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★★★☆☆

応仁の乱(呉座勇一/中公新書) ~ベストセラーを読む(1)、あらましと感想

投稿日:2017年7月17日 更新日:

  • 「ベストセラーを読んでみた」第一段。
  • 「戦国時代を生んだ大乱」という副題。
  • 実際の乱の内容は、様々な勢力が入り乱れて、簡単には図式化できない。
  • おススメ度:★★★☆☆

(はじめに)
今回から「ベストセラーを読んでみた」というシリーズを、「きうら氏」ともども不定期に更新していきたいと思います。私は元来ミーハーで、売れている書籍に対しては特にアンテナを張っていて、今どんな本が売れているか常に気にしています。それらをすべて読むというわけではなく、どちらかというと、なぜそんなに売れたのか、その現象を考える方が好きなのかもしれません。ここで、ベストセラーの定義をしたいのですが、特にこれといったものはありません。一応客観的な数字(売り上げ部数)も参考にしますが、業界的に想定した部数を大幅に上回ったとか、そういう情報なども勘案します。言うならば、こちらの選定は結構恣意的になるかもしれないということです。『聖書』などのロングセラーから、『完全自殺マニュアル』といった世間を(少し)騒がせたものなど、時代や有名無名を問わずに、未だ読んだことのなかったものを中心にとりあげていきたいと考えています。要は、箸休め的なコーナーになるかと思います。

今回取り上げる『応仁の乱』ですが、これは2016年10月初版発行で、2017年5月には約37万部売り上げた(厳密には刷った部数でしょうか)という報道を見ました。ですから今だとおそらく40万部くらいにはなっているでしょうか。これはベストセラーの範疇ではそれほど多い数字ではないでしょう。例えば『バカの壁』(新潮新書)だとこれの10倍くらいです。しかし、中公新書の歴史関係でこれだけの数字はきいたことがありません。しかも読んでみた限りでは、内容はいつもの中公新書クオリティで、決して読みやすいものではありません。そう考えると、これだけ売れたということは、もちろん私のように話題性から手に取った人もいるでしょうが、その多くは歴史好きな人なのではないかと思います。

歴史ファンというのは一定以上いるわけですから、話題性や口コミも手伝ってと考えると、これだけの数字はなるほど出るだろうなと思います。そして、中身は『応仁の乱』という、名前は知っているのに、詳しい内容はほとんど知らないという題材です。そこにこのような一般向けの書物が出版されたら、そりゃ読まれるでしょう。しかし、実際に読んでみても、内容からは、なぜこんなに売れたのかはさっぱり分りません。乱の内情はそんなに単純でも簡単なものでもないというところが、逆に受けたのではないかと、確か報道でも言っていましたが、そういうものかもしれません。

というわけで前置きは措いておいて、内容の感想を少し書きたいと思います。先にも書きましたが、見慣れない人名が多くて、その意味では読みやすい内容ではありません。10年に及ぶ大乱で、京都だけでなく、畿内周辺や西国の勢力の思惑なども加わって、簡単にまとめられません。それでもあえていうと、乱が長引いたのは、細川勝元と山名宗全の二大勢力の一時的な反目に、将軍(足利義政と義視)の争いや、畠山氏・斯波氏の家督争いが絡まりあって、それに関わった諸勢力の独自の思惑もあって、乱の止め時を逸し続けた結果のことだというようです。特に乱の勃発に一番関わったのは、畠山義就(よしひろ)という人物です。義就の上洛が乱勃発の契機のようです。この義就というのがキーマンの一人ですが、彼は、著者が言うには、「戦国大名的な存在」ということで、河内や大和地方を中心に暴れまくったようです。

本書のほとんどは、興福寺僧であった「経覚」と「尋尊」の日記に書かれた乱の様子を基にしているので、興福寺側が乱をどう見ていたかが書かれています。そのため奈良の国人勢力が乱にどう関わっていたのかがみえて、応仁の乱は京都だけのものではない、ということも分かります(もちろん一番荒廃したのは京でしょうが)。

読んでいておもしろかったのは、応仁の乱においてはじめて「井楼(せいろう)」とよばれる物見櫓が登場したり、攻城兵器が使用されたり、足軽が誕生したりと、ここらへんにも戦国時代の息吹を感じました。また、日野富子に関してはそれほどひどいことは書かれていません。富子は、最初は将軍の順番を、義尚ではなく義視で考えていたとか、悪化する幕府財政を支え、「富子は終戦に向けて努力していた」(当たり前とは思うが)とか、決して悪い人物ではないと捉えています。

応仁の乱後は、決してすぐに幕府の力が弱くなったわけではないとのようです。しかし、守護職にある本人が直接任地(守護分国)に赴いて国人衆を統治しなければならなくなるなど、それまでの「守護在京制」は解体されたようです。

はっきり言うと、これを読んで応仁の乱の全貌がはっきり分かったとは言えません。もちろん私がまとめられないところもあるのですが、おそらく新書サイズにおさめるには、ちょっと規模が大きすぎるのでしょう。まあ、少なくとも、応仁の乱はよく分からないくらい複雑だ、ということが読んでみて分かったとだけは言えます。

(成城比丘太郎)

(編者注)ベストセラーという意味では、私が感想を書いた本の半数ぐらいがそれに当たると思っています。ただ、ここでいうベストセラーとは村上春樹氏でいえば「騎士団長殺し」ではなく「ノルウェイの森」までいったベストセラーと解しています。悪戯心で「セカチュー」や「サラダ記念日」の感想を書きたいと目論んでいます。



応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書) [ 呉座勇一 ]

-★★★☆☆
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