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★★★☆☆

君主論(マキャヴェッリ〔著〕森川辰文〔訳〕/光文社古典新訳文庫)

投稿日:2018年1月31日 更新日:

  • マキャヴェリズムの語源となった書物です。
  • 当時のイタリア(ルネサンス)に、新しい君主像という処方箋を。
  • はっきり言うと、本書の訳文には読みにくい部分があります。
  • おススメ度:★★★☆☆

「マキャヴェリズム」というと、今ではなんだかおそろしい言葉として認知されているかもしれません。ウィキペディアによると、「マキャヴェリズム」とは、「どんな手段や非道徳的な行為も、結果として国家の利益を増進させるのであれば許されるという考え方」(大辞林よりの孫引き)とあって、言葉の意味だけから考えると、《結果が出ればいいんだろ?だったら、どんなあくどいことにでも手を染めてやるぜ、ひゃっはー》とでもいうような考え方に通じるかもしれません。しかし、それは本家(?)マキャヴェッリとは何の関係もないこと。本書を読めばそのことが分かるでしょう。

マキャヴェッリが生きたルネサンス時代のフィレンツェをはじめ、当時のイタリアは多くの(都市)国家に分かれていて、そのさまは、まさに日本の戦国時代を思わせます。さらにそこへ、フランスやドイツといったでかい国家が直接プレッシャーをかけてくるんですから。ちょっと単なる戦国時代とは違いますよねぇ。そこでマキャヴェッリは、変転するフィレンツェ(を含むイタリア)の情勢から、冷徹な目でリアリスティックにイタリアの暗部を見つめ、何がダメなのかを抉り出さねばならなかったのです。

外交官としてあちこちへと折衝に赴き、そこでの経験を通して(さらにはローマの政体研究もやりつつ)、イタリアに何が必要なのか、「理想を実現するための徹底したリアリスト」となったマキャヴェッリなのでした。
「人民を守ることで確固たる人民の支持をとりつけ、強固な基盤を築き、自前の軍隊を持って、全イタリアを糾合し外国勢力の支配からイタリアを解放せよ、そのためには私も微力ながら力をお貸ししよう。これが『君主論』を貫く主張であった」(「解説」)

まずは君主(や国)としての心構えのようなものを語るところから。病の早期発見が大事なように、国家も不都合な事態に際してはすぐに治療を施すべき。獲得した国を、場合によっては破壊することもいとわずに。または、征服した都市に君主が移り住むことも考えよ。迫害行為はわずかの危害で済むようにして、人々(住民)を安心させるようにと。これらはまあ、まっとうな考え方ではないでしょうか。

「自前の武力を持たなければどんな君主政体も安泰でないどころか、逆境にあって自信をもって国を守る力量がないので全面的に運に頼ることになる……(中略)……自前の武力というのは、臣民か市民か君の子飼いの部下かで構成された軍備のことであり、その他のすべては傭兵軍か援軍かである」(P124)
マキャヴェッリは、傭兵がいざというときにはあてにならず、他国の援軍が自国を混乱させることをも、経験で学んだのでした。

『君主論』から「マキャヴェリズム」がうまれたのには訳がないわけではないでしょう。マキャヴェッリは、どの君主も残酷であることより慈悲深いと思われるようにせよ、と述べておきながら、この慈悲深さを下手に用いるなら、相手に恐れさせる方を選べ、しかも憎悪を伴わずに恐れさせること、それが一等大事なのだ、兵士の集団を統率するには残酷ということを気にかけるな、と言うのです。また、慈悲深く、信義を守り、人間味があり、誠実で、信心深く見えることはそれぞれ有益であるが、そうである必要がなくなれば、正反対のものになってもよい、必要があれば悪にでも踏み込んでええんやで、とも言っていて、この辺りが後世に「マキャヴェリズム」として悪用されたのでしょうか。

しかし、第二十一章「尊敬され名声を得るために君主はいかにふるまうべきか」では、君主への恩義を相手に感じさせる方法も書かれています。「人間というものは、忘恩の見本のごときふるまいによって君を押しつぶすほど不誠実ではない」(P190)には、マキャヴェッリが人間のすることに対して疑問ばかり持っていたわけではないことが分かるでしょう。とはいえ、そのことは、マキャヴェッリが、人間というのは、よこしまで恣意的な存在で、善より悪に傾きがちで、すぐに堕落しがちで、といったことを熟知していたうえでのことですが。

本書は、中公文庫版と読み比べたところ多少読みにくいのですが、これは、読みやすさを前面に押し出した光文社古典新訳文庫としては、少し残念なところです。

(成城比丘太郎)


-★★★☆☆
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