3行で探せる本当に怖い本

ホラーを中心に様々な作品を紹介します

★★★★☆

吉増剛造詩集 (吉増剛造/ハルキ文庫)

投稿日:2017年6月8日 更新日:

(異例の編者冒頭注)今回は詩集ということで、一般の読者の方には敷居が高いと思われるが、この紹介文を書いた私の盟友の文章も相当ぶっ飛んでいる。どこからどこまでが原典で、どこからが感想なのかが良くわからない。正直、少々狂気も感じる。しかしこの狂気こそまさに「怖い」もの。お時間が有れば、ぜひこの恐怖を……。

  • 吉増剛造(Wiki)の、90年代までの仕事から抜粋。
  • とにかく読み、発声(して何かを発生)することだ!
  • 私の感想と、詩的で恣意的な読解。
  • おススメ度:★★★★☆

私は詩を読む。冒頭詩の「朝狂って」を読む。

「朝狂って」

ぼくは詩を書く
第一行目を書く
彫刻刀が、朝狂って、立ちあがる
それがぼくの正義だ!

朝焼けや乳房が美しいとはかぎらない
美が第一とはかぎらない
全音楽はウソッぱちだ!
ああ なによりも、花という、花を閉鎖して、転落することだ!

一九六六年九月二十四日朝
ぼくは親しい友人に手紙を書いた
原罪について
完全犯罪と知識の絶滅法について

アア コレワ
なんという、薄紅色の掌にころがる水滴
珈琲皿に映ル乳房ヨ!
転落デキナイヨー!
剣の上をツツッと走ったが、消えないぞ世界!

(詩集『黄金詩篇』より)

これから詩を書くぞという決意、やるぞという決意、僕ではなく、ぼく、それは若さのあかしだ!
第二行目に第一行目を書く、つまりぼくの決意に、詩を書く行為が遅れてついて来ている、ついてこい詩文よ!
ぼくの彫刻刀が朝に勃つ、朝だつ彫刻刀は世界に切りつけ、何かをうみだす、もたらす、それが朝(はじまりのとき)に狂う、通常でないと人が言う状態で、ぼくの正義は、ある意味相対的なものとして立ちあがる。

朝焼けは自然のもの、乳房は人体のもの、どちらも神の生みだしたもの、それらが美しくないとはかぎらない、美しいことが第一でないとはかぎらない、どちらでもいいじゃあないか、音楽ではなく、全音楽、それは世界を満たすすべてのもの、全宇宙にみちる、全音楽、すべてまやかしという発見!
花はなんだ、裂け目の美なのか、これも世界をうみだすものか、それを閉じる、そして転落、楽園から転げ落ちる、疾走して失踪、どこへ?
美という、ことばのいらない世界?

日時をつけて、立ち止まろう、ぼくのセーブポイント、ぼくの親しい友人は、親しくない友人とは違うもの、手紙を書いた、書き文字にして伝えることだ、原罪という、この世にすでにみちている(はじまりの罪という)とりきめについて、完全犯罪、吉増剛造には「完全犯罪への熱望」がある、「完全犯罪は一つの、つけいるすきのない観念の存在を明示してい」て、「そこには完全な夢があ」り、「完全犯罪イコール詩という図式は、美の意識の発生を含んでいるようにおもう。」という、美は完全犯罪のように一つの完結した世界、しかしカインの殺人は、神にはお見通し、どうすれば完全犯罪はうまれるのか、知識の絶滅法とはどうする、知識の獲得は不可逆のものか。(それにしても、完全犯罪と知識の両方の絶滅法なのかどうか、よくわからない。)

アア コレワ、なんという、考える先に声から発したコトバ、血の通った手のひら、私の手のひらは時々薬疹が躍進してあかくなる、せいなる水滴は完結した世界、すべてを映す、すべてを宿す、泡立つ世界のイメージ、珈琲皿の乳房、なんてオシャレなかたち、転落デキナイと嘆く必要はない、そんなことしなくてイイノダ、くるくるまわって、ツツッと軽く、危険な剣の上を走る疾走感、<!>(原文だと!は斜めになっている)というぼくの彫刻刀、剣という形象をとったもの、『創世記』にあらわれた「燃える(炎の)剣」は、神の<正義>と<罰>、ぼくの正義はここにおいて絶対的になる、ぼくはその上を走りぬける、世界が消えないのはあたりまえ、それはここでぼくがつくりだしたもの、ぼくとともにあるもの、だからぼくが詩をうみだすかぎり、世界からすれば、消エテタマルカ、だ!

引用文献:「危機感について」(『吉増剛造詩集』思潮社現代詩文庫)

(成城比丘太郎)


楽天ブックス

-★★★★☆
-,

執筆者:

関連記事

拝み屋郷内 花嫁の家拝み屋(郷内心瞳/MF文庫ダ・ヴィンチ)

「拝み屋」を営む著者の実話怪談集 魅力的な登場人物と秀逸なストーリー 単なる実話系会談集の枠を超えた傑作 おススメ度:★★★★☆ 憑き物落としや安全祈願などを生業とする拝み屋を営む著者が、自らの奇怪な …

天使の囀り (貴志祐介・角川文庫)

気持ち悪いとはこういうことだ 貴志作品で二回読みたくないのはこれだけ 意外に読みにくい文章が惜しい おススメ度:★★★✩✩ (あらすじ)主人公の北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医だ。その恋人で作家 …

十の物語(高橋克彦/角川ホラー文庫)

古いが正統派の日本ホラー バラエティ豊かな10篇プラス1 古いのを除けば割と楽しい おススメ度:★★★★☆ 平成5年刊行と相当古いが、現代ホラー傑作選・第3集と銘打たれている。当時でもクラシックなライ …

多和田葉子をおすすめしてみる(成城比丘太郎のコラム-08)

「コラム」という名のおすすめ記事 多和田葉子作品の中で、最初に読むにはどれがいいか 最新作『穴あきエフの初恋祭り』についても おススメ度:★★★★☆ 【はじめに】 先日、多和田葉子の『献灯使』(過去記 …

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(字幕版)

世界侵略という名の明るい社会派ドキュメント 楽しく観られるが耳が痛い いつものマイケル・ムーアの作風 おススメ度:★★★★☆ マイケル・ムーア監督と言えば、最新作「華氏119」が最近公開された。どうい …

アーカイブ