- タヒチにくすぶる三人組。
- 海に出た三人組のとある計画。
- ある島で彼らが出会う強大な人物。
- おススメ度:★★★★☆
著者のスティーヴンスンは、先日紹介した『ジーキル博士とハイド氏』の作者で、ロイド・オズボーンとは、スティーヴンスンの継子です。一応本書は二人の合作となっていますが、訳者あとがきによると、実質スティーヴンスンだけで書いたもののようです。晩年の著者自身は南洋のサモアに住居を構えていたようです。だからでしょうか、本書には南洋の綺麗な風景が瑞々しく描かれています。
(簡単なあらすじ)タヒチに流れ着いた三人の白人(「タヒチで最もみじめな英語圏の三人組」)が、ある機会を得て、タヒチから出港します。三人の構成は、生真面目でちょっと心が弱いところがあるヘリック、元船長のデイヴィス、元店員のヒュイッシュです。彼らは、ある計画を立て、南米を目指して船を向けたのですが、予期しないアクシデントに見舞われます。行く手の見えなくなった彼らの目の前に、とある島が現れるのですが……。
第一部は、タヒチの浜辺での切羽詰まった生活からはじまり、うまく乗り込んだ船の中での話です。気弱な面もあるヘリックは、自分たちのしでかそうとする行為に気が咎めて逡巡するのですが、タヒチでの身に迫った危機を考え、仕方なくデイヴィスの計画にのります。一方、デイヴィスとヒュイッシュの二人は、乗船した時から、積み荷の酒を飲んだりして、急にいい加減な感じになります。この辺りで、ヘリックと二人の間に悶着が起こったりしますが、本当の懸念は、この後に三人に襲いかかるのです。
第二部では、行く当てのない彼らが到達した島での話です。そこで彼らを待っていたのは、大柄で活力あふれるおそろしい人物でした。この人物の登場のせいで、第一部の三人が、まるで何か悪事を働こうと企む不良の少年たちのように(かわいく)見えてしまいました。三人の不良たちが(ヘリックは、自分はそうとは思っていないでしょうが)、本当の悪を秘めもった大人に軽く掣肘されるような感じです。特にヘリックの気持は、この人物により、潮の満ち引きのように揺れ動きます(後にデイヴィスも)。それは心理の満ち引きのようなものです。
この小説は、特に(ホラー小説のような)怖い所はないです。スティーヴンスン自身が「これは非常に残忍かつ陰惨な話だ」と手紙に書いたようですが、そこが読み取れるかどうかでしょうか。怖い本をオススメするこのサイトの基準にあわせると、決して星4つではないでしょう。肝が冷えるようなものを期待すると肩透かしをくうかもしれません。あくまで、私が個人的に面白く読んだというだけの評価ですので、そこのところご了承ください。
(成城比丘太郎)