- 報われない男の諦めない物語
- 4つの短編を収録
- 人生は勝ち負けではない
- おススメ度:★★★★✩
(あらまし)「人生の大きさは悔しさの大きさで計るんだ」。文庫本の裏面にあるフレーズ。最近気が付いたが、人生とは基本「うまくいかない」。逆説的に言うと、うまくいくことを追求すればするほど「不幸になる」。この本は守衛や運転手、サラ金の取り立て屋など、心ならずも望まない職に奉職する人々を、愛情たっぷりに描く短編集。人生経験が有ればあるほどグッと来る。
例えば、表題作の短編は、家族とも別居し、前職を首になり、守衛と倉庫番を務める冴えない中年が、ある事件の真相に警察より先にたどり着くという筋立て。社会的には落伍した主人公が、自分自身の矜持をかけて、犯人を推理する。しかし、その行為はむしろ迷惑がられる。あまつさえ、犯人に間違えられたりする。しかし、主人公は簡単に諦めたりしない。
あなたは自分が幸せと思いますか? うん。あまり思っていませんね。では、この「不幸せ感」に有効なものは何か。みんな笑って生きているけれど、それは底板の薄い小舟に乗って漂っているようなもの。誤って踏み抜けば、底知れぬ暗い海が広がっている。これを恐怖と言わず何と言おう。じゃあ、どうすれば。
それに対抗するものは、プライドしかない。誰が認めなくても、自分が認めればいい。それが虚しいかどうかは関係ない。私も含め、凡百の人間はそれを胸に、今日も些末な仕事に対峙するのだ。それを小説として堪能できるのが、本作の内容。それでも生きろと言われる。何のために? それはもちろん生きるために生きるのだ。
恐怖の種類は違うが、この本の主人公になることを想像してみよう。ゾッとするはずだ。誰だってサラ金の取り立て屋にはなりたくない。でも、そうなる可能性はある。ただ、生きていればそれでいい。そう全肯定してくれる一冊。もし、人生に疲れているなら、ぜひ、沢木耕太郎ではないが、この「敗れざる者たち」(敗れざる者たち (文春文庫)沢木耕太郎/Ama)の物語を紐解いてほしい。
(きうら)