- 中学生向けの啓蒙書
- 簡単なストーリーと簡潔な哲学入門
- 宮崎駿がどんな映画にするのか?
- おススメ度:★★★☆☆
※誤字脱字多数あり。修正しました。スマホで書くとダメですね……。
ブームになったのは、1年前くらいだろうか。漫画版は未だに本屋で見かける。もちろん、あの宮崎駿が引退を撤回してまで(またしても)作成している新作映画の題名に選ばれたかからだ。それだけで、1937年の原作及びそれをもとにした漫画をベストセラーに押し上げてしまう御大の実力には恐れ入った。それは後半で書くとして、とりあえず、本書の感想を述べたい。
物語は非常に単純で、コペル君と呼ばれる中学2年生の男の子とその友達との何気ない学生生活でのできごと、それに大人の視点から注釈をつける叔父さんという構図で話は展開する。もちろん、舞台は発刊当時の中学校なので、風俗はずいぶん違うが、さほど気にならない。基本的には、生き生きとした、しかしクラシックな学生生活の描写が問題提起、叔父さんがノートや言葉に記して託すのがその問題の研究、というスタイルで進んでいく。
しかし、あくまでも少年少女が読むことを前提に書かれた物語である以上、複雑な哲学や経済用語は出てこない。清算と消費の関係であったり、貧困問題、友情とプライド、また、敗北と再構築などの局面が分かりやすく説明されている。特に、日常の何気ない出来事から、経済学や物理科学の基礎を滑り込ませてくる展開は秀逸だ。物語は極めて穏当で、もし、教科書にこの本が載っていたら、何の違和感もなく「教養作品」として鑑賞しただろう。それぐらい清く正しく、下品なところが全くない正しい教育書でもある。
例えば、ニュートンが林檎の落下から万有引力を発見した話(現在は比喩として用いられている)を皮切りに、どうして物が落ちないのか、と思考を進め、最終的に月が落ちてこないのはなぜか、という話に引っ張っていくのは、こういった教養書としては極めてよく出来た思考の整理で、読んでいて知的に面白い。他にもナポレオンを例に取って勇気や誇りを語るくだりなど、楽しく読めてためになる。
ただ、そこはやはり中学生向けなので、本格的な社会問題が展開するわけでもなく、その萌芽が語られるにすぎない。一通り学問を修めた人には物足りないかも知れない。ただ、文章、イラスト、構成なども含めて、この手の本の中では群を抜いて面白いと思うので、興味があれば、ご一読を。
で、宮崎駿。もう何度目の引退撤回になるのか、稀代のアニメーターである彼の頭の中では今でもイマジネーションの鍋が激しく煮えたぎっているに違いない。体の衰えを感じても、それをぶちまけないことには死んでも死にきれないのだろう。この本からどんな話になるのかは分からないが、数々の比喩を交えた飛躍した映像が作られているものと考えられる。真面目な教科書通りの作りにはならないだろう。
何度も語っているが、宮崎駿こそ現存するアニメーターで天才と評していい、ただ一人の人間ではないだろうか? それこそ星の数ほどあるアニメの中で、彼の映画ばかりなぜ放映されるのか。それは、やはり、根本的に違うからだろう。それはあの「動き」であると思っているが、それについては専門家の分析を呼んだ方が早かろう。
興味深いのは、創作家が何歳まで現役で勝負できるかというこの一点だ。自分にとっては彼の後継者が新海誠や細田守では物足りない。「綺麗だから綺麗に見せる」「愛が重要だから愛を語る」映像はもうまっぴらだ。わざわざ映画館に行かなくても空くらい、上を見上げればよっぽと自然で美しい光景が見られる。宮崎駿は変わり続けた。カリオストロから始め、常にテーマを変化させつつ、唯一無二の動画テクニックを駆使して人々を魅了し続けた。来年とも再来年ともうわさされている本映画は必ず観に行く。
そしてその先に何が見えるのか。希望か、絶望か。俺たちはどう生きるのか?
(きうら)