆を描いた陰鬱なシーンが全て。著者の岩井志麻子は「ぼっけえ、きょうてえ」が著名であるが、怪談のストリーテラーとしては少々文章が偏りすぎて読みにくい。本作もその特徴が顕著で(先の出世作の文庫が初出)筆力は感じるのだが単調な展開がとにかく辛い。この短編集で一番長く感じたくらい苦痛だった。戦時下の田舎で虐待され続ける少女とその恨みを晴らす兄という世界観は分からないでもないが「火垂るの墓」をホラーにしようとしたような、非常にネガティブな内容だ。作者のファンならどうにか読めるという内容。

「ゾフィーの手袋/小池 真理子」
著者の名前を読んで女流作家の暗い3連発と予想したが、意外に良かった。「墓地を見おろす家」を本ブログでは紹介してるが、心霊現象をアリとするならば、存外に美しい話ではないか。解説では舞姫に例えられているが、それはちょっと行き過ぎだ。とはいえ凡百ホラーにはない情緒があるのも事実だ。だからどうしたというオチではあるが、その無意味さに微かに余韻を感じさせてくれる。冒頭の「再生」が読者の期待を正面から受け止める力技であるとすれば、本作品は読者の期待を上手く横に逸らす技術を感じる。関係ないが、ゾフィーといえば「ゾフィーの手紙」が思い浮かぶ。もう誰も知らないだろうなぁ。あれも流行った。

「学校は死の匂い/澤村 伊智」
新しいと言っても2018年の記事で「ぼぎわんが、来る」シリーズを本ブログでは紹介しているのだが、本短編集では新世代の作家として紹介されている。Jホラー界は狭いので仕方ないのかもしれない。良くある学校の怪談を小学生の女の子が解決するという設定で、古いのか新しいのか分からない世界観と微妙なラノベっぽい文章で、この作品集の中では一番浮いていると言えるだろう。いや、怪談の内容としては工夫があって素人芸ではないのは確かだが、だからといってやはり誰をターゲットにした作品なのかと言われると非常に困る。「霊感少女」はさすがに厳しい。それにミステリ要素が追加されていても「コナン君」の一話にありそうな内容だ。この作品で終わるので余計に虚しくなる。昨今のヒット作が「腕がちぎれ、首が飛ぶ」「恨みつらみ」「怪異の哀しみ」というこのジャンルの「長所」を「喰って」売れているのだから、もっと頑張って欲しい。

・ ・ ・

以上、久しぶりにホラーと名乗る作品群を読んだが、そこに新たな発見はなかった。それも仕方ない。ほとんどが既知の作家の過去作品だからだ。ホラーにはサスペンス、ミステリ、文学、エロス・グロスなどの概念を踏み越える可能性があると思っている。とはいえ、常に現在が過去を塗り替えていく世界でもあり、発表当時の価値を発揮し続ける困難さも感じた。どの作品も当時はプロの編集者から見て読むに値する作品だったのだろう。それが色褪せて見えるのは私か社会、あるいはどちらもが古びたせいに違いない。そう思いたいし、そうであって欲しい。

(きうら)



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