- 希代の絵師がゾッとする方法で描いた「地獄変」の屏風の話
- 芸術と人間の業を鋭く描く
- ホラー的にはむしろお殿様が怖い
おススメ度:★★★★☆
芥川龍之介の著名な作品の一つ「地獄変」。ただ、その内容から、タイトルなどは知られていても小中学校の教科書に載せられるような内容ではないので、中身については良く分からない方も多いのでは。今回はホラー的な視点で紹介してい観たい。
(あらすじ)「宇治拾遺物語」中の絵師良秀をモデルにした、変人の絵師が主人公。この絵師は絵画の腕はいいが、頑固で偏屈で嫌われ者。さらに「見たものしか描けない」ということで、弟子を縛ったりする始末。しかし、この絵師には溺愛している娘がおり、これが殿さまに仕えている。ある時、その殿様に「地獄変」の屏風を描けと命じられた絵師・良秀は、どうしても納得のいく絵が描けず……。
というのが、大まかなあらすじ。有名な話でもあるし、上記のあらすじだけでも勘のいい方なら、だいたいの話の結末が見えるかも知れない。文学作品なので、難しく思われがちだが、読んでみると全く分かりにくいところはなく、いくつかの言葉の意味さえ分かればすんなりと読めるような内容になっている。本の解説にも書かれているが、テーマは「芸術か道徳か」といった内容だ。現代では絶対あり得ない展開だが、古典をモデルに生々しく描写されている。
絵師・良秀が陥る異常な悩みは、恐らくほとんどの人間には共感できないような内容だろう。ただ、著者である芥川龍之介はご存知の通り、1927年に服毒自殺を遂げており、常に観念の中に良秀と同じような悩みを持っていたのではないかと思われる。私は文学者ではないので、類推するだけだが、作家は自ら書いた文章以外に寄るべきものがない。日々、何かの労働に就いて生活の糧を得ていないので、とにかく書いた文章が全て。それを否定されれば、まさに生きる意味を失ってしまう。また、書いた作品すべてが絶賛される作家もいない。作品には己の全てをつぎ込むのが作家だが「どこまで行けばいいのか」という苦悩が強烈に感じられる。
ホラー的には短く読みやすいし、話の展開もスムーズだ。クライマックスも恐ろしく、色々深読みもできる傑作だと思う。個人的には最後に一言もコメントを残さない大殿様の存在が怖い。最初から大殿様は徳の高い人間だと繰り返し述べられているが、それが話の伏線になっている。パブリックドメインになっているので、青空文庫などでも簡単に読めるので、ぜひご一読を。
(きうら)